表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/97

95*

「な・・・っ」


エリーゼに今までの所業を許す気は無いと言われ、ライナスは絶句した。顔を上げて、エリーゼを見入った。真っ青な顔をしている。俺も青くなった。そう言えば、以前、妃になったら俺の側近を全員左遷してやるって言っていた・・・。


「わたくしは根に持つタイプですの。相手が悪かったですわね」


エリーゼはフンッと顔を背けた。


これは困った。ライナスは俺の右腕で使える男だ。それに俺の大切な友人でもある。

単純な所があるが、真っ直ぐな男で、根は良い奴だ。そこを分かってもらえるように俺からも働き掛けないと・・・。


そんなことを考えていると、再びエリーゼの声が聞こえた。俺はそっと二人の様子を覗く。


「ですから、わたくしに許して欲しければ、言葉ではなく態度でお示しくださいませ」


「態度・・・?」


「ええ。誠意をお見せなさいと申し上げているのです」


ライナスの呟きに、エリーゼは大きく頷く。


「これから先ずっと、レオナルド殿下に心からお仕え下さることです。臣下としてだけでなく、時には良き友人として、公私共に殿下をお支えくださることですわ。どんなことがあっても、殿下を裏切ることなくお傍にいて。信頼している人に裏切られることほど辛いことはありませんから」


「そんなこと・・・っ、当たり前ではないか!? 何を言って・・・」


「当たり前のことが、突然、そうではなくなることがあるのです!」


ライナスの言葉をエリーゼが遮った。


「当たり前でない世になっても、殿下のお傍を離れないことですわ。そんな誠意を見せて下さったら、わたくしは貴方を許しましょう。そうですわね、結果はわたくしの今際の時にでもお伝えしましょうか?」


エリーゼは挑発するように軽く首を傾げて見せた。ライナスはキッと彼女を睨んだ。


「貴女も・・・、貴女もその覚悟はお有りか? 当たり前の世でなくなっても、レオナルド殿下のお傍から離れないと・・・?」


「当然です。レオナルド殿下の妻になると決めた時から、わたくしの命はあの方の物です。この身も心も全て。頭の先からつま先まで、それこそ髪の毛一本さえも、全てあの方の物ですわ。一生お傍から離れません」


エリーゼは力強く答えた。まったく迷いのなど見せない。しっかりと真っ直ぐライナスを見つめている。

短い沈黙の後、ライナスはエリーゼの前におもむろに跪いて、首を垂れた。


「きっと、期待に応えてみせましょう、エリーゼ嬢。必ずや貴女の許しと信頼を得てみせます。今際なんかよりもずっと早くに!」


「せいぜいお励みなさいませ。わたくしの評価は厳しくてよ?」


「ああ。承知した」


ライナスは頷くと、立ち上がった。そして、軽く礼をすると、踵を返し、向こうに歩いて行った。


俺はと言うと、片手で口元を押さえ、その場にへたり込んでしまった。エリーゼの言った言葉が、あまりにも衝撃的だったのだ。体中が熱く、心臓がトクントクンと鳴ってうるさい。


『わたくしの命はあの方の物です。この身も心も全て。全てあの方の物です』


はっきりとそう言った。あのエリーゼが!


「良かったですね、殿下。殿下の一方通行ではなくて」


頭上から声がする。見上げるとアランがにっこりと微笑んでいた。


「アラン・・・、いつからそこに・・・?」


「あ! エリーゼ様が行ってしまいますよ?」


アランの言葉に俺は慌てて立ち上がった。急いでエリーゼを追いかける。


「エリーゼっ!!」


「あら、殿下。もう先に行っていると思っていまし・・・うぐ・・・っ」


俺は振り返ったエリーゼに向かって飛び掛かるように抱きしめた。


「ちょ、ちょっと、どうなさったの!?」


エリーゼは困惑気味に俺の背中をトントンと叩いた。


「エリーゼ! エリーゼ! エリーゼ!」


俺は構わずギュッと彼女を抱きしめた。


「愛してる! 愛してる! エリーゼ!」


「な・・・っ!」


「愛しているよ、心から!」


―――愛している。


この言葉をストレートにはっきりと口にして伝えたのは初めてだ。

言いたくても気恥ずかしくて、つい口元で止まってしまったこの言葉。違う言葉で遠回しに伝えていた想い。今は、信じられないほど自然に口からほとばしる。


「わ、分かりましたから、殿下! ちょっと、離して! ここ、廊下ですわよっ!」


「嫌だ! 離さない! 愛してる!」


「ちょ! 何言って・・・、んんっ・・・」


俺はエリーゼの顎を掴むと、彼女の唇に力強く口づけた。

驚いたエリーゼは、バシバシと俺の身体を叩いたが、俺は彼女を離さなかった。


終いには彼女も俺を受け入れてくれた。俺の背中に手を回し、ギュッと抱きしめてくれた。

何度も交わすキスに、幸せ過ぎて身も心も溶けそうになる。


俺の方こそ、身も心も全てお前の物だ。


俺たちが抱き合ってキスをしている間、不思議と誰も人が通らなかった。

後で知ったが、アランがこの廊下を通行止めにしてくれていたらしい。本当に良く出来た部下だ。



エピローグへ続きます。

あともう一話お付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ