第8話 暴走
修業を受ける中、僕はある疑問を抱いていた。
母上がなぜ、魔力操作について教えてくれないかだ。
僕はそれが気になって、タブレットで魔力について調べてみた。
色々な情報を眺めてみたが、やはり幼い頃から魔力制御の術を学ぶことが望ましいと書かれていた。
だから僕は、修業の終わりに思い切って母上に尋ねてみた。
「母上、どうして僕には、カイル達のように魔力を制御する術を教えてくださらなかったのですか? 幼少期から訓練するのが望ましいんですよね?」
だが、母上からの返答は淡々としたものだった。
「前にも言ったでしょう。あなたにはまだ早いからよ」
その答えに納得がいかなかった。
このまま精神修行だけこなしていても何の意味もない。
そこで僕は、独学で魔力制御を学ぼうとした。
だがタブレットから得られる情報には限界があった。
――一日で賢者級の魔力が身につくトレーニング法。
そんなものがあれば、この国は大魔法使いだらけだ。
――貴族が隠している魔力訓練の真実。
どうして世界に隠された真実系の話題は、どこでも人気なのだろうか。
――この広告は一度きりしか表示されません。スキップする前に五分だけでいいのであなたの時間をください。
嘘つけ。この広告を見たのは二度目だぞ。
――魔力制御についてまとめてみましたが、いかがでしたか?
こういったサイトは、検索エンジンの上位サイトの情報を適当にまとめているだけらしい。
ダメだ。
世界が変わっても、ネットに溢れるのはゴミ情報ばかりだ。
誤った知識で魔力を引き出そうとするのは危険な行為らしい。
それだけはどこのサイトや動画にも書かれていた。
やはり、もっと正確な情報にあたるべきだ。
そこで僕は、フィー達を頼ることにした。
二人は幼い頃から魔力の扱いを両親に叩き込まれていたそうだ。
彼女達から学べば、僕にも魔力が制御できるはずだ。
僕は修行終わりに、村へ帰る二人を引き留めて、尋ねてみた。
「魔力の制御か。教えるのが難しいんだよな」
「カイルは勉強はからっきしだからね。レオンを見習った方がいいよ」
「余計なお世話だって!」
座学が苦手なカイルに代わって、フィーが魔力制御を教えてくれることになった。
そういえば、僕が生まれた日、彼女は光の魔法で僕を鎮めてくれた。
それだけ彼女は魔力の扱いに長けているのだろう。
「魔力を操るのは息を吸うのに似てるんだよ。私たちの身体には霊子炉っていう器官があって、普段は無意識に外から魔力を取り込んでる。だけど、意識をすれば体内に溜め込む魔力を何倍、何十倍にも増やせるの」
それから僕は魔力というものを知覚し、意識的に操るコツを学ぶ。
どうやら僕には才能があるようで、すぐに体内にある魔力の気配を掴むことができた。
まるで自分の体の中に、二つ目の肺があるような感覚で、そこに意識を伸ばすと、ブヨブヨと何かが蠢く。
このブヨっとしたものこそが魔力らしい。
僕はそれを手のひらの先に集め、光の玉にして浮かび上がらせる。
周囲を光で照らすというもっとも基本的な魔法の一つだ。
「嘘だろ……たった一日で?」
驚いたような表情を浮かべるカイルを目にして、幾らかの優越感が湧いてくる。
わかりきっていたことだが、僕はフィーの婚約者であるカイルに対して、心のどこかで対抗心を抱いているようだ。
「すごい! すごい! 私だって一ヶ月掛かったのに、もうできちゃうなんて!!」
フィーはまるで我がことのように喜び、僕の頭を撫でていく。
今でも弟扱いは変わらないが、やはりこうして彼女に褒められるのは心の底から嬉しくなる。
それだけに、僕とフィー、そしてカイルの関係に対して、複雑な想いが湧いてくる。
――イツマデソウシテ、良イ子ヲ演ジテイル? 貴様ノ本性ハ、ソレホド利口デハナカロウ?
っ……まただ。
また、頭の中に声が響く。
それは、僕の今の在り方を嘲笑し、僕の心の奥底にある、昏い気持ちを無理やり掘り起こそうとする。
僕はその苦痛に耐えかねて、膝をついてしまう。
「レオン!?」
フィーたちが駆け寄ってくる。
――ソノ男ガ目障リナノダロウ? ナラバ、消シテシマエバイイ。ソレダケノ力ハ既ニ備ワッテイルハズダ。
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。
確かに、僕は生まれた時にこの声に従い、父を貴族達を手に掛けようとした。
だが今の僕は、フィーによって引き戻され、充実した日々を歩み始めている。
今更、こんな声に振り回されるわけにはいかない。
――ソノ強ガリガ、イツマデモツカナ?
だが、僕の意思に反して、声はどんどん大きくなっていき、僕の心を黒く塗りつぶそうとする。
同時に、手に持っていた光の玉が、おどろおどろしい闇へと変化していく。
「フィー、君の力でどうにか出来ないのか!?」
「も、もうやってる……だけど、なんだか昔と違って……」
かつてのように、フィーは聖女の力でもって、僕の中の闇を鎮めようとしてくれている。
しかし、あの時とは違って、フィーの力がうまく働かないようだ。
――己ガ心ニ正直ニナレ。痩セ我慢シテモ仕方ナカロウ。
僕の身体を食い破ろうと、何かが噴出しようとする。
なんとか抑えようとするが、やはりうまくいかない。
「フィー……カイル……逃げて……」
ともかく二人を引き離すしかない。
僕は二人に逃げるよう促す。
しかし……
――逃ガサン!
時既に遅く、僕の制御を離れた何かが湧き出し、黒い触手となってカイルに襲いかかる。
「レオン……!」
直後、首の後ろに凄まじい衝撃が響いた。
そのあまりの衝撃に、僕は徐々に意識を手放していく。
そして意識が完全に途絶える寸前、赤い髪の母上の姿を見た。
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