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城に戻った私たちは、まず、身体を清めてから、国王皇后両陛下に謁見した。

謁見の間では、両陛下だけでなく、王太子と婚約者である従姉のレイチェルお姉様、そして、父がいた。


父は陛下の御前だというのにも関わらず、私を抱きしめ、号泣した。


そんな私たちの前に、レオナルドは跪いた。そして、深々と頭を下げ、今まで非礼を詫び、父と私に婚約破棄の撤回を懇願した。


国王皇后両陛下も私に労いと感謝の言葉を述べた後、愚息の願いを聞き遂げるよう頭を下げた。


父は憤慨した素振りを見せはしたものの、反対することはなく、決定権は私に委ねられた。

もちろん、本当に憤慨はしていただろう。だが、レオナルド本人だけでなく、国王陛下にも頭を下げられ、娘とミレー家の尊厳が守られたことに安堵しているに違いない。

結局、父の思う通りになったのだ。内心、ご満悦だろう。


しかし、当の私はそう安易に首を縦に振ることは出来なかった。


レオナルド本人だけでなく、国王陛下にまで撤回を請われては、私に拒否権などないだろう。それでも、簡単に頷くことは出来なかった。それだけ、レオナルドに虐げられていた時間は長かったのだ。


「頭と心の整理が全くできておりません。ましてや、このような事件の後、わたくしも大変疲れております。どうか、落ち着いて考える時間を頂戴できませんでしょうか?」


深々と頭を下げる私に、レオナルドは顔が青くなった。しかし、私は彼の苦渋な表情に気が付かないふりをした。


最終的に国王陛下は私の気持を考慮し、この願いを受け入れてくれた。



☆彡



事件から一ヶ月近く経った。

秋も深まり、冬の寒さが近づいてきている。

あの城での謁見以降、私は登城しておらず、レオナルドとは顔を合わせていない。婚約破棄撤回の申し入れに付いても、返事は保留のままだ。


「お嬢様。お手紙が届いております! レオナルド殿下から!」


ある日の昼下がり、自室でまったりしていると、パトリシアがやって来た。


「お待たせしました! どうぞ!」


ホクホクした顔で私に手紙の乗ったトレーを差し出した。


「別に待ってないわよ」


「またまたぁ~! 毎日楽しみにしていらっしゃるくせに~!」


ニンマリしたパトリシアの顔に、若干イラっとくる。私は軽く彼女を睨みつけながら、トレーに置かれた手紙を受け取った。


「それにしても、突然マメになりましたね、レオナルド殿下。毎日手紙を送ってくるなんて」


「本当よ、毎日毎日、日記じゃあるまいし・・・。日記なら手紙じゃなくて日記帳に書いて欲しいわ。返事を書く側の身を考えて欲しいわね、まったく」


そうブチブチ文句を言いながら、私は封を切って手紙を取り出した。


「ふふふ、お嬢様ったら、そんなことおっしゃって~。お顔が笑っていらっしゃいますよ~~」


「笑ってないわよ!」


私はキッとパトリシアを睨むが、彼女はニンマリとしたまま。私は溜息を付いた。


「申し訳ございません、お嬢様。私は嬉しくてしかたがないのです! レオナルド殿下がお嬢様の元に戻って来て下さったことが。本当はお嬢様の事をお気に召していたんですね!」


「どうだか」


「だって、誘拐されたお嬢様とミランダちゃんを、御自ら命がけで助けにいかれたのですよ! 大切に思われている証拠じゃないですか! 素敵です!!」


パトリシアは興奮気味に捲し立てる。


彼女は「ミランダちゃん」の正体がレオナルドだとは知らない。私の友人の子供だと信じている。それはトミーも同じ。そして母もマイケルも。真実を知っているのは私と父のみだ。


「あ、でも、もう二度とあのような危険なことをしてはなりませんよ! あの日だって、私を同行させるべきだったんです! そうすれば、私が身代わりになれたのに! もしも、お嬢様の身に何かあったら、その時は私、首をくくりますから!」


陽気に話していたパトリシアだが、急にハッとした表情をすると、腰に手を当てて私に説教を始めた。


「重いわ・・・、それ・・・」


「いいえ! そんなことありません!」


「はいはい、分かったから。もう、あんな無茶なことはしないわ。それより、お茶を淹れてちょうだい。返事を書かなきゃ。返さないとうるさいから」


私は再び軽く溜息をつくと、手紙を広げながら、机に向かった。

パトリシアは畏まりましたと言うと、部屋から出て行った。


椅子に座り、手紙を読む。

ふと、机の上に置いてある小さな鏡に映る自分の顔を見た。


「!」


その顔は、自分で恥ずかしくなるほど口元が緩んでいた。私は思わず自分の頬を引っ叩いた。



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