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今日、アランが馬車を降りた場所は、王都の中で幾つもある公園の中で一番大きな公園に沿った道路だった。


「セントラルパークね。お昼時は賑やかだわ」


馬車の窓から公園内の景色を眺める。

この公園は大きさだけではなく、公園内の遊歩道も美しく整備されており、散歩にはもってこいの場所だ。軽食を出している屋台も多く、老若男女問わず、いつも賑わっている。それでいて、適度に警備員が配置されており、治安も良い。


馬車は丁度、公園入口の大きな門の近くで停まっていた。

公園を抜ける中央の道はとても広く、抜け道として通る馬車は多い。


「折角だわ、公園の中を通ってもらいましょう」


私は小窓から公園に入るように、トミーに指示を出した。


ゆっくりと走る馬車から公園の景色を楽しむ。

天気の良い昼時。たくさんの人が行き交う。ベンチで本を読んでいる人やランチをしている人。芝生の上で寝転んでいる人、そこでピクニックをしている人。新聞を片手にホットドックを食べている人や、楽しくおしゃべりをしている人。

秋に入りたてのこの季節は、青空の下でのランチは気持ち良さそうだ。


ふと、私と同じくらいの年齢の令嬢が数人グループになってお喋りを楽しんでいる姿が目に入った。彼女たちはパラソル付きのテーブルに座り、楽しそうにドーナツやらクレープなどの軽食を食べていた。


それを見ていると、その自由さが羨ましくなった。途端に彼女たちの真似をしたくなり、同時にお腹も良い具合に空いていることに気が付いた。


「殿下。ちょうどお昼ですわ! ここでランチにいたしません?」


私はなぜか未だに膝の上に座っているレオナルドに尋ねた。


「ここで? 公園でか?」


「ええ! 見てくださいな。ほら、あんなにたくさんのお店がありますわ! わたくし、あのような屋台のお食事って食べたことがないのです。憧れていたのですが、父と母はもちろんですが、パトリシアまであまりいい顔をしないので諦めていたのですけれど」


「そう言えば、俺も食べたことはないな。街に下りてもそういった場所に寄らないからな」


レオナルドも窓から顔を覗かせて景色を見る。


「今日はパットもいないし、変装もしているし・・・」


「侯爵令嬢でも王子でもない・・・」


私たちは顔を見合わせた。そして同時にニッと笑った。

私は小窓を開けて再度トミーに声を掛けた。


「トミー。停めてちょうだいな! ここで一休みするわ!」



☆彡



馬車から降りると、渋るトミーを振り切り、レオナルドの手を引いて、ルンタッタと屋台の並ぶ場所まで歩いて行った。


「いろいろなお店がありますわね! 迷ってしまうわ! どれにしましょうか??」


「俺はあれがいい! 特製ソーセージのホットドック!! あの『チーズ増し増し』ってやつ!」


レオナルドは嬉しそうに一つの屋台を指差した。


「まあ! 魅力的なフレーズですわね! わたくしはどれにしようかしら??」


私もウキウキしながら屋台を見渡す。


「えーっと・・・、あ! あのドーナツ! チョコレートドーナツ! クリームいっぱい!」

「ドーナツじゃ、おやつじゃないか」

「あのクレープもいいわね!」

「スイーツだぞ? いいのか?」

「殿下ったら、スイーツを昼食代わりにする背徳感が堪らないのではないですか! ワクワクするわ!」

「そういうものか???」


早速、ホットドックの店に並ぶ。店からはソーセージの焼ける香ばしいに匂いが漂ってくる。そこに酢漬けのオニオンの甘い香りも相交じり、食欲を刺激され、更にとろけるチーズがこんもりとかかっているそのビジュアルに私はノックアウトされしまい、ホットドックを二つ注文した。


「結局、わたくしも同じにしてしまいました」


ベンチに座って、レオナルドに一つ渡す。二人して同時にホットドックにかぶり付いた。


パリッとソーセージの皮が破れる音がしたと同時に、熱々の肉汁が口の中にバッと広がる。ケチャップとマスタードとチーズが絶妙にマッチししており、細かく刻まれたオニオンのシャリシャリとした食感も調度いい。


「美味っ!!」

「美味しい~~~!」


「大正解だわ! グッジョブです、殿下!!」

「そうだろ! そうだろ! 俺の目に狂い無いんだ! ワッハハハ!」


得意気に胸を張る二歳児。口の周りをケチャップと油だらけにして嬉しそうに笑う。

無邪気な笑いに、思わず私も釣られて笑った。


あまりの美味しさに、二人して夢中になってしまい、想像以上に早く食べ終わった。


「じゃあ、馬車に戻りましょうか。スイーツも食べてみたかったけど・・・」


ハンカチでレオナルドの口元を拭きながら、そう言うと、レオナルドは首を傾げた。


「なら、買えばいいじゃないか?」

「え? 二つも食べていいの?」

「え? 何で、いけないんだ?」


キョトンとするレオナルド。私はパチパチと瞬きしながら彼を見た。


「食べたければ食べればいいじゃないか」

「そ、そうですわよね! そうよ! 何を気にしているのかしら、わたくしったら!」

「俺はドーナツが食べたい」

「わたくし、クレープ!!」


私はレオナルドを抱き上げると、スキップしながら屋台に戻った。



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