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この一ヶ月、城内は事件の対応で非常に慌ただしかった

私が城に出向かないのは、一人婚約に付いてじっくり考えたいという理由―――もちろんそれも有る―――だけではない。そうした状況を知っているからだ。レオナルドはもちろん、陛下も王太子もそして父も、城中の皆が、この第三王子殺人未遂事件の後処理に追われていたのだ。


第二王子のロベルトは反逆者として母親と共に、重罪人が送られる離島に流刑されることになった。

彼を擁立しようとしていたコクトー家も奪爵の上、当主と娘のクリスタは投獄され、一家は国外追放となった。

そして、レオナルドが信頼していた呪術師のクリスも、王室呪術師の名義は剥奪され、投獄された。


調べていくうちに、この事件の主犯は皇后の座を夢見たロベルトの母親であることが分かった。

彼女は前皇后付きのメイドの一人だった。容姿に恵まれ、その美貌で王宮勤めの貴族令息を次々と手玉に取っていたという。それが、陛下の目に留まったのだ。


前皇后は、陛下よりもかなりの年上だった上に、元々体が弱かった。その為、高齢出産が祟り、フェルナン王子を命がけで出産し、儚くなった。この年上女房を心から愛していた陛下は、憔悴し空っぽになってしまった心を、この高級娼婦のようなメイドで埋めていたようだ。

ただし、誤算だったのは彼女が妊娠してしまったこと。そして、野心家だったことだった。


時と共に心の傷も癒え、隣国の王女を次期皇后に迎えることも決まり、彼女との関係を解消しようとしていた矢先に妊娠が発覚した。身持ちの良くない女と知りながらも、幾度となく肌を合わせていた女性。それなりの情はあった。側妃として傍に置くことも検討してはいたようだ。


しかし、当の彼女は側妃どころか皇后になれると信じて疑っていなかったようだ。

妊娠を機に離れに移された彼女は、そこで丁重に扱われていた。それが彼女の誤解に拍車を掛けることになる。何も知らされずに、まるで女王様のように過ごしていた彼女は、完全に勘違いをし、益々傲慢になっていった。

彼女が、国王陛下が隣国の王女と正式に皇后に迎え入れたと知ったのは、ロベルトを出産した後だった。


彼女の怒りは私には計り知れない。

当然、陛下に意見をするが、その頃には陛下も彼女の傲慢さが鼻に付き始めた上、十も年の離れた若くて美しい新妻に夢中だったせいで、返って陛下の不興を買い、側妃の話も立消えとなってしまった。


ロベルトは乳母と教育係に取られ、自分は離れで一人過ごす事となった彼女。陛下の御子を身籠り、側妃候補だった彼女には多くのメイドが付けられていたが、今は王宮からの通いのメイドが二人だけ。元々メイドだった彼女は身の回りの事は自分でできるという侍女長の判断と、傲慢な彼女の面倒を見たがるメイドがいなかったことが理由だ。


それでも、彼女は第二王子の母君。小さいけれど清潔で美しい離れで不自由のない生活が保障されていた。それで満足していれば良かったのだが、そうはいかなかった。陛下に愛されていると信じていた彼女は、彼の心さえ取り戻せばまだ勝機はあると考えたのだ。


彼女はロベルトに会えない寂しさを紛らわしたいと、再びメイドとして働くことを願い出た。

王宮内で働くようになると、彼女から扱き使われていたメイド達から散々な嫌がらせを受けた。しかし、彼女はこれを狙っていたのだ。

執拗ないがらせを逆手に取り、陛下の同情を買う。そして、さらに、その嫌がらせの犯人を陛下の御子を成した自分に嫉妬した皇后に仕立てる。そんな計画を立て、再び王宮内に戻ってきたのだ。


しかし、実際はことごとく失敗に終わる。温厚で人の良い性格だが、どこか抜けていて天然な人である皇后の人柄は既に知れ渡っており、誰もが皇后が陰湿な嫌がらせをするなど信じない状況だった。ましてや、今や皇后を溺愛している陛下は尚更だ。


それでも、ロベルトの母は諦めなかった。

彼女は目を付けたのは、当時まだ青二才の呪術師クリスだった。彼を籠絡し、味方に付けることにしたのだ。

若く、まだ女を知らなかったクリスはあっさりと彼女に籠絡され、彼女の虜になってしまった。言われるがまま、彼女の欲しがる薬を作り、彼女に渡す。彼女はそれを自ら飲み、皇后に毒殺されかけたと陛下に訴えたのだ。


これ以上彼女の奇行を放っておくわけにはいかないと、とうとう彼女は城から追い出されたのだった。



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