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男は覆いかぶさるように私を抱きしめると、そのまま、窓から部屋に降り立った。


「レ・・・オナルド・・・殿下・・・?」


私は男の顔を確かめたくて、身体を離そうとしたが、ギュッと強く抱きしめられて身動きが取れない。


「なんだってお前は・・・、いつもいつも、こうも潔いんだよ。潔すぎるだろうが!」


耳元で聞こえる声。レオナルドだ。大人の男のレオナルドの声だ。


「戻ったのですね・・・、殿下・・・?」

「レオ・・・、戻ったのか・・・?」


私の呟きと同時に、背後からロベルトの呆然とした声が聞こえた。

レオナルドは私を抱きしめたまま、ロベルトに振り向いた。


「ロベルト兄上。エリーゼの忠告は聞いた方が身の為と思いますよ。俺は散々無視したせいでエライ目に遭いましたから。今回みたいにね」


そう言うと、私を自分の背後に隠した。


「ところで、これはどういうことか、兄上? まあ、聞かなくても想像はつくが」


レオナルドは軽く部屋を見渡し、最後にロベルトを見据えた。


「それでも説明する義務がある。後でしっかりと聞かせてもらおうじゃないですか。裁判所でね」


「チッ・・・」


ロベルトの舌打ちが聞こえ、同時に、彼は軽く手を挙げた。それを見た男たちは短剣を握りしめると、レオナルドに対して身構えた。


「想像以上に速いご登場だね、レオ。もう少し時間が掛かると思っていたけど。まったく、エリーゼ嬢のせいですべてが台無しだよ」


ロベルトは苛立たし気にレオナルドと私を睨むと、かざしていた手を振り下ろした。それを合図に、一人の男が短剣を振りかざしてレオナルドに襲い掛かってきた。


「エリーゼ! 伏せろ!」


レオナルドは振り向きもせずに叫ぶ。私は言う通り、頭を抱えてその場に蹲った。

頭上では人を殴る鈍い音と、うめき声が聞こえる。大きな音と共に、私の傍に人が派手に倒れ込んだ。頭を抱えたままチラリと見ると、黒い服が見えた。


「このーっ!」


別の角度から怒鳴り声が聞こえ、もう一人の男がレオナルドに襲い掛かるのが見えた。しかし、すぐにレオナルドの身体に遮られ、視界を奪われた。金属音が交わる音がしたと思った次の瞬間、


「ぐはっ!」


といううめき声と同時に血しぶきが飛び、男が床に倒れた。その男の顔は私の方を向いており、一瞬目が合った気がしたが、すぐに白目を剥いて動かなくなった。


「くそっ!」


私は頭を抱え蹲ったまま、声の主の方を見た。ロベルトが歯ぎしりしながら、レオナルドを睨んでいた。そして腰の剣に手を掛けた。私は傍に立つレオナルドを見上げた。彼は黒づくめの男から奪った短剣しか持っていない。


「で、殿下・・・!」


レオナルドの腕が立つとは言え、長剣に敵うわけがないではないか!


私は呼吸が浅くなってきた。苦しくて胸を押さえる。震えている足に力を入れて何とか立ち上がった。そして、レオナルドの背後からロベルトを見据えた。


襲って来たと同時にレオナルドを突き飛ばそう。力一杯体当たりすれば、女の私の力でも男一人くらい倒せるはず。そうすれば、レオナルドはあの剣を避けられる。私は避けられないだろうが・・・。


そう決意し、息もせず、ロベルトの行動に全神経を集中していた。

ロベルトが剣の柄を握った時だった。


「そこまでです! ロベルト殿下!!」


廊下から新たに三人の男たちが雪崩れ込むように入ってきた。近衛隊の制服を着ている。一人はクリスタ嬢を確保していた。


「なっ!」


アラン達の登場にロベルトは言葉を失った。


「ロベルト兄上。俺がたった一人で乗り込むわけがないでしょう」


レオナルドの言葉に、ロベルトはこちらに向き直った。ギッと悔しそうにレオナルドを睨みつけている


「いや、分かっていたけど、俺を人質にこの場を逃げ切ろうとしたのか。どっちにしろ、甘いですよ、兄上」


レオナルドが冷ややかに話しかけている中、アランはロベルトにゆっくり近づき、腕を取ろうとした。しかし、ロベルトは、それを乱暴に払い除けると、剣を抜き、刃先をアランに向けた。


「近寄るな!!」


アランは咄嗟に後ろに飛び退き、寸前のところで剣を交わた。そして、剣の柄に手を掛けた。


「まさか、王族に向かって剣を抜く気か?」


ロベルトはアランを牽制する。そう言われたアランは剣の柄に手を掛けたまま、悔しそうにロベルトを睨んだ。


「それらしいことを言ってクソ真面目なアランを惑わさないで下さいよ、兄上。王族とは言え、今や貴方は反逆者だ。アラン、お前が守る相手は誰だ?」


レオナルドに諭され、アランはハッとしたような顔をした。すぐに顔を引き締めると、一時でも迷った自分の気持ちを無かったことにするかのように、大げさに鞘から剣を抜き、ロベルトに向かって身構えた。


「それにしてもショックです、兄上。俺だって、小さい頃から、表向きは優しくしてくれていても、内心は嫌われているって気が付いていましたよ。でも、殺したいほど嫌われているとはね」


そう言いながらレオナルドも短剣を持ち直し、身構えた。


「バレていたんだね、懸命に隠していたつもりだったけど。そうだよ、僕はお前が嫌いだった、ずっとね。後から生まれたくせに、僕よりも王位継承権は上で、常に優遇されて・・・」


ロベルトは剣をアランに向けながら、顔だけレオナルドに振り向いた。


「そんなことよりも何より、僕は皇后が憎いんだ。お前よりもね。僕の母を貶めて、王宮から追放したお前の母親がさ!!」


そう叫ぶと、アランに向かって剣を振り上げた。



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