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「お疲れ様でした。ミラちゃん」

「やめろぉー! その呼び方!!」


二人して部屋に戻ってきたので、レオナルドに労いの言葉を掛けたら怒鳴られた。


「お前なあ! 選りによって何でその名前なんだ!」


私の足元でレオナルドはギャイギャイ喚く。相当お冠。

そんな彼に向かって、私は可愛らしく首を傾げて見せた。


「あら、どうして? 可愛いじゃありませんか、ミランダちゃん。お好きでしょ? 殿下」


「お、おま・・・っ!」


「それともレベッカちゃんの方がよろしかったかしら?」


「そういうところだ! そういうところっ! 本当に悪意を感じるぞ!」


「しょうがないでしょう、咄嗟に出てきた名前がそれだったのですもの。他意はありません」


私は肩を竦めて頭を振った。レオナルドはフーッフーッと肩を怒らせた子猫のように私を睨みつけている。

しかし、私はそれを華麗にスルーして、


「それにしても、グッジョブでしたわよ、殿下。お母様を味方に付ければもう大丈夫ですわ」


彼に向かって親指を立ててみせた。


「なんせお父様はお母様にとても甘いので」


「え・・・あの宰相(カタブツ)が?」


「ええ、母にはデロデロに甘いですから。彼女をあれだけ完全に陥落しておけば、まず追い出される心配はないでしょう。ミッションはほぼ完了です」


私は頷いた。


「とは言いましても、父については杞憂かもしれませんね。この王子行方不明(非常事態)の状況下で、国の重鎮である父が城から出て来られるとは思えませんもの。昨日も帰った様子はなかったですし・・・」


「・・・そうか・・・」


私にそう言われて、レオナルドは己の状況を再確認したのか、急に反省の色が見え出した。

怒らせていた肩がスッと下がった。


「父や他の大臣様方、近衛隊の方々、お城中がきっと寝る暇もないほど忙しくされているはずですわ」


「ああ・・・」


肩がさらに下がる


「国王皇后両陛下も殿下の御身を案じて、生きた心地もされていないのではないでしょうか」


「うん・・・」


どんどん下がる。


「フェルナン王太子様も必死に殿下をお捜しでしょうね・・・、下手したらご自身のせいだって勘違いなさっているかも・・・」


「・・・うん・・・」


ズーンと肩を落とすレオナルド。


「これも殿下の軽率な行動のせいですわ。腹に一物を抱えた者と分かっていながら傍に置くなんて・・・。自分なら上手くやれるとお思いになったのでしょうけれど、それは傲慢ですから」


私は最後にトドメと食らわすと、彼はガックリと項垂れてしまった。


「でも、まあ、そのお姿も残り二日ですわ。明日は無理でも、明後日にはお薬は出来上がるでしょう。その間、みーーーっちりと反省なさってくださいませ」


私はそう言うと、レオナルドのヒョイと抱き上げた。

顔を覗き込むと暗い顔をして若干涙目。


「そして、残った時間は元に戻った後の策でもじっくりお考えくださいな。さ、今からパトリシアがアンディのレモンケーキを持ってきますから、お茶にしましょう。母を陥落させたご褒美です」


レオナルドは抵抗せず、小さくコクリと頷いた。

いつもこのくらい素直だったらいいのに。


☆彡



私の予想した通り、夜になっても父は帰って来なかった。


母とレオナルドと私の三人で夕食のテーブルに着く。

レオナルドの右手はまだ痛そうなので、母の前で汚らしい食べ方をされるのも憚れることもあり、結局私が彼の口にスプーンを運ぶことになった。


二歳児の隣で甲斐甲斐しく世話を焼く私を、母は優しい眼差しで見守っている。

恐らく、私が楽しんで母親の真似事をしていると信じているのだろう。

レオナルドも母の手前、嫌がらず口を開け、パクパクと平らげていく。


部屋に戻ると、抵抗するレオナルドの服を無理やり剥がし、風呂に入れ、可愛らしいネグリジェを着せた。


「寝巻まで何で女物を着なきゃいけないんだ!」


用意してもらったベビーベッドの中で、レオナルドはプンプンと仁王立ちしている。


「いつ母に見られるか分からないですもの。あの人、意外と古風で保守的ですのよ。女の子が男の子のパジャマを着ているのを見られたらきっと怒りますわ」


「それに、なんだ! このベビーベッドは!」


レオナルドは柵越しに私を睨むが、


「当然でしょう。わたくしと同じベッドに寝られるとお思いになって? 図々しいですわよ」


私もレオナルドの前に腰に手を当てて仁王立ちした。


「お、同じベッドがいいなんて言っていない! そこのソファで十分だ!」


どうやらベビーベッド自体にプライドが傷ついたのか。ソファよりよっぽど良いではないか。


「ダメですよ、ソファは。殿下は寝相が悪くて落ちてしまいますから。柵が無いと不安です」


「落ちる・・・?」


「ええ。昨日、ソファに寝かせたら、物の見事に落ちたのですよ、だから仕方なくベッドに・・・」


言いかけて私は言葉を噤んだ。

もしかして、右手ってその時・・・?


レオナルドも気が付いたようだ。自分の右手を見た。そして、ソファに目をやった。私も釣られてソファを見る。


「あの高さから・・・?」


う・・・。二歳児から見たらかなりの高さ。

あの時に怪我をしたというならば、それは私の監督不行き届きとなるのか?

あれ? もしかして、私のせい?


一瞬沈黙が走る。


「ここで寝る・・・」

「そうしてくださいませ・・・」


レオナルドはゴロンと横になると、ガバッとシーツを頭から被った。

私は彼に無駄に追及されなかったことに、ホッと溜息を付いた。


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