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「オペラ座で偶然お会いした以来ですわね。お元気でした?」


私はレベッカに向かってにっこりと微笑んだ。

彼女は自分の背後に数名の令嬢を引き連れていた。彼女たちも好奇の目で私を見ている。

レベッカは扇で口元を隠し、私に一歩近づいた。


「貴女がどうしてこのような場にいらっしゃるの? 婚約破棄をされた身で。この場にはそぐわないと思いますけれど?」


私の挨拶を無視し、小馬鹿にしたように目を細めた。


「どうしてと聞かれましても・・・。フェルナン王太子殿下から招待状を頂戴いたしましたので」


私は可愛らしくコテンと首を傾げて見せた。


「そうでもない限り、わたくしが来るわけがないでしょう?」


「そうだとしても!」


レベッカはパチンッと音を立てて扇を畳んだ。


「辞退するべきではございませんこと? 恥ずかしくはないのかしら? 鋼の神経をしていらっしゃるのね、貴女って」


「そうですわね。普通の人よりも神経が数センチ太いことは自覚しております。レベッカ様と比べても引けを取らないと思いますわ」


「な!」


「それよりも、王太子殿下からの招待を無下に断ることなんてできませんわよ。不敬ではないですか。いくらわたくしがレベッカ様と同じくらいの神経を持っているからと言って、流石にそれは憚られますわ。それとも、レベッカ様がわたくしの立場だったら、王太子殿下の招待をお断りになるの? もしそうであれば、わたくしよりも数倍太くてお強い神経ですわ。わたくしの負けね。全然悔しくは無いけれど」


ニッと口角を上げてレベッカを見据えた。

彼女は扇を握りしめる手が怒りでフルフルと震えている。


「な、なんて、失礼なの!? 貴女の方がよっぽど図太い神経しているじゃない! お召し物が物語っているわ! 婚約者でもないくせに、レオナルド殿下の髪の毛と瞳の色を身に付けるなんて! ねえ? 皆さま、そう思いませんこと?」


レベッカは自分の取巻きに振り向いた。取り巻きの令嬢たちは、最初こそ私を蔑むような目で見ていたが、レベッカに噛みついた私を見て少し腰が引けていた。しかし、彼女に声を掛けられ、ハッとしたように皆で顔を見合わせ頷いた。


「ほ、本当に! 何て未練がましいのかしら?」

「図々しい」

「益々、殿下に嫌われるのではありません?」

「その色はレベッカ様の方がお似合いですわ」


口々にそう言ってレベッカに加勢した。

ちなみに、彼女の今日の装いは、濃いグリーンに金の刺繍やリボンをあしらったドレス。フリルやリボンが多い割には可愛らしくなり過ぎない落ち着いたデザイン。とても素敵なドレスだ。それは褒めて上げてもいい。


周りの援護をもらい、気を良くしたレベッカは、私を見てフフンッと笑うと閉じた扇を自分の口元に添えた。


「今からでも遅くはないですわ。お帰りになった方がよろしいんじゃない? これ以上惨めな思いをする前に」


だから、王太子からの招待なんだって何度言ったら分かるのだ? アホなのか? こっちは帰りたくても帰れないって言うの! 


私は目を半目にしてレベッカを見つめた。


「エリーゼ!!」


その時、大きな声が聞こえたと思うと、周りの野次馬を掻き分けるようにレオナルドがやって来た。



☆彡



「エリーゼ!」


「殿下!!」


私の名を呼んだのにもかかわらず、レオナルドに答えたのはレベッカ。彼女はレオナルドの傍に可愛らしく小走りで駆け寄った。


「やあ、レベッカ嬢。ごきげんよう。今日は楽しんでいってくれ」


「はい!」


レベッカはレオナルドの腕を取ろうとしたが、レオナルドは立ち止まることなく、ツカツカと速足で私のもとに向かってくる。レベッカは慌ててレオナルドを追いかけた。


「エリーゼ! なんでこんなところにいるんだ!?」


私の前で立ち止まると、腰に手を当て、怒った顔を見せた。

その様子を見て、レベッカはレオナルドの後ろでクスッと笑った。


「ホント、エリーゼ様のいる場所ではないのに・・・」


ボソッと聞こえよがしに呟く。それを聞いて、取巻きの令嬢たちもクスクス笑った。

レオナルドはそれらを無視したまま、私を睨みつけている。


大人に戻ってしまった彼は私より背が高い。この前までとは逆転。こちらが見下ろされている。スラリして、引き締まった体格。髪の毛もすっかり元の金髪に戻っている。

久々に見る大人の姿の彼に、ジッと見つめられ、私の心臓がトクンと鳴った。私は咄嗟に自分の胸を押さえた。


「悪目立ちしないように隅にいただけですわ」


私はプイッと顔を背けた。


「・・・。もしかして、俺から隠れていたつもりか・・・?」


ギクッ―――。


図星を突かれ、私は肩がピクッと揺れた。レオナルドはハァ~と呆れたように溜息を付いた。その溜息に、レベッカは再びクスッと笑う。


「そんなことをしても無駄だ! 俺はお前がどこに居ても見つけ出すぞ!」


「!!」


レオナルドの言葉にピョンと軽く心臓が跳ねる。頬がポッと熱くなった。私は赤くなった頬を隠すため、慌てて扇を広げて顔を隠した。


「怖っ! 軽くストーカー入っていますわよ、その言い方!」


気持ちを誤魔化すために、つい、可愛げのない返事をしてしまう。


「とにかく、お前のいる場所はここじゃない!」


レオナルドは私の腕を掴むと、ズンズンと歩き出した。野次馬は興味津々で私たちの後を目で追う。


「ふふ、お気の毒。追い出されるんだわ」


背後から、大いに勘違いをしているレベッカの声が小さく聞こえた。



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