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「って、おい! 大丈夫か?! お前だってバレたら・・・」


パトゥール子爵夫人の一行の後を追い始めた私に、レオナルドは驚いたようだ。


「変装しているから大丈夫ですわよ。アラン様だってわたくしだって気が付かなかったくらいですもの」


私はスタスタと彼女らの後を追う。


「おい! エリーゼ、待てって!」

「ちょ・・・、何ですか!」


レオナルドはいきなり両手で私の頬を挟み、無理やり自分に向かせた。


「ミランダの話よりもお前の・・・、お前のことをネタにされるかもしれない」


そう言うと、申し訳なさそうに目を伏せた。


「あ、そうでしたわ。わたくしも時の人でしたわね」


すっかり忘れていた。私は夜会の場で婚約破棄された女だった。巷のご婦人たちには格好のネタではないか。


「ふん、丁度いいではないですか。どのようにわたくしの事をお話しされるか聞きたいわ」


「何言ってるんだ。嫌な思いをするかもしれないぞ?」


「ご安心なさいませ、嫌な思いをするのは慣れておりますから。誰かさんのお陰でね」


私はレオナルドに向かってニッと笑って見せた。


「でも・・・」

「あ! お店に入ってしまうわ! 急ぎましょう!」

「って、おい!」


パトゥール夫人一行が一軒のカフェに入っていく。

私は小走りで彼女たちを追いかけ、同じカフェに入った。



☆彡



パトゥール子爵夫人が選んだカフェは、私のお気に入りのカフェの二軒隣だった。なかなかお洒落だが、私のお気に入りよりもラフな感じだ。そのせいか、客の入りも多く、賑やかで、ゴシップネタを話すのには適した場所かもしれない。


私はパトゥール夫人のグループ近くの席を陣取ることに成功した。しかも、運よく、パトゥール夫人を背中合わせにした真裏。


初めて訪れたカフェなので、本当ならばスイーツを吟味したいところ。しかし、気持ちはそれどころではない。適当にお勧めのケーキ二つと、コーヒーとオレンジジュースを注文した。


「俺もコーヒーがよかった!」

「二歳児が飲むものではございません」


駄々をこねるレオナルドにピシャリと言い放つと、その後は背後の会話に集中する。

席に着いたばかりなので、彼女たちの会話はまだ至って普通の世間話だ。


暫くすると、同じタイミングで、ご婦人方グループと我々のテーブルにケーキと飲み物が運ばれてきた。


ボーイが立ち去ると、まるでそれが合図だったかのように、パトゥール夫人が弾んだ声で話し出した。


「皆様! 今日はとっておきの話がございましてよ! 宮殿内の出来事ですので、皆様にはあまり縁のない事かと思いますが、お知りになりたいでしょう?」


驚いた。いきなり上からか! 大した夫人だ。


彼女自身は貴族であるが、所詮子爵夫人であり、自分自身も同格の子爵家の出身だ。

本来であるならば、よほど大きな夜会でなければ王宮から声が掛かる家ではない。しかし、彼女がこんなにも社交界に詳しいのは、自分の母親が侯爵家出身であり、その母親の縁故で上位貴族と繋がりを持っており、その伝手を駆使して、上位貴族の夜会にも上手く入り込んでいるのだ。


だが、ここ近年、その母親が隠居した上に、その母親と縁のあった人達も第一線から退き始めており、パトゥール夫人は微妙な立場にいる。必死に上位貴族社会に食らい付こうと躍起になっている最中で、名のある侯爵家夫人や上位伯爵家夫人に媚びへつらっている姿を見かけたことがある。

当然、我がミレー侯爵夫人である母にも近寄ろうとしていたが、母はもともと社交界を好まず、公の場に出ることがあまりない―――と言うよりも、父が母を表に出さないと言った方がいいか―――ために事なきを得ている。


「第三王子レオナルド殿下の婚約者であるエリーゼ・ミレー侯爵令嬢が、先日の夜会で殿下から婚約破棄を言い渡されましたのよ!」


やっぱり、最初は私の話題ね。



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