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「誰なの!?」


私は思わず大声で尋ねた。

クリスは何かを言いかけて、口を噤んだ。そして俯いた。


「言わないおつもり?!」


私は一歩前に進み出た。クリスは頭を振った。


「レオナルド殿下・・・。お聞きになってもお気を確かに・・・」


クリスは私が抱えているのはバケツではなくレオナルドと信じているようだ。クリスは俯いたまま蚊の鳴くような声で話した。


「命令したのは、第二王子・・・ロベルト殿下です・・・」


「ロ・・・ベルト殿下・・・?」


クリスは無言で頷いた。


ロベルト第二王子・・・。

王子として二番目に生を受けながら、母親の身分が低いせいで、第三王子であるレオナルドよりも王位継承権は下。己の立場をわきまえ、決して目立つことはなく、常に控えめに生きていた王子。


「なぜ・・・ロベルト第二王子が・・・?」


分かり切った疑問が口をつく。

つまり、影に隠れたように生きていると思われていた彼の中にも、本当は大きな野望があったということだ。


「でも・・・、貴方は? 貴方はなぜロベルト殿下の命令を?」


私はもう一つ沸いた疑問をクリスにぶつけた。クリスは辛そうに顔を歪めた。


「私は・・・」


「殿下は・・・、レオナルド殿下は貴方のことを・・・本当に信頼していたのに・・・、酷い・・・」


こんな裏切りはあんまりだ。私は悔しくて涙が溢れてきた。


その時、バタバタと廊下を駆けてくる足音がした。数人でこの部屋に向かってきているようだ。私の身体に新たな緊張が走り、涙も引っ込んだ。

身構えているところに、乱暴に扉が開き、一人の男が入ってきた。その男を見て、私は目を見開いた。


「ロベルト殿下・・・!」



☆彡



入ってきた男はこの国の第二王子、ロベルトだった。

私がロベルトに驚いた以上に、私を見たロベルトは驚いたようだ。目を丸くして私に見入っている。


しかし、すぐにふっと息を吐くと、今度は蔑むような笑みを私に向けてきた。


「これは、エリーゼ嬢。とんでもないじゃじゃ馬女に邪魔をされたと聞いたが、まさか、貴女だったとは」


ロベルトはそう言いながら近づいてきた。私はバケツを隠すように抱え、後ずさりした。


「ごきげんよう、ロベルト殿下。こんなところで貴方様にお会いするなんて誰が思ったでしょうね。少なくともわたくしは予想外過ぎて言葉がでませんわ。青天の霹靂ってこういう事を言うのでしょうか」


「その割にはよく喋る口だね。こんな立場になってもそんな口が利けるなんて、相変わらず、気が強い。僕は嫌いじゃないな」


「それは光栄なことですこと。あまりいい趣味とは言えませんけれど。当のわたくしが言うのもなんですが」


ロベルトはどんどん近づいてくる。それに比例するように私も後ずさりする。あっという間窓際に追いやられた。


「くだらないお喋りは後にしよう、エリーゼ嬢。部下が捕まったせいで、ここが見つかるのも時間の問題だからね。別の場所に移動しなければ。さあ、まずはレオを渡してくれ」


ロベルトは私に両手を差し出した。私はバケツを抱きしめたままクルッと向きを変え、ロベルトに背中を向けた。彼もこのバケツをレオナルドと信じているようだ。ピクリともせず、一言も言葉を発しない物体が生き物なわけなかろうに。思い込みって恐ろしい。


「いいえ。渡しません。どうせわたくしも人質として連れて行くのでしょう? だったら、わたくしがレオナルド殿下の面倒を見ます!」


私はロベルトに背を向けたまま答えた。


「これは驚いた! 君たちの絆がそんなに強いとは! 婚約破棄したほどだから余程仲が悪いと思っていたけれど、見当違いかい?」


ロベルトは目を丸くした。そして、軽く溜息を付いた。


「はあ~、本当なら、レオの婚約者ではなくなったのだから、今度は僕が名乗り出ようと思っていたんだけど」


「は?」


私は思わず振り返った。


「だって、ミレー家の力は魅力的だからね」


ロベルトは不敵な笑いと一緒にパチッと片目を閉じて見せた。


「そ、そんな・・・、ロベルト様・・・」


彼の背後から弱々しい女性の声がした。その声の主を見て、今度は私が目を丸くした。


「クリスタ嬢・・・」


それはクリスタ・コクトーだった。不安そうにロベルトを見つめている。

ロベルトはすぐにクリスタの傍に行くと、優しく肩を抱いた。


「大丈夫だよ、クリスタ。愛しているのは君だけだから」


「でも・・・」


何かを訴えかけたクリスタの額にロベルトは軽くキスを落とした。


「もしかして・・・・、クリスタ様がミランダ様の用意していた薬とすり替えたの・・・?」


私は目を丸くしたままクリスタに尋ねた。

この令嬢はミランダの金魚の糞で使い走り。侍女のように常に傍にいて何かと彼女の面倒を見ていた女だ。彼女なら薬をすり替えるのも可能だろう。


クリスタは私をチラリと見たが、目が合った途端、気まずそうに顔を背けた。


「話はここまでだ。一緒に来てもらおう、エリーゼ嬢」



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