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ブランコに腰掛け、俺の膝の上に座っているエリーゼに、もう何回キスをしたか分からない。
俺を受け止めてくれるのが嬉しくて、触れるようなキスだが、何度も繰り返した。
本当ならこのまま自室に連れて行ってしまいたい・・・。
そんな欲望にかられるが、俺にはその前にしっかりとけじめを付けないといけないことがある。
俺は名残惜しく思いながらも、そっとエリーゼから唇を離した。エリーゼと見ると、顔を高揚させ、うっとりとした表情をしている。その可愛らしい顔に軽く眩暈を起こしそうになるが、グッと堪えて立ち上がると、エリーゼを一人、ブランコに座らせた。エリーゼは不思議そうにコテンと首を傾げて俺を見上げた。
く・・・っ、可愛い・・・。耐えろっ、俺!
正面から抱きしめたくなる衝動を抑え、俺は彼女の前に跪くと、右手を胸に当て、首を垂れた。
「エリーゼ。エリーゼ・ミレー嬢。どうか、俺と・・・、私と結婚してください。これからの人生、貴女と共に歩みたい。愚かなで未熟な私だが、もっと精進して、貴女の隣に立っても恥ずかしくない男になってみせる。貴女を一生大切に幸せにすると約束する。だから、どうか、私と結婚してください」
俺の一世一代のプロポーズ。俺はエリーゼの返事を待った。
しかし、しんと静まり返ったまま、何の返事もない。
まさか、NOなのか!? そんな!! 唇を許しておいて?!
人を好きになる気持ちが分かったって、恋する気持ちが分かったて言ったのに?
あれって俺じゃなかったとか?!
俺は恐る恐る顔を上げた。
エリーゼは目を皿のようにまん丸にして、固まっていた。
「エリーゼ・・・?」
俺の声に、エリーゼはハッとした表情を見せた。
「し、失礼しました・・・。ちょっと驚いてしまって・・・」
ふぅと深呼吸すると、ゆっくりと立ち上がった。そして俺を見下ろした。その顔はちょっと勝ち誇った表情をしている。
「プロポーズ上等! お受けいたしますわ」
そう言って、俺に右手を差し出した。俺は恭しくをその手を取ると、そっと甲に口づけした。
再び顔を上げてエリーゼを見る。その顔は花のように優しい笑顔だった。
☆彡
「ねえ、殿下。婚約者に戻って差し上げたわけですし、早速ですが、わたくしのお願いを一つ聞いて下さらない?」
俺はエリーゼの手を握ったまま立ち上がった。
「お願い? 何だ?」
「お願いと言うより、約束だわね。近い内に、わたくしとの約束を果たして頂きたいの。すぐじゃなくてもいいですわ。でも、真冬にならないうちに。寒過ぎると流石にちょっと辛いもの・・・」
「??? だから何だ?」
首を傾げる俺に、エリーゼは悪戯っぽく微笑んだ。
「焼き栗です。今度一緒に食べようっておっしゃったでしょう?」
「あ! セントラルパークの焼き栗か!」
俺も思わず笑顔になる。
セントラルパーク! あれはとても楽しかった! 今思い返せば、あれはエリーゼとのデートだったじゃないか! あの時は二歳児の姿だったせいで俺がエスコートされていたが、今度は俺がしっかりと彼女をエスコートしなければ!
姿を変化させられ、辛い時期だったはずなのに、こんなにも楽しい思い出となっているのは、すべてエリーゼのお陰だ。
「よし! 今から行くぞ!」
「え? は? い、今から?」
エリーゼは目を見張った。
「ちょっと、殿下! 今はお茶会の最中ですわよ? しかも、王室主催の! ホストである王子がいなくなってはダメでしょう!」
「兄上が主催のお茶会だから大丈夫さ。それに、もう抜け出しているじゃないか」
「あ、確かに・・・」
「な? 今更だ」
俺たちはお互い顔を合わせると、同時にニッと笑みを浮かべた。
子供の頃―――まだ、それほど険悪な状態でなかった頃、俺たちは意見が一致するとしっかりタッグを組んでいた。特にちょっとした悪戯なんかは・・・。
変わっていない俺たちの間柄に、安堵と幸福感が腹の底から湧いてくる。
「行こう!! エリーゼ!」
「はい!」
俺たちはしっかりと手を繋いで、城の裏門の方へ向かって走り出した。




