第13話 覚醒
「我は魔人だ……惰弱な人間の……それも子供などに首を取られてたまるものか……」
禍々しい瘴気がまとわりつき魔人を変質させていく。
筋肉が異常に発達していき、甲殻虫を思わせる全身の突起物や爪はより鋭利に獰猛に……
魔人は得体の知れない力で全身が強化されるのであった。
「さあ。改めて戦うとしよう。今度こそ、どちらかが果てるまでな」
それからの戦いは一瞬で、一方的であった。
「かはっ……」
「レオン!!」
フィーの叫び声を聞きながら、僕は血を吐いて地面に倒れ込む。
わずか数分の戦いだ。
そこにあったのは、鍛えた剣術など、一切意味を持たないほどに圧倒的な暴力であった。
僕の全身の骨と筋はズタズタにされ、既に剣を握ることすら出来なくなっていた。
「こ、こんな……こんなにも力の……差が」
そのあまりの力の差に絶望する。
先ほどまでは、まだ人の手でも対抗しうるほどだったが、今の魔人には勝てるビジョンが全く見えなかった。
それこそ、母上ほどの腕がなければ、勝ち目など無いだろう。
しかし、母上はここにはいない。恐らくは、あの無数に湧き続ける魔獣の群れと今も戦っているのだろう……
「ど……すれ……ば……」
全身の痛みと出血で意識が飛びそうになる中、僕はなんとか打開する方法を考える。
「手段など、既に無い」
魔人が僕の背に剣を突き立てる。
「がぁあああああああああああ!!!!!!!!」
その激痛を前に、僕は気をやりそうになる。
血が止めどなく溢れる。魔人の無慈悲な一撃で、僕は死を待つだけの身となる。
――フン。何トイウ体タラクだ。
その時、頭の中に声が響いた。
この不快感、実に久々の感覚だ。
かつて僕は、この声に呑まれて魔力を暴走させかけたが、剣術の修行に打ち込んでからは一度もこの声を聞いたことはなかった。
すっかり、消え去ったものだと思ったが……
――バカヲ言ウナ。我ト貴様ハ一心同体。ドレホド拒絶シヨウト貴様ハ逃レラレン。
直後、僕の体から瘴気が噴き出てくる。
――貴様ニ死ナレテハ困ル。
先ほどまでの怪我が急速に治癒されていく。
ほとんど致命傷だったはずだが、程なくして傷は消え去った。
――分カッタダロウ? 貴様ニ選択肢ハナイ。今度コソ我ヲ受ケ入レヨ。サスレバ、アノ女ヲ守ル〝力〟ヲ与エテヤロウ。
それは甘言だ。
本能的に分かる。この声に従うべきではないと。
「フハハハハ……なんとも、なんとも奇妙なものだ。よもや貴様のような幼子が〝器〟だとは」
その時、魔人が突如として笑い出した。
何がおかしいのかはわからないが、どうやら目の前の魔人は、この力を知っているようだ。
「だが、まだ完全に覚醒しているわけではないようだな。であれば……」
直後、魔人がフィーに視線をやった。
嫌な予感がして、僕は咄嗟にフィーを庇うようにして魔人に切り掛かった。
「致命傷を与えたはずが、もう塞がっているとはな。さすがは〝器〟か。だが、その未熟な状態で、どうする?」
今は互いに切り結んでいるが、魔人の力は圧倒的だ。
このままこう着状態というわけにはいかない。
――サア、決断セヨ。迷ッテイル暇ナド無カロウ!
わかっている……ここでフィーを失うわけには……
フィーの命が懸かっている以上、ここでこの声を拒否することなどできない。だが……
――あなたは胸を張って、あなたの人生を生きるべきよ。そのための術は、私が全て叩き込む。
ふと、母上の言葉が頭の中をよぎった。
そうだ。僕は、こんな声に惑わされないために、今まで……
――馬鹿メ。何ヲ血迷ッテイル。アノ女ガ死ンデモ良イトイウノカ?
「うるさい!! 黙れ!!」
僕は大きな声を張り上げる。
いいかげん、勝手に喋り出すこの声にも飽き飽きしてきた。
――生意気ナ……貴様ハ器。我ノ所有物ニ過ギン。
違う。
この体はお前なんかのものじゃない。
そう強く思った瞬間、僕の全身から蒼い炎が湧き上がった。
「何だと!?」
魔人がたじろぎ、後退る。
「これは……母上の……」
以前、見せてくれた母上の力だ。
それは僕を包む瘴気を次々と焼き払っていく。
――バ、馬鹿ナ。我ノ力ガ吸イ取ラレテ……
「ガンガンガンガンと頭の中で響いて……うるさいんだよ!!」
そう叫ぶと、身体中の瘴気が蒼炎と共に吹き出していくのを感じた。
僕はそれを振り上げた剣に纏わりつかせていく。
炎は少しずつ僕の剣を溶かし、新たな姿へと生まれ変わらせる。
「この体の持ち主は僕だ。力を貸すのは……お前だ!」
――フザケルナ!! 貴様ハ我ノ……我ガ血ノ!
「違う……僕は……母上の……」
一歩、一歩と前へと歩み出す。
これまで培ってきたすべての力をこの一撃に込める。
「クッ……」
魔人が剣を構えて防御の姿勢をとる。
だが、それは無意味だ。
「僕は……騎士セレナの子だあああああああああ!!!!」
裂帛の気合いと共に、大剣から伸びる巨大な火柱を目の前の敵に叩きつける。
全身から湧き出るあらゆる力を注ぎ込んだ一撃だ。
やがて火柱が地面に叩きつけられると、凄まじい爆発を引き起こすのであった。
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