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ロベルトの母が城を追われただけで済んだのは、一重に陛下の温情。自分の過ちが招いたことの反省と後ろめたさからだ。彼女を王都から離れた町へ送り、今後、王都への立入りは禁じた。
しかし、そこでも彼女はジッと機会を伺っていた。
悔恨し、猛省している素振りを見せ、息子のロベルトと年に数回面会することを許され、クリスとも関係を続けた。ロベルトには会う度に、自分は悲劇な王妃なのだと刷り込み、兄と弟への憎しみを植え込んだ。
また、隠れて昔馴染みの貴族たちと連絡を取り始め、そのやり取りの中でロベルトを支持してくれそうな貴族を見つける。それがコクトー伯爵だ。彼も一時彼女の虜になった一人。再び彼女に執着するのは時間が掛からなかった。さらに、コクトー家は今や下火。ロベルトが国王になれば、彼女は国母。自分はその愛人となるわけだ! そうなれば国王と言えど、コクトー家を無下にできない。再びコクトー家に風が吹く。
コクトー家の復興を夢見た伯爵はロベルト派となり、フェルナンとレオナルドの毒殺を計画する。
フェルナンに毒を盛ったのはロベルトだった。薬はクリスではなく別の呪術師に作らせたもの。クリスに解毒剤を作らせないために、母は彼を家に招き、外に出さなかった。何も知らないクリスはフェルナンが毒に苦しみ、ザガリーが解毒剤作成に奔走してしている間、彼女と愛欲に耽っていたのだ。
第一王子の毒殺に失敗すると、ロベルトの母はレオナルドを先に潰すことに決め、今度はクリスにも協力を求めた。
クリスは彼女を愛していた。そして、彼女の息子であるロベルトのことは、当然ながらレオナルドよりも情があった。とは言え、レオナルドを亡き者にするなどという大それたことできるわけがない。
戸惑うクリスに、ロベルトの母からレオナルドの方こそ、ウィンター家とクロウ家の支持を得て、王位の座を狙っているのだと説き伏せた。さらに、レオナルドが王座に就いたら、王妃に憎まれている我々母子は必ず殺されると泣きつかれ、クリスは愚かにも犯罪の片棒を担ぐことになったのだ。
しかし、結局、最後には怖くなり、薬をすり替え、殺害は回避された。ただし、大誤算はレオナルドが逃げ出したこと。姿をくらまし、行方が全く分からない。ただ、薬を飲んで変化していることは確実で、頼るとしたらザガリーだ確信し、ロベルト一味はザガリー宅ををずっと見張っていたらしい。
クリスはその間、レオナルドが捕まった時に備え、隠れて元の姿に戻る解毒剤を作っていた。しかし、それがロベルトにばれてしまい、あの北の森のアジトに監禁されてしまったのだ。
結果、クリスは、レオナルドを助けることに奔走したことを考慮され、極刑は免れ、投獄で済んだのだ。いつになるか分からないが、フェルナンの戴冠式など、おめでたい時に恩赦を受けそうだ。それまで、獄中でも無償で仕事をさせられるだろう。
ウィンター家とバーディー家も、媚薬とは言え、第三王子に薬を盛ったことが明るみになり、奪爵となった。
クロウ家は今回の事件には関与していないため、沙汰は無いが、レオナルド擁立派の残党として、常に注視されることになった。
ザガリーは大怪我をしたものの命に別状はなかった。太めの体系に変装するため、腹に巻いていた幾十の布が彼を助けたのだ。彼がいなければ私たちは確実に助からなかっただろう。彼の功績は称えられるべきだ。以前、フェルナン王太子を救った時に、一生困らないほどの褒美は貰っただろうが、今回も相応の対価が支払われるそうだ。
登城もしていない私が、どうしてここまで情報を知っているかと言うと、毎日毎日ご丁寧に送られてくる手紙に記されているからだ。
彼の手紙は世間の婚約者同士がやり取りする手紙とは程遠い。甘い言葉など一つも無い。まるで報告書だ。それも、一貴族の娘にここまで王家の内情を晒していいものなのかと思われる内容まで書かれている。
知りたくもない機密事項をつらつらと書き立て、私に情報共有を強いて、王族側から抜け出せないようにせんばかりだ。
ただ、必ず最後に、今までの私への態度の反省と謝罪、そして、婚約の再考に付いて懇願する言葉が書かれている。とても短いが。
きっと、この短い文面がメインであって、これを書くために、長々とその日の進捗状況を前置きとして綴っているのだろう。
しかし、私は毎回、この短い文面には一切触れずに、進捗状況についての感想のみ、簡単に手紙にしたため返事を返している。
・・・我ながらちょっぴり意地悪だと思うが。




