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「ちょっと・・・、殿下・・・」


私が連れて来られたのは、明らかに特別仕様の二人掛けの丸テーブル。他のテーブルとは別格とばかり花が美しくデコレーションされている。対となる向かい側には、このテーブルよりもさらに立派な飾りつけのテーブルがある。恐らく、あそこはフェルナン王太子とレイチェルお姉様の席だろう。


それ以外は基本自由席。バランスよく丸テーブルが配置されている。


「なんだ?」


レオナルドはシレッと答える。


「なんだじゃなくて・・・。膝の上から降ろして下さらない?」


私が困惑しているのは、何も特別仕様のテーブルに通されたからではない。レオナルドに横抱きにされ、膝の上に座らされているからだ。


「嫌だ」


「椅子があるでしょう! なんで殿下の膝の上に座らなければならないの?!」


「だって、離したらお前は逃げるかもしれないからな。それに」


レオナルドは意味ありげにニッと笑ったかと思うと、テーブルに並んでいるたくさんのスイーツの中から一つの皿を取った。


「やられたことをやり返すって言っただろ?」


そう言って、選んだチョコレートケーキをフォークですくうと、それを私の口に近づけた。


「ほら、『あーん』しろ」


「はあ!?」


「ほら、早くしないとクリームが顔に付くぞ」


「ちょっと! 皆が見てますわよっ!」


「気にするな。ほら、あーん」


「くっ・・・」


何たる屈辱! しかし、迫って来るケーキをこれ以上拒否していたら確実に顔が汚れる! 私はキュッと目を閉じて、口を開けた。口の中に甘いチョコレートの味が広がる。


「美味し・・・」


「だろう? 我が王室のシェフは王都の高級有名店と引けを取らないからな!」


レオナルドはさっきの少し意地悪な笑みと違い、嬉しそうに笑った。その笑顔に私の心臓はキュンと音を立てる。


「ほら、もう一口」

「もう結構! 後は自分で食べます。離してちょうだい!」

「ダメだ。ほら、あーん」

「う・・・。むぐ・・・。美味し・・・」

「こっちの杏子のタルトも美味いぞ。ほら」

「だから! もう結構って・・・もぐ・・・、あ、本当!」

「な?」


そんな私のやり取りを、後を追ってきたレベッカ一行は目が点になって見つめていた。

しかし、途中から我に返ったのか、見るに堪えなくなったのか、レベッカがツカツカッと私たちのテーブルに近づいてきた。


「レオナルド殿下! これは一体・・・」


「やあ、皆さん、今日は来てくれてどうもありがとう!」


レベッカの声は一人の男性によって遮られた。

会場にいた皆が一斉にその声の主の方へ振り向くと、姿勢を正し、頭を下げた。


一人の男性が軽く片手を挙げ、神々しいまでのオーラを放ちながら、こちらに向かって歩いてくる。その美しく端正な顔は優しく微笑み、その弧を描いた口元からは白い歯をキラリと光らせている。

隣にはその男性に引けを取らないほどの美しい女性が、彼の腕を取り、優雅に歩いている。


フェルナン王太子と婚約者のレイチェル嬢のお出ましだ。



☆彡



「ああ、諸君。そんなに畏まらないでくれたまえ! 今日は気楽なお茶会のつもりなんだから」


周りににこやかな笑顔を振り撒きながら、フェルナン王太子はゆっくりと私たちのテーブルにやって来た。


レオナルドは挨拶するべく席を立った。驚くことに私を横抱きにしたまま。


〔ちょっと! 殿下! 降ろして!!〕


私は目を剥いて、レオナルドの胸を叩いた。

しかし、レオナルドは私を完全無視。傍に来た兄に頭を下げた。


「兄上、このままご挨拶する無礼をお許しください。こいつ、離すとどこかに行ってしまうので」


「あはは! 仲睦まじくて何よりだ! エリーゼ嬢、ご機嫌いかがかな?」


王太子はニコニコと笑いながら、真っ赤になっている私の顔を覗き込んだ。私は何と答えてよいか分からず、助けを求めるようにレイチェルお姉様を見た。お姉様は顔を背け、肩がピクピク震えている。必死で笑いを堪えているようだ。


ちょっと! 笑ってないで助けてよ!


私の念が通じたのか、レイチェルお姉様は隠れるように笑い過ぎて溢れた涙を拭くと、そっとフェルナン王太子の袖を引っ張った。

王太子はそれに気が付くと、


「二人の邪魔をしてはいけないね」


そう言って私たちに片目を閉じると、クルリと振り向き、大げさに両手を広げた。


「さあ、諸君! 秋もそろそろ終わる。冬が近づき外はもう寒いが、ここはこの通り温かい! 厳しい冬が来る前に、この一時を楽しんでくれたまえ!」


王太子にそう言われ、野次馬たちは退散するしかなかった。

皆、それぞれ思い思いの席に向かう。


一人だけその場を動かない令嬢がいた。レベッカだ。


「レオナルド殿下・・・」


レベッカは青い顔をしたまま、私たちの方へ近づこうとした時、


「クロウ家のお嬢様、レベッカ様とおっしゃったかしら? とても素敵なドレスですわね?」


レイチェルお姉様がレベッカに背後から声を掛けた。レベッカは慌てて振り返り、レイチェルお姉様にお辞儀をした。


「恐れ入ります・・・」

「どちらのデザイナー? 折角ですから、あちらの席でご一緒しませんこと?」

「え・・・、えっと・・・」

「お嫌?」

「と、とんでもございませんっ!」


未来の王太子妃にお茶に誘ってもらえるなんて光栄だ。通常の貴族令嬢に断るという選択肢は無い。レベッカは他の令嬢の羨望の眼差しの中、レイチェルお姉様にスゴスゴと連行されていった。



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