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どれだけの間、抱きしめ合っていただろう?

最初は驚いたが、途中からは心地良くてずっとレオナルドに身を預けていた。


「殿下、エリーゼ様。援護の隊が到着するまで階下でお休みください。あ・・・、失礼!」


部屋に入ってきたアランは、抱き合っている私たちを見て、慌てて廊下に戻った。私は慌ててレオナルドから離れようとした。


「待って! だ、大丈夫ですわ、アラン様! ちょっと、殿下! もうお離しください!」


「何でだ!?」


レオナルドはムスッとした顔をして私を離そうとしない。私は彼の胸を無理やり両手で押した。


「何でじゃありませんわ! とにかく放してくださいませ。下に参りましょう! わたくし喉が渇いたわ」


「・・・分かった・・・」


レオナルドは渋々頷くと、立ち上がった。しかし、私を横抱きにして・・・。


「ちょっと! 殿下! 何をなさっているの!? わたくし、歩けますわよ!」


「何を言っている。裸足じゃないか。怪我をしたらどうするんだ?」


「大丈夫ですわよ!!」


「いや、もう怪我をしているんじゃないか? ちょっと見せてみろ」


レオナルドは私を床に下ろそうとした。

もしかして、足の裏を確認する気? 止めて!! 冗談じゃない!


「いいです!! 大丈夫ですわ!!」


私は降りまいとレオナルドの首に噛り付いた。


「分かった。じゃあ、行くか」


レオナルドは私を横抱きにしたまま歩き出した。なんか、とてもしてやられた気分だ。


一階の一室で休んでいる間も、レオナルドは私を離さなかった。

私を膝の上に抱いたまま椅子に座り、兵士が淹れてくれたお茶を口にしている。


「ちょっと・・・、殿下?」


私が白い目で訴えても、どこ吹く風。ごくごく自然体の顔をしてお茶を飲むレオナルドに、アランもどこを見てよいのか分からない様子。


暫くすると、援護部隊が到着した。


「殿下ぁああ!」


ライナスが駆け込んできた。


「殿下! ご無事ですか! へ・・・?」


私を横抱きにしたまま、優雅にお茶を飲んでいるレオナルドの姿にライナスも固まった。


「ライナス、ご苦労」


レオナルドに声を掛けられ、ライナスはピシッと姿勢を正した。


「ライナス、反逆者どもは隣の部屋に拘束している。連行してくれ」


「はっ」


「お前の馬のお陰だ。本当に良い馬だな。礼を言う」


「乗りこなせてこそですよ。そうでなければ、どんなに良い馬でも役立たずですから。お役に立てて光栄です」


レオナルドに向かってニッと微笑んだが、私の方には何とも複雑そうな表情を向けた。



☆彡



その後、テキパキと帰り支度が整い、私たちは用意された一台の馬車に乗り込んだ。

そして、そこでもなぜか私の席はレオナルドの膝の上・・・。


「ちょっと、殿下・・・。いい加減、離して下さらない?」


「嫌だ」


「はあ!? 何なの、さっきから!? 意味が分かりません! 新手の嫌がらせ?」


「まあ、そうでもあるな。お前だって、俺が嫌がっていた時も、ずーっと抱いていたじゃないか?」


レオナルドはニッと口角を上げた。


「覚悟しておくんだな。俺が二歳児の姿だった時にやられたことを全部やり返してやるから」


「はあああ?」


「あはは、楽しみだな。何からやり返そうか?」


「信じられない!! 恩を仇で返さないでってあれだけ言ったのに!! 放して!!」


私はレオナルドの胸を両手グイッと押した。

大人に戻ってしまった彼の胸は逞しく、ビクともしない。


「嫌だ!」

「臭いのよ!! 殿下は! 離れてちょうだいっ!!」

「お前がゴミ箱に入れたんだろうが! 我慢しろ!」

「鼻がひん曲がるわっ! 離して!!」

「嫌だ! 絶対に離さない!! これから先もずっと!!」


レオナルドはそう叫ぶと私をギューッと抱きしめた。私は驚くと同時にトクンと心臓が鳴った。


「・・・わたくしは殿下に婚約破棄を突き付けられましたのよ?」


「う・・・、それは・・・」


私の言葉にレオナルドは急に威勢を失った。


「よくそんなことが言えますこと。呆れて物も言えません」


「・・・」


返す言葉がないのか、黙ってしまった。しかし、その分私を抱きしめる力が強くなった。


「・・・する」


「はい?」


「撤回する・・・」


私の耳元に弱々しい声が聞こえる。思わず、軽いため息が漏れた。すると、レオナルドはバッと体を離し、私の両肩を掴んだ。


「撤回する! 婚約破棄を撤回する! お前にもミレー侯爵にも頭を下げる! だから、戻って来てくれ!! 頼む!!」


そう叫んで、頭を下げた。


「・・・そう簡単にいくとお思い? あれだけ派手に婚約破棄しておいて」


「うぐ・・・」


「わたくしだって、すぐには気持ちの整理がつきません。今ここでお返事はできませんわ」


「・・・分かった・・・」


レオナルドは項垂れたまま頷いた。


「では、わたくしを離してくださいませ。馬車の中で人の膝の上なんて、居心地が悪うございます」


「それはダメだ」


プイッと顔を背けるレオナルド。


「はあ?! ちょっと! 何をおっしゃっているの? 離せって言っているのよ!」

「だからダメだって言ってるんだ!」

「意味が分からない! お離しなさい! 臭いのよ!!」

「知るか! 我慢しろ!」

「ドレスに匂いが移るわ!!」

「お前のドレスは既に汚れているじゃないか。スープが掛かってベトベトだぞ?」


必死にレオナルドの腕の中で暴れるが、全く歯が立たない。レオナルドは怒っているようでありながら顔がほんのり赤く、少し楽しそうにも見えるのは気のせいだろうか? いいや、見ている限り、気のせいではないようだ。

でも・・・。私の顔が熱いのはきっと気のせいだ。


結局、私は城に辿り着くまでレオナルドの膝の上から降ろされることはなかった。



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