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翌朝、いつものように母とレオナルドと朝食を食べている時だった。


「失礼します」


一人の青年がダイニングに入ってきた。青年と言うには早い。幼さが消えた少年と言うべきか。


「まあ、マイケル!! お帰りなさい!」


母は嬉しそうにパアッと顔を輝かせた。


「お食事中に申し訳ございません。只今戻りました、お母様、お姉様」


マイケルはピシッと姿勢を正すと、恭しく挨拶をした。


「お帰りなさい、マイケル」


私はにっこりと彼に笑いかけた。


「学院の制服がしっくりくるようになったわね。入学の時は、全然馴染んでいなくて、制服が歩いているようだったけれど。今はとても素敵よ」


「お姉様は相変わらず、ただでは褒めてくれませんね」


マイケルはチェッとばかりに肩を竦ませた。


「マイケル、貴方、朝食は召し上がったの? ベイツ! マイケルに朝食の用意を!」


「朝食は寄宿舎で済ませてきました」


マイケルは、執事のベイツに片手で軽く合図を送ると、


「先にご挨拶だけでもと思って。着替えて参ります」


軽く頭を下げると部屋から出て行った。

その後ろ姿を、母と私はホーッと見惚れるよう見送った。


「久々に会いましたが、なかなか頼もしくなりましたわね、お母様?」


母に振り向くと、彼女はダーッと滝の涙を流していた。

ベイツがサッとハンカチを差し出す。


「ううっ・・・、あんなに小さかった子が・・・、り、立派になって・・・」


母の反応に若干引いていると、


〔そこまで変わってないぞ? まだ、相変わらず背が低いし・・・って、いでで・・・〕

〔お黙りなさいませ〕


モグモグと口を動かしながらレオナルドが呟くので、頬を軽くつねった。



☆彡



マイケルは今年学院に入学した。小さい頃から騎士に憧れていたマイケルは、迷わず騎士コースを選んだ。それについて、父は特に反対しなかった。宰相の職を無理に継がせるつもりは無いようだ。それでも、ミレー家の名を汚す事の無いよう、武官のトップに上り詰めることを彼に約束させた。

私の(やや偏った)個人的考えとしても、宰相のように、どことなく胡散臭い職よりも、将軍の方がずっと恰好が良いし、イメージが良いと思う。父には悪いが。


騎士コースは文官コースよりも求められるものが多く、学術に至っては文官コースとほぼ同じであるのに、それに専門の武術が加わるため、就学時間はとても長いのだ。その為、王都内に邸を構えている生徒も、問答無用に寄宿舎へ住まわされることになる。マイケルも例に漏れず、寄宿舎生活を送っていた。


特に一年生は生活に慣れないところに持ってきて、必須科目は多い。週に一度の休みも自習に取られ、帰省する暇などないという。マイケルの帰宅は入学してから初めてだったのだ。母が大泣きするのも無理はない。


朝食を終えてサロンに向かうと、着替えたマイケルが私たちを待っていた。


「貴方の顔が見られて、本当に嬉しいわ!」


母はマイケルとギューッと抱きしめると、頬に何度もキスを贈った。


「休日に帰って来られるなんて、少しは学院の生活にも慣れたのかしら? 大変なのでしょう、騎士コースは?」


私はレオナルドをソファに座らせると、その隣に腰かけた。


「まあ、大変です。でも、大分慣れました」


マイケルと母は並んで、私の前のソファに腰を下ろした。


「その・・・、今回は、お姉様を歌劇にお誘いしようと思って帰ってきたのですが、ご都合はいかかですか?」


「まあ、本当?」

「まあああ! マイケル! なんてお姉様想いの良い子なのかしら!! 気落ちしたエリーゼを心配してわざわざ帰って来てくれたのね!! 本当に優しい子ね、お母様は嬉しくてまた涙が出てしまうわ!」


私の言葉は母の歓声にかき消された。


「本当なら、国立小劇場の方がお姉様の好きそうな舞台をやっているのですが、チケットが取れなくて・・・。でも、オペラ座の歌劇も好評だって友人から聞いたので。オペラ座なら我が家のボックス席があるのでいつでも鑑賞できますし」


マイケルは自分の不手際を恥じるように首の後ろを摩った。


「そんな。オペラ座だって嬉し・・・」

「そんな! オペラ座だって嬉しいに決まっているじゃないの! ねえ? エリーゼ!? 楽しんでいらっしゃい!」


私ではなく母が返事をする。

こうして、夜はマイケルとオペラ座へ行くことが決まった。



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