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誰にも見られることなく無事に部屋に戻って来ると、早速、髪染めでレオナルドの金髪をダークグレーに染め上げた。

ここまではザガリーの指示でもあるので、レオナルドも大人しく従った。


問題はここから。

レオナルドは女の子の装いに激しく抵抗したのだ。まあ、想定内だが。


しかし、レオナルドはパトリシアには己の正体をバレないように、二歳児らしく振舞わないといけないのだ。

私に対するように暴言を吐くわけにいかず、とは言え、正しい二歳児の振舞いがどういうものか見当の付かない彼はダンマリを通すしかない。ひたすら無言で暴れ回る。


しかしながら、どんなに暴れようとも、所詮二歳児の男の子。大人の女性二人相手に適うわけがない。


必死の抵抗も空しく、身ぐるみ剥がされ、ブリブリのフリルとリボンがふんだんにあしらわれた、とっても女の子らしい可愛いドレスを纏わされた。


「きゃあ! 可愛い! 天使のようです! ねえ?! お嬢様!」


「・・・そうね・・・」


出来上がったレオナルドの装いを見て、パトリシアは歓声を上げる。


あんなに暴れていたというのに、彼女は大して苦ではなかったらしい。

私は肩で息をしているというのに・・・。


腕で額の汗を拭き、ゼーゼーと荒れた息を整えながら、鬼のような形相で仁王立ちしている小さな天使を見た。


確かに、その怒った顔が笑顔になれば、本当にお人形さんのように可愛い女の子だ。その怒った顔さえなければね・・・。こっちを睨みつける顔が憎らしいので可愛さが半減される。


「及第点ってところね・・・」


「そんなぁ、お嬢様、厳しい! 可愛いじゃないですか! 満点ですよ、満点!」


パトリシアはニコニコとレオナルドを見て、可愛いでちゅよ~、なんて言っている。

そんな彼女をレオナルドは白目で睨んでいる。


「まあ、いいわ・・・。では、早速、お母様の所に連れて行きましょう。さあ、行きましょう、殿・・・坊や」


私はレオナルドの手を引いてあげようと手を差し出した。しかし、彼はプイッと派手に顔を背けると、ズンズンと一人で扉に向かって歩き出した。


しかし、残念なことにドレスの裾が長かった。


ロングスカートなんて履いたことがない彼は、その裾を踏みつけ、ビターンッと派手に前に転んだ。


もう・・・、だから手を繋ごうとしたのに・・・。本当にバカなのか?


私は彼の傍にしゃがむと、床にうつ伏せで這いつくばっている彼の顔を覗き込んだ。


「ぐぬぅ・・・」


相当プライドが傷付いているようだ。歯を喰いしばって、涙を堪えている。


「はいはい。痛かったでちゅね~、立っちしましょうね~」


私はそう言いながら彼を抱き上げた。


「よしよし、お利口さんだから泣かないでくださいな~」


背中をポンポンと叩く。


〔エリーゼ・・・、貴様・・・、本当に覚えてろよ・・・、このやろ・・・〕


ギリギリと歯を喰いしばりながら、耳元で小さく呟く。

ふん、涙声でそう言われても全然怖くないから。



☆彡



私はレオナルドを抱えたまま、母のいるリビングに向かった。


「失礼します。お母様」


窓際に置いてあるソファに腰掛け、優雅に刺繍している母に向かって挨拶をする。


「まあ、エリーゼ。具合はいかが? 今朝は朝食にも来なくて心配していたのよ? お昼は召し上がった? ・・・って、その子は・・・?」


母は顔を上げて私を見た途端、目を丸くして固まった。


「ごめんなさい。お母様。今朝は忙しくて。実は朝早くから出かけておりましたの」


「そ、そう・・・? そ、それで・・・、その子は・・・? その外出と関係があったのかしら?」


「ええ。お母様」


私は頷くと、母に近寄った。


「この子はわたくしのお友達の子供です。数日ですが預かることになりました」


「あ、預かるって・・・。そんな、急に? そのお友達はどうされたの?」


「実は、訳があって、一人でご実家に向かっているのです。それが王都から離れた領地でこんな小さい子を連れて行けないので、わたくしが預かることにしました」


そう言いながら、母の隣に座った。


「ひ、一人で領地に・・・? 使用人の一人も付けないで・・・? お、お友達って女性よね?」


「ええ・・・。残念ながら、使用人がおりませんの、彼女には・・・。彼女・・・、ご両親の反対を押し切って、平民と結婚しましたの・・・。でも、その旦那様と反りが合わなくなって、ご実家に相談に行きたいって・・・」


「まあ・・・」


「わたくししか頼れる人がいないって・・・」


「そんな・・・」


「お友達も大切ですけれど、こんなに可愛い子・・・、わたくし、とても放ってなんておけなくって・・・」


「そうでしょうけれど・・・、でも、エリーゼ・・・。預けるなら、もっと然るべきところがあるのではないかしら・・・?」


母は、私の話に優しく耳を傾けてくれながらも、簡単に首を縦に振らない。

当然と言えば当然。我が侯爵家の中へ、そんな簡単に身元の不確かな者を入れるわけにはいかないのだ。


しかし、今回は非常事態。ここは何とかして乗り切らないと・・・。

まずは、我が母を陥落させないといけない。



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