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80*

俺はエリーゼに抱かれて逃げている最中に、ザガリーから受け取った薬を全部飲み干した。その空き瓶を追手に向かって思いっきり投げつけると、見事に相手の眉間に当たり、追手の男はその場に蹲った。

しかし、その直後から急に息苦しくなってきたのだ。心臓の動きも異様に早くなり、体中が熱くなってきた。


「殿下。ここに隠れていてください。臭いけど我慢なさって」


エリーゼはそう言うと俺をゴミ箱の中に入れた。


「お・・・い、な、なに・・・して・・・?」


俺は焦るが、苦しくて言葉が上手く出ない。身体も重くて動けない。


「我慢なさって! きっと、もうすぐ元に戻れるはずですわ。元に戻る前に捕まるわけにはいきません。また、何かを飲まされてしまうかもしれないもの」


「ちょ・・・」


止めろ!!


そう叫びたいのに、もう声が出ない。意識も朦朧としてきた。


まずい! アイツは自分が囮になるつもりだ!

そんな危険なことはさせられない! 止めないと! 


「頼む・・・。止めてくれ・・・。エリーゼ・・・!」


蓋を閉められて暗くなったゴミ箱の中で、俺は声を絞り出す。しかし、次の瞬間、意識が途絶えた。



☆彡



「殿下!! 殿下!! 大丈夫ですか!!」


男の声が聞こえて、俺は目を開けた。声がした方向を見ると、アランが必死に俺に声を掛けていた。


「・・・ア、アランか・・・?」


「私が分かりますか?! 良かった! 殿下!」


アランはホッとした顔をした。しかし、すぐに顔を引き締めると、俺に向かって手を伸ばした。


「エリーゼは・・・? エリーゼはどうした・・・?」


俺の質問に、アランは引き締めた顔が強張った。


「・・・エリーゼ様は・・・、連れ去られました・・・」


絞り出すような声に、俺は一瞬頭が真っ白になった。

しかし、すぐに我に返ると、ゴミ箱から出ようと縁に手を掛けた。途端にバランスを失って、ゴミ箱ごと道に倒れてしまった。


「殿下っ!」


アランが慌てて俺を助け起こす。


「アラン! エリーゼを助けるぞ!! 急げ!!」


俺はアランの腕を力いっぱい握ると叫んだ。


「はっ! しかし、殿下はお身体が・・・! 苦しくはないですか?」


アランは自分のマントを剥ぎ取り、俺の肩に掛けると、身体を支えた。


「まずはお召し物を!!」


「え?」


俺は自分の身体を見た。裸だ。周りを見ると散らかったゴミの中に、バラバラに引きちぎられたドレスの生地も混じっていた。

改めて自分の手を見る。大人の男の手だ。


そこにもう一人の男の声が聞こえた。叫びながら走っているようだ。


「殿下ぁあああー!!」


ライナスだ。

脇道を素通りしかけたが、俺とアランに気が付き、キキキーッとブレーキを掛けるように立ち止まった。


「で、殿下!! お、お姿が!!」


「ライナス様! マントを!」


「おお!!」


アランに言われ、急いでマントを脱ぐと、俺に被せた。


「ライナス! 俺の服が廊下に転がっているはずだ! 持ってきてくれ! アラン! 男共はどうした?」


「全員確保しております!」


「奴等からアジトを聞き出せ! 急げ!」


「「はっ!」」


二人は叫ぶように返事をすると、それぞれの目的の方向に走って行った。



☆彡



ライナスが持ってきた服を身に付けると、俺は急いでアランのもとに向かった。


アランは男どもを容赦なく拷問し、アジトを吐かせているところだった。紳士的な彼からは想像できないほど怒りを露わにしていた。それは俺も同じことだ。怒りしか沸いてこない。


「どうだ?」


俺はアランの隣に立つ。目の前には黒いスーツを着た男が三人転がっていた。


「こいつらはずっとザガリー殿を見張っていたようです。ザガリー殿を尾行し、やっと今日、殿下を見つけたのだと言っております」


虫けらを見るように男たちを睨みつけた後、俺の方に振り向いた。その顔は青い。


「黒幕は・・・ロベルト殿下です・・・」


「な・・・っ!」

「なんだと・・・?」


俺とライナスは言葉を失った。


「アジトは北の森だと」


「馬を!! ライナス! お前の馬を貸せ!!」


アランの言葉を聞くと、俺はライナスに向かって叫んだ。こいつの馬は俺の馬よりも駿足で自慢の名馬だ。


「アラン! お前は付いて来い!」


今度はアランに向かって叫ぶ。


「お待ちください! 殿下! 危険です!」


ライナスが俺の腕を掴んだ。


「お身体も元に戻られたばかりではないですか! 体調だって万全ではないのに! 絶対にいけません!」


「ライナス様の言う通りです、殿下! 先発隊として騎兵を二名、既にアジトに向かわせています。我々もすぐに向かいます! 殿下は早く城へお戻りください! エリーゼ様は必ず我々がお助けします!」


アランも俺を説得に掛かる。


「エリーゼ様がご自身の命に代えて守ったその御身です! 無下にしてはいけません! どうか聞き分けてください!」


「黙れっ!!」


俺はライナスの手を振り払い、二人を睨みつけた。


「無下になんて誰がするか!! 守ってもらったからこそ、今度は俺が助けるんだ!! 俺は・・・俺はアイツを失うわけにはいかないんだ!!」


そうだ! 俺はエリーゼを失うわけにいかないんだ! 絶対に!!



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