第19話 カイルの暴走
フィーの部屋にやってきて、僕はドアノブに手を掛ける。
その瞬間、電撃のようなものが走った。
「うっ……あ、アアアアアアアアア!?」
激しい痛みにのたうち回りそうになる。
ドアノブに触れた瞬間、記憶が流れ込んできたのだ。
「フィー……そんな……」
ドミニクによって薬品漬けにされ嬲られるフィー。
やがて彼女は快楽に支配され、ドミニクの奴隷として過ごすことになり、飽きられたドミニクに捨てられる。
そんな光景が見えてきた。
数あるフィーの末路のうちの一つなのに、まるで本当に目の当たりにしたかのようなリアルさだった。
「そんな目には遭わせない……!」
目端から流れる涙を拭い、ドアノブに手を掛ける。
しかし、ドアノブはいくら回そうとしても回らず、固着されている。
僕は剣を抜くと、ドアの破壊を試みる。
それでもダメなら、隣の部屋へ……
僕は窓から外に出て、壁伝いに侵入を試みる。
「クソッ……なんでこんなに思い切りがいいんだ、ドミニクのやつ」
村に来て初日で行動を起こすというのは、少なくとも僕の記憶の中では異例のことだった。
カイルのことといい、この世界は勝手が違いすぎる。
僕は若干の苛立ちを感じながら窓から侵入し、ドミニクを伸す。
仮にも相手は王族だが、もはや後のことを考えている時間はなかった。
「ひ、ひい……」
気絶したドミニクを見て、妹のエーファが腰を抜かす。
恐らく、ドミニクに協力させられてたのだろう。
エーファは魔力量は高いが、魔術の才能に欠ける……というか防音や扉の封印といった、地味な魔術師か扱えないため、ドミニクから徹底的に見下され、奴隷のように扱われてきたのだ。
そのせいで、いつもおどおどしており、今も僕相手に怯えているのだろう。
「今の物音は何だ!?」
その時、音を聞いたエドワードさんたちが駆けつけた。
「ふわぁ……なんの音なの……?」
そして、フィーまで起き始める。
睡眠剤を盛られたはずなのに、もう効果が切れたのか。
だが、状況が理解できず、呑気にあくびをしている。
「レ、レオンくん、これは一体……どうして娘の部屋に……」
「それは……」
ドミニクの方に視線をやると、エドワードさんもつられて視線を動かす。
数々のいかがわしい道具の数々に、下半身を露出させたそのみっともない格好から、エドワードさんは全てを察したようだ。
「イライザ様……説明していただけますかな。いくら王子殿下とはいえ、これは流石に……」
「それは……」
イライザが言葉に窮する。
なんだろう。彼女も困惑しているようだ。
確かに、今回のドミニクの行動は性急すぎたが……
「クソッ……一体何が……」
ちょうどその時、今回の騒動の元凶であるドミニクが目覚めた。
「ドミニク……これはどういうことですか?」
「は、母上!? それに……こ、これは……違くて……」
流石にまずいと思ったのか、ドミニクは弁解を試みるが、流石に無理な状況だ。
そして、しばらくして……
「ク……クソ……貴様が、貴様がぁアアアアア!!!!」
逆上したドミニクが護身用の短剣を抜いて襲いかかってくる。
だが動きが遅すぎる。
僕はため息を吐くと、剣を抜いて、ドミニクを制圧するのであった。
*
フィーが襲われそうになった翌日のことだ。
ドミニクの罪は白日の下に晒された。
だが、相手は王族。逮捕し、裁判をすることはできない。
それがこの王国の法だ。おかしいとは思うが、こればかりはどうしようもない。
「殺す……レオン、必ず貴様を……」
今回の件で、僕は特大の恨みを買ってしまった。
そもそもが彼の浅はかな行動が原因なのに、逆恨みにも程がある。
さて、処罰することのできない危険な存在をどうするべきか。
「ドミニク兄様。今日からここがあなたの暮らす場所です」
答えは簡単だ。側で監視すればいい。
僕は母上に頼んで、この危険な存在を屋敷に住まわせることにした。
「ふざけるな……どうして貴様なんかと……」
ドミニクが凄んでみせるが、所詮は小悪党だ。
気にかけるほどではない。
「ドミニク兄様、あなたにはこの地方を統括するという、国王陛下から与えられた役目がございます。でしたら、この屋敷に住んでいただくのが良いかと」
彼らが村にやってきたのは、彼がシルヴァンホロウとその周辺地域の総督の任を受けたからだ。
帝国は我が国を属国にこそしたが、その見返りとして王政の維持、そしてこの国の王族に強い権力を与えることを承認した。
装して王族を懐柔し、安全に王国を統治しようとしているのだ。
そのせいで彼らを村から追放することができず、屋敷で監視せざるを得なくなったのだが。
「殿下、昨日のことは既に聞き及んでおります。王族にあるまじき珍行……二度とそのような卑劣な考えが浮かばぬよう、イライザ様より鍛え直して欲しいと頼まれました。これからは私の指導のもと、厳しい修行に取り組んでいただきます」
想定外のことと言えばもう一つ。イライザのことだ。
原作では彼女は、王位に強く固執しており、息子であるドミニクを溺愛し、なんとしても王位に就けようと策謀を巡らせてきた。
しかし、昨晩のことは彼女にとっても想定外で、激しくドミニクを叱責したかと思うと、正式に謝罪をし、母上にドミニクを預けることを承認したのだ。
原作のイライザは王族の一員であることを笠に、ドミニクを擁護するのだが、ここもなんだか様子が違う。
とはいえ、おかげで話はスムーズに進んだ。
「セ、セレナ殿! どうかよろしくお願いいたします!!」
一方、母上に冷たい視線を送られたドミニクは、頬を赤らめている。
マジか……こいつ懲りずに母上に……
僕はその節操のなさに怒りが湧き上がってくる。
そしてドミニクを客室に案内する道中――
「母上に手を……いや、わずかでも下心を抱いたら殺す」
「ひっ」
僕はドミニクにしっかりと言い含めておくのであった。
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