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私は真っ白くなってしまった只の紙切れを握りしめたまま、レオナルドはへたり込んだまま、暫くの間、二人とも呆けていた。


「・・・下手したら・・・一ヶ月・・・」


足元から小さく聞こえた呟きに、ハッと我に返った。


「・・・もしかしたら・・・、一生このまま・・・?」


「や、止めてくださいませ! 殿下! 縁起でもない!!」


絶望的な顔で呟くレオナルドの言葉に、私は飛び上がった。


「だ、大丈夫ですわよ、殿下! 小さくする薬が出来たのです! 大きくする薬だってできるはずだわ! しかも、こんなまやかしの姿! きっと、若返りでも何でもない、ただ単に姿だけを変えてしまう代物! もしかしたら、効き目が切れたら元に戻るという可能性だってあるじゃないですか!」


「そう・・・かな・・・?」


「ええ、そうよ! もしかしたら、薬ができる前に元に戻るかもしれませんわよ?」


私はレオナルドの前に腰を落とした。


「きっと、薬だって十日以内にできますわよ。ザガリー様だって言っているだけでしょう。一ヶ月は掛かり過ぎだもの」


「ああ・・・、そうだよな・・・」


暗い顔で俯くレオナルド。


「それとも、もしかしてザガリー様って呪術師としてはヤブなのですか? 人としての信頼度は高くても腕はイマイチとか。信用できませんか?」


「そんなことはない! 彼は一流の呪術師だ!」


レオナルドはバッと顔を上げた。


「彼は以前に兄上を助けたことがある! 兄上が毒を盛られて、医者もクリスも・・・、名のある呪術師の皆がお手上げ状態だった時、ザガリーだけが薬を調合できたんだ」


そんなことがあったのか?! 全然知らなかった・・・。


「な、ならば、信用できるではありませんか。信じましょう! ね?」


「ああ。そうだな」


私の励ましに、レオナルドの顔に少しだけ血の気が戻ってきた。


「それにしても、一ヶ月はないわ。ここは意地でも十日以内に作ってもらわないと。明日辺りガツンと発破かけた方がいいかしら」


私は独り言のように呟いた。


「いや、ザガリーだって善処しているはずだ。これ以上余計なことは言わない方がいいだろうな」


レオナルドは溜息を付くと、ゆっくり立ち上がった。


「でも、伸びれば伸びただけ、殿下の女装も長引きますのよ? よろしいの?」


「っ! それ! それな! それは駄目だ!」


重大なことに気が付き、レオナルドはクワッを叫んだ。


「でしょう? それに、あまり長いとわたくしたちの設定が崩れてしまいますわ。それも困りものです」


「設定?」


「だって、『真実の愛』と勘違いして平民と駆け落ちした殿下(ミラちゃん)の母親が、両親に助けを求めに行っている間だけ預かることになっているので」


「・・・」


「そうね、こっちも両親の説得に『思いの外手こずっている』ということにするしかないわね。それか、道中、物取りに遭って時間が掛かってしまったとか・・・。でも、それも物騒ねぇ・・・」


私は首を捻る。


「領地に帰った途端、両親に監禁されてしまったというのはどうかしら・・・。今度こそ、本当の婚約者と結婚させるとか何とか言って・・・」


「・・・」


「でも、愛する我が子のもとに戻るため、何とか邸から抜け出して・・・」


「・・・おい」


「着の身着のまま、森の中をさまよっている中、例の暴力亭主に見つかってしま・・・」


「もうその辺でいいぞ」


私の妄想はレオナルドに遮られてしまった。いいところだったのに。


それにしても、フェルナン王太子も薬を盛られていたなんて・・・。

その事実も隠されていたとは・・・。

ああ、王宮って恐ろしい。怖い世界だ。やっぱり、私には務まりそうにない。



☆彡



「どうしましょうか、殿下。こちらとしましては、てっきり明日にはお帰り頂けると踏んでいたのですが・・・」


私はレオナルドとソファに並んで腰かけ、彼に尋ねた。


「このまま誰にも知らせないとなると、王宮内はどんどん混乱してしまうと思いますけれど・・・」


「ああ・・・、それにウィンター伯の動きも気になる・・・。担ぎ上げようとした俺がいなくなって、どうするつもりか・・・」


レオナルドは顎を摩り、どこか一転を見つめ、考え込んでいる。とても二歳児の仕草とは思えない。


「兄上に危険が及ばなければいいが・・・」


「どうにかして王太子殿下と連絡を取りたいですわね・・・。殿下だって王宮内の情報を知りたいでしょう?」


「ああ、もちろん。元に戻ってからなんて悠長なこと言っていられない。すぐにでも知りたい」


「ですわよね・・・。ならば・・・」


やはり、ここは父を頼るのが正解なのだろう。

彼は権力者の一人であるし、国王陛下への忠誠心は他の重鎮の見本となるような人で、現王太子殿下からも信頼が厚い。


しかし、ここで父を頼ったら、レオナルドは生涯一生彼に頭が上がらなくなる。

確実に私の前に土下座を強いられ、婚約破棄を撤回させられるだろう。


「・・・どうした?」


私の顔が曇ったことにレオナルドは首を傾げた。


「いえ・・・。では、殿下、信頼のできる側近の方とどうにかして連絡を取るようにしましょう」


うん。やはり、父は最後の砦として残しておこう。



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