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「え・・・?」


ライナスは目の前に迫った女児に、どうしてよいか分からないように狼狽えた。

小さな女の子であるだけでも戸惑いがあるらしいが、その上、中身が王子とあっては、そのまま受け取り、抱き上げてよいのか困惑しているようだ。


「わたくしも好き好んで危険なことに首を突っ込むつもりなど更々ございません。クローリー家で殿下をお守り頂けるのであれば、こんなに嬉しいことはございませんわ」

「ちょ、ちょっと待て! エリーゼ!」


私はレオナルドを無視し、オロオロしているライナスに向かってにっこりと微笑んだ。


「さぞかしや、我が家なんかよりも鉄壁な守りで、且つ、手厚く面倒を見て下さるのでしょうね? レオナルド殿下である事実を隠したままの身元不明の幼児を」


「身元不明・・・」


「レオナルド殿下のお命だけでなく、是非とも名誉もお守りくださいませ。家の人の誰にも殿下と気付かれないようにお気をつけあそばせ。まあ、婚約破棄された女が側近中の側近の貴方様に忠告する事でもありませんわね、当然のことですから」


「誰にも・・・・?」


「もちろん! 我が家でもわたくししかこの秘密を知りません。バレないように、しっかりと綿密にシナリオを描いて挑んでおりましたので。殿下に女の子の格好をさせたのも、敵の目を誤魔化し、身の危険を回避するためだけではございませんわ。諸々と熟慮した結果でございます」

「単に妄想が膨らんだだけとも言う・・・」


ライナスは益々困惑した顔で女児を見ており、レオナルドの突っ込みは耳に入っていないようだ。

私はいつまでも手を伸ばさないライナスにイライラしてきた。


「もしや、お出来にならないの? ライナス様? クローリー家では殿下をお守りになれないと?」


「な、何を言うか! 我が家でもお守りできる!! 当然だ!」


クワッとライナスが声を荒げた。


「では、どうぞ殿下をお受け取り下さいませ、ライナス様」


私はさらにレオナルドをライナスに近づけた。ライナスも大きく頷き手を伸ばす。しかし次の瞬間、


「待て待て待てーーー!!!」


レオナルドが両手両足を大きくバタつかせながら大声で叫んだ。

バタついた足がライナスの手に当たり、ライナスは痛そうに手を引っ込めた。


「ちょっと待て、エリーゼ!! 勝手に話を決めるな! 俺は承諾していないぞ!!」


レオナルドは宙ぶらりんのまま私に振り向き、キッと睨んだ。


「どうしてですか? 何がお気に召さないの? 殿下だって、大嫌いなわたくしなんかより大好きなライナス様のもとにいらした方がよろしいのではなくて?」


私も軽く睨み返した。


「そ、そういう好き嫌いの問題ではない!! 父上もミレー家で保護されていることをご承知なのだ! 周りだってそれで動いているのだろうが! お前たちの意思だけで勝手に事を変えるな!」


「しっかりと情報伝達ができておりましたら、保護している家がミレー家だろうがクローリー家だろうがあまり変わりないでしょう? それに、クローリー家なら、毎日ライナス様から最新の報告を受けられますわよ? 結構な事じゃございませんか?」


私はフンッと大げさにそっぽを向いた。


「ザガリーからの連絡はエリーゼのところに来るんだぞ!」

「その時には、即、ご連絡申し上げますから、アラン様に。ご心配なく」

「なんでアランなんだよっ!?」

「だって、ライナス様はわたくしを信用されていないもの。今の会話を聞いていらしたら分かるでしょう? わたくしとまともに会話をして下さるのはアラン様だけなの!」


私は抱き上げていたレオナルドが重くなってきたので、ツンとそっぽを向いたまま、膝の上に降ろした。


「ライナス!!」


レオナルドはクルッとライナスに向き直った。


「え? あ、は、はい! 殿下!」


急に自分に声を掛けられ、ライナスはピシッと姿勢を正した。


「俺は決してエリーゼから不当な扱いは受けてないぞ! ミレー家には良くしてもらっている。俺はこのままミレー家に世話になる!」


「で、ですが、殿下・・・。そのような格好をさせられて・・・ご不満ではないのですか?」


ライナスはオロオロと尋ねた。


「髪の毛の色を変えたのはザガリーの助言を聞いたまでだ。女装についてはやり過ぎだとは思うが、用心に越したことはない」


「そうですが・・・」


「それに!」


レオナルドはビシッとライナスを指差した。


「お前は毎日登城して、クローリー家の邸にはいないだろう? お前が留守の間、俺は事情の知らない使用人の前で常に二歳児を演じろと言うのか? それに、エリーゼの言う通りだ。身元の不確かな子供を侯爵家で丁重に扱うだろうか? 結局、屋根裏部屋にでも身を隠す羽目になるのではないか?」


「そんなことは・・・!」


「まあ、匿ってもらうわけだから、文句の言える立場じゃないがな」


レオナルドは腕を組み、目を伏せた。


「その点、ミレー家では、エリーゼの妄想癖(シナリオ)のお陰で不自由なく・・・まあ、多少の不自由はあるが・・・、何の問題もなく過ごしている。心配するな」


「・・・分かりました・・・」


ライナスは、あまり納得はいっていないようだが、ここは素直に引き下がった。しかし、心なしかホッとしているように見えるのも確かだ。クローリー家で匿うこともそれなりにハードルが高いことが分かったようだ。


私と言えば、暫く、唖然として言葉が出なかった。

なぜなら、初めてだったからだ。レオナルドがライナスのような側近の前で私を庇うような真似をしたのは。



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