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「危ないところでしたわねわ・・・」


無事に馬車が走り出し、私は窓からパトリシアの姿が小さくなっていくのを見ながらレオナルドに話しかけた。


「お前が変な事を言うからだろうが! なにが、デ、デートだっ!!」


隣に座るレオナルドはギャイギャイ喚いた。


「だってぇ、ああ言えばさっさと引き下がると思ったんですもの」


私は口を尖らせた。


「実際、すぐ引き下がったじゃないですか。でも、まさか、殿下を取り上げられるとは思いませんでしたわ」


「ガキ付きの若い男女の逢瀬があるか! 侍女にしたら気を使って当然だろうが。詰めが甘いんだ、詰めが!」


プンスカと腕を組む。上から説教でもするような態度にイラッときて、私は彼の両頬を摘まんだ。


あにほ(なにを)するっ!」


レオナルドは怒って私の手を掴んだ。


「あっさり薬を盛られる隙だらけなお人に言われたくありません」


私は彼の頬をムニムニと摘まむ。


あんらろ(なんだと)~!」

「一体誰のためにこんな三文芝居を打っていると思っていらっしゃるの?」

ななへ(離せ)~!」」

「ぜーんぶ貴方様のためですのよ? 分かっていらっしゃる?」

くほ(クソ)~! 分かってる! らから(だから)、はなへ~!」


私はレオナルドの頬から手を離した。


「まったくもう・・・。こっちは協力している立場なのですよ? わたくしのやり方に文句ばかりおっしゃらないで」


前のみたいに本気でつねってはいないのでそれほど痛くはないはず。でも、レオナルドは頬を痛そうに摩りながらキッと私を睨みつけた。


「でも、お前が・・・。お前が変な事を言うのが悪いんだ・・・」


小声でそう言うと、ツンッとそっぽを向いてしまった。



☆彡



街の中心部に来ると、前回のようにカツラを被って変装し、馬車も貸し馬車に乗り換えた。


その貸し馬車で大通りをゆっくり流す。途中、とある角を曲がると、馬車が停まった。


「失礼します」


開いた扉から入ってきたのはアランだ。アランは素早く乗り込むと、急いで扉を閉めた。


「ごきげんよう。アラン様」


「おはようございます、殿下、エリーゼ様。お呼び立てして申し訳ございません」


アランは恭しく頭を下げた。


「構わない。報告を」

「はっ!」


黄色と白のストライプ柄でブリブリのフリル付きのドレスを着た二歳児の女の子が、キリリッとした顔で命令する姿は、何度見ても違和感がある。

うっかり半目になっても仕方がないと思われるその姿に、姿勢をピンと伸ばし、至って真面目に応対するアランに心から感心する。


それ以外に、もう一つ違和感に気付き、私はレオナルドに尋ねた。


「・・・あの、殿下。なぜ、わたくしの膝の上に座っていらっしゃるのです?」


アランが来るまで、隣に並んでちょこんと座っていたはずなのに、いつの間にか私の膝の上に座ってふんぞり返っている。


「この方がアランの目線に近くなるから」

「そんなに大して変わらないでしょう?」

「全然違う」

「ちょっと、わたくしは椅子じゃなくってよ?」

「アラン、続けてくれ」

「無視か!?」

「はっ。陛下と王太子殿下への報告はお手紙を差し上げた通り・・・」

「そっちも無視!?」


二人は私を無視して話し始めた。アランはレオナルドの精一杯威厳を示す態度を無駄にしてはいけないと思ってのことだろう。大した忠誠心だ。


大真面目に話し始めた二人の間に茶々を入れる雰囲気ではなくなった。

私は諦めて、レオナルドを膝に抱いたまま、二人の会話を聞いていた。



☆彡



「陛下と王太子殿下への報告はお手紙を差し上げた通りでございます。お身体が幼児に変化(へんげ)されてしまったことに対してはひどくご心配されておりますが、生きておられたことに、心から安堵成されておりました」


「そうか・・・」


「すぐに王命で秘密部隊を組み、極秘でウィンター家とバーディー家、そしてクロウ家の調査に入りました。また、王太子殿下の警護を厚くするように部隊を組み替えました。王太子殿下付きの騎士であるエリオット大尉だけには、レオナルド殿下の秘密を共有し、常に連携を取れる体制にして頂きました」


「エリオット大尉か・・・。彼なら信頼できるな」


「はい。それから・・・、ウィンター家の令嬢ですが」


淡々と報告をしていたアランの声のトーンが少し低くなった。顔色もグッと引きしまる。

私もレオナルドも息を呑んだ。


「令嬢の存在を確認いたしました。まったくお変わりなくお過ごしです。大人のまま。幼児の姿にはなっておりませんでした」


「やっぱり・・・」

「やはり、そうか」


私とレオナルドは同時に呟いた。



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