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私は机に座るとペンを取った。


「うーん、なんて書けばいいでしょう・・・?」


隣には、並べて置いた椅子の上にレオナルドが立って、私の手元を覗いている。


「王子行方不明の非常事態の最中に、本当ならわたくしなんかを相手にしている暇など無いのですものね。簡単な手紙では断られてしまうかもしれないわ」


真っ白な便箋を前に首を捻る。


「そうだわ!」


一つ案が浮かんだ私はパチンと指を鳴らした。


「恋文にしましょう!!」


「はあああ?」


「そうよ、それなら無下に断ったりしないのでは? 侯爵令嬢のわたくしの面目が潰れないように会ってはくださるでしょう。あの方は紳士ですからね、きっと私の立場を慮ってくださるわ」


「な、な・・・」


レオナルドは完全に呆れているのか言葉が出てこない。チラリと見ると顔を真っ赤にしてプルプル震えている。


「さっきの殿下のお話から閃きましたわ! グッジョブです、殿下」


私はレオナルドにグッと親指を立ててみせるが、彼はキッと睨んできた。私の案が気に入らないのか、怒っている模様。しかし、私はそれを無視してペンを走らせた。


「えーっと、まずは、『愛するアラン様』っと・・・」


「愛するだぁ?」


「だって、恋文ですもの。初めて書きますから分かりませんけれど、これがスタンダードではありません? えー、そうねぇ。『突然お手紙を差し上げるご無礼をお許しください・・・』」


カリカリとペンを走らせる。


「『・・・実は長年貴方様をお慕いしておりました』」


「お慕い・・・」


「『本当ならばこの想いはそっと心に秘めて生きていくつもりでした。しかし、天が味方をしてくれたのでしょうか。今、わたくしは自由になりました』っと・・・」


「・・・」


「『もう、この想い秘密にする必要はないのです。誰にも邪魔されず、堂々と伝えることが出来ます、貴方様を愛していると・・・』って・・・あ! ちょっ、殿下、何をなさるの?!」


突然、横から手が伸びてきたと思ったら、便箋を取り上げられた。

振り向くと、レオナルドはその紙をぐちゃぐちゃに丸めている。


「殿下! 何をなさるのよ! わたくしの力作!」


「こんなこと書かなくていい!! アイツが本気にしたらどうするんだ!?」


キーッと喚くと、手紙を床に放り投げた。


「どうせ、すぐにネタばらしするのだし、いいじゃありませんか」


私はプクッと頬を膨らませ、レオナルドを睨んだ。


「普通に場所と時間を指定して呼び出せばいい!」


「そんな簡素なお手紙で大丈夫ですか? 来てくださらなかったらどうするおつもり?」


「アイツは律儀な奴だから来る! 大丈夫だ!」


偉そうに両手を腰に当て、ふんっ!踏ん反り返る。


「え~・・・、でも、それじゃつまらない・・・」


「だから、遊ぶな! 緊急事態なんだぞ!? 分かっているのか?!」


「・・・。分かっているからこそ、確実に呼び出そうと思ったのですわ」


図星を突かれ、私は不貞腐れたよう口を尖らせた。

仕方がない、サラリと用件だけ書くことにしよう。



☆彡



書いた手紙はトミーに託した。


それからは、母とお茶と昼食を共にするなどして、約束の時間まで屋敷で過ごし、戻ってきたトミーの馬車で、こちらが指定した場所まで向かった。


「来てくださるかしら? アラン様」


停車中の馬車の中で、長い金髪のカツラを被った私は、隣に座っているレオナルドに尋ねた。


「手紙は無事に届けたと、トミーは言っていましたけれど」


「届いたのなら大丈夫だろう。心配するな」


彼は腕を前に組んで、どっしり構えている。

王子然とした態度を取っているが、ピンク地に白のドット柄の愛らしいドレスを身に纏い、お揃いのリボンで髪を飾った姿で言われても、違和感しかない。逆に不安になる。


暫くすると、外から人の話し声が聞こえてきた。


「こちらの馬車でございます」


トミーの声だ。


「・・・侯爵家の馬車ではないようだが?」


こっちはアランの声。

よく気がついた。そう、これは急遽借りた馬車。我が家の馬車は預かり所に停めている。乗り換えたのだ。

流石、王子付き騎士様。用心深い。とても訝しんでいるご様子。


「お嬢様の使いの者が中で待っております。どうぞ中へ」


「・・・」


トミーが促すが、アランは躊躇している。なかなか馬車の扉を開けない。

気が短い私は、隣のレオナルドを抱き上げた。


「なっ! 何をする!」


驚くレオナルドを無視して扉の窓のカーテンを開けると、この愛くるしい女の子の顔をアランに向けた。


「子供・・・?」


アランはレオナルドに気が付き、小さく呟いた。私はそっとレオナルドの横から金髪で半分ほど隠れた顔を覗かせ、軽く会釈をした。


「怪しい者ではございません。ご安心ください」


トミーは再度促す。

アランは小さく息を吐くと、意を決したように、馬車の扉を開けた。



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