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夕食を終えた後、暴れるレオナルドを無理やり風呂に入れた。


「いつまで不機嫌でいらっしゃるの? いい加減、慣れてくださいませ」


ベビーベッドの上で、ムスッとした顔のレオナルドにネグリジェを着せながら話しかけた。レオナルドはツンッと顔を背けた。


「もう! 仕方がないでしょう? こんなおチビさん一人で入浴なんてさせられません、危険ですから。お身体は見ないように気を付けているではないですか。我が家にいる間は我慢なさってくださいませ」


私はブチブチ小言を言いながら最後のボタンを留め終えると、お終いとばかりに彼の肩をポンと軽く叩いた。


「・・・違う・・・、それで怒ってるんじゃない・・・」


「え? 何ですか?」


レオナルドが何かをボソッと呟いたが、よく聞こえずに聞き返した。しかし、レオナルドは口をへの字したまま答えない。

私もこれ以上機嫌を取るのも面倒なので、無駄に聞き返すことはせずに、


「寝る前にホットミルクでもお飲みになりますか? よく眠れるように」


そう言って、その場から離れようとすると、


「お前、俺の言ったことを忘れたのか!? アイツはもう婚約が決まっているんだぞ!」


レオナルドは私の腕を掴むと、キッと睨みつけてきた。


「は?」


私は一瞬何のことか分からず、首を傾げた。


「だから! アランだ! アイツはもう婚約が決まっているんだ!」


「ええ、覚えておりますわよ? 遠縁のご令嬢の方でしたわよね? それがどうされましたの?」


「だ、だから! アイツとその・・・、恋に発展するなんてこと・・・。そ、そんなことは絶対ないからな! 無駄な期待するなよ!」


レオナルドは私からバッと手を離すと、腕を組み、フンッとそっぽを向いた


「あら? そんなこと分かりませんわよ。だって、アラン様の婚約はまだ正式に決まったわけではないのでしょう?」


「な!」


レオナルドは目を剥いた。驚いたような顔で私を見ている。


「わたくしがどなたと恋に落ちようと、もう殿下にはなーんにも関係ございません。とやかく言われる筋合いはないのです。そうでしょう?」


「ぐぬ・・・」


シレッと答える私をレオナルドは下唇を噛み締めて睨みつけた。


「婚約破棄されたわたくしが殿下の恋に口を挟む資格がないのと同様に、殿下もわたくしの恋路に口を挟む権利などないのです」


「く・・・」


ベビーベッドの手すりを握りしめ、悔しそうに私を睨み続けるレオナルド。何故にそんなに怒っているのか理解に苦しむ。捨てた元婚約者が自分の側近と恋に落ちることはそんなに不愉快なものなのか。まあ、分からないわけでもないが。


「でも、ご安心なさいませ、殿下。わたくしがこれから誰かを好きになるにしても、殿下とは縁もゆかりもない殿方を選びますから。お嫁に行くにしても然り。父にはそこのところよーくお願いしておきます。理解して下さるでしょ、きっと。王都からずっと離れた辺境の地の殿方でも紹介していただきますわ。いっそのこと、異国だって構いません」


私は肩を竦めてレオナルドを見た。彼は驚いたように目を丸くしている。顔色がどことなく青ざめているようだ。


「殿下??」


私の呼びかけに、レオナルドはハッとしたような顔をして、


「・・・もう、いい。寝る」


力なくそう言うと、ゴロンと横になった。


「ホットミルクはよろしいの?」


「いらん!! 寝る!!」


そう怒鳴ると、ガバッとシーツを頭から被った。


まったく・・・。何を拗ねているんだか・・・。



☆彡



翌日、レオナルドは朝からソワソワしていた。

恐らく、アランからの知らせを待っているのだろう。


「昨日の三時頃にお会いしたのですよ? 朝一に連絡が来るとは思えませんわよ?」


私は、ソワソワと忙しなく部屋をウロチョロ動き回っている二歳児に話しかけた。


「そんなことはない。一報くらいあるはずだ。父上と兄上の反応くらいは知らせてくれるだろう」


「あ、確かにそうですわね・・・。でも、もうちょっと、落ち着いてくださらないかしら。さっきから目うるさくってしょうがないのですけど・・・」


私の願いなど耳に入らないのか、相変わらず、部屋中をウロウロ歩き回っている。


そこに部屋のドアをノックする音が聞こえた。返事をすると、パトリシアが入ってきた。


「お嬢様。お手紙が届いております」


レオナルドはダダダッとパトリシアのもとに駆け寄った。


「手紙!!」


パトリシアに向かって必死に両手を伸ばすが、パトリシアはレオナルドににっこり微笑むだけ。傍に来た私に向かって手紙の乗ったトレーを差し出した。


「どうぞ、お嬢様」


「ありがとう。パット」


私が手紙を受け取ると、レオナルドはくるりと向きを変え、今度は私に向かって必死に両手を伸ばす。

差出人を見ると一文字だけ書いてある。アランの頭文字だ。


「ご苦労様。下がっていいわ」


「はい。失礼します」


パトリシアを下がらせると、私はレオナルドにその手紙を渡した。

レオナルドはひったくる様に手紙を受け取ると、急いで封を開けた。むさぼるように手紙に見入る。


「なんて書いてありました?」


読み終わったのを見計らって、私はレオナルドに声を掛けた。


「父上と兄上には俺が無事だと伝えたと。お二人とも安堵されているようだ」


レオナルドはホゥ~っと肩の荷を下ろすように吐息を吐いた。



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