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オペラ座の歌劇の感動冷めやらず、私は上機嫌で邸に帰ってきた。

部屋に入ると、待機していたパトリシアが迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、お嬢様。ふふふ、ご機嫌ですね」


パトリシアは小声で話しながら、私から上着とバッグを受け取った。


「ミランダちゃんはぐっすりお休みですよ」


彼女の中で、レオナルドの名前が『ミランダ』と定着してしまったようだ。男児ということを忘れてしまっているのか。


「そう。良い子にしていた?」


「はい。絵本を読んだりして静かにお過ごしでした」


パトリシアがローテーブルの方を指差した。そこには数冊の絵本が置いてある。


「絵本・・・」


ムスッと不貞腐れながら絵本を読んでいるレオナルドを想像する。思わずプッと噴出した。



☆彡



お風呂に入り、寝支度を整え終え、パトリシアを下がらせると、私はベビーベッドに横になっているレオナルドを覗き込んだ。


「殿下。パットは下がりましたわ。起きているのでしょう?」


そう話しかけると、レオナルドはムクリと起き上がった。


「遅かったな・・・」


ムスッと不貞腐れた顔を私に向ける。


「ふふふ。そんなことありませんわよ。一芝居観たらこのくらいの時間にはなりますわ」


「ご機嫌だな・・・」


「ええ! とっても! 歌劇の興奮がまだおさまっておりませんの」


不機嫌なレオナルドとは真逆に、上機嫌な私はにっこりと微笑むと、手に持っていた小瓶をレオナルドに見せた。


「お土産がございますのよ。これでご機嫌直してくださいな」


それはオペラ座近くにある高級菓子店で購入したスミレの花の砂糖漬けだ。

蓋を開けて一粒取ると、レオナルドの口に近づけた。レオナルドは素直に口を開けた。


「甘っ・・・」


「美味しいでしょう? わたくしのお気に入りです」


私も一粒口にする。スミレの花の香りと砂糖の甘さがパッと口の中に広がり、自然と笑みが零れる。


「そうそう、オペラ座でレベッカ様とお会いしました」

「ケホッ!」


私の報告にレオナルドが咽た。


「殿下にお会いできなくても、お元気そうでしたわよ。わたくしに嫌がらせをするくらいの元気はありました」


「は? 嫌がらせ?」


レオナルドは顔を顰めた。


「まあ、失礼な態度を取られただけですけれどね。言い返したら逆切れされました」


「・・・」


「腹が立ったので切れ返したら、走って逃げていきましたわ」


「お前・・・」


レオナルドは呆れた顔をしてはぁ~と溜息を付いた。


「お前は、どうして、そう喧嘩っ早いんだ・・・?」


「失礼ですわね。わたくしが喧嘩売ったわけではございませんわよ? 向こうがわざわざ売ってきたのです。折角、彼女に気が付かないふりをしてあげたのに、ご丁寧にも追いかけてきて、わたくしに売り付けてきたのですのよ? こちらは買って差し上げたまで。義理堅いと思いません?」


私はツンと顔を背けて見せた。しかし、すぐにレオナルドに向き直ると、


「レベッカ様は殿下の失踪をご存じないようでした。殿下にお会いできないのはご公務が忙しいからだって言い張っていましたわ。でも、真実は『ミランダ様に裏切られて失意のあまりに一人籠っている』ということはご存じみたい。認めたくないというのが本当のようですわね」


そう報告と続けた。


「そもそも、その『真実』とやらが納得いかんのだが・・・」


「自分は新婚約者候補だとおっしゃっておりました」


「はあ~~~・・・」


レオナルドは大きく溜息を付いた。


「わたくしはレベッカ様を婚約者にするのは反対ですわ。あの方だけはやめてくださいませ、殿下。他のご令嬢をお勧めします」


私はそう言いながら、もう一粒スミレの花の砂糖漬けを口にした。そして、さらにもう一粒取ると、レオナルドの口に近づけた。

しかし、レオナルドは口を開けない。


「他のご令嬢?」


そう言って、私を軽く睨みつけた。


「ええ。他にも素敵なご令嬢はたくさんおりましてよ? 何もレベッカ様でなくてもいいでしょう? それこそ、クリスタ様の方がいいかも・・・」


私は首を軽く傾げる。レオナルドはそんな私をまだ睨みつけている。


「・・・お前は俺の婚約者選びに口を出す権利はないのだろう? お前の恋路に俺が口を挟む権利がないのと同じで」


「え・・・?」


「お前に指示をされるいわれはない。俺がレベッカを選ぼうがお前にとやかく言われる筋合いはない」


レオナルドはギッと私を睨みつけると、そっぽを向いてしまった。



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