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「お嬢様!! 一体これはどういうことですか~!」


帰りの馬車の中、パトリシアが喚いた。


「一時間経っても戻って来ないし、迎えに行きかけたら、見知らぬ子供たちに呼び止められるし! しかも、私とトミーが駆け落ちって、どんな冗談ですか?!」


「うん、ごめんなさい。彼らにお願いするのに信憑性を増そうと思って、つい」


「それだけじゃないです~! その恰好、一体何なんですか!? 一瞬、誰だか全っ然分かりませんでしたよ! っていうか、いつまでしているんですか、そのカツラ!」


そうだった。忘れていた。


「それに、どうしてお友達のお子様がまだいるんですか?! もしかして、やっぱり・・・?」


「そう、その通りよ。パットの言う通り。やっぱり、押し付けられたわ」


私は投げやり気味にカツラを取ると、自分の髪の毛を手櫛で整えた。


「そんな! ど、どうするんですか?!」


「どうするもこうするもないわ。連れて帰るだけよ。面倒見るしかないもの」


「面倒見るって! そ、そんな簡単に・・・!」


「落ち着いて、パット。面倒を見ると言っても、この子を我が家に引き取るというわけではないから。ほんの数日預かるだけ」


「へ・・・? 数日・・・?」


アワアワしていたパトリシアは急にホケっと間抜け面になった。


「そう。数日間だけ、この子を預かるの。いいえ、預かると言うより、守るのよ」


「え・・・? 守る・・・?」


「そうよ。よく聞いて、パット」


私は声のトーンを落として、前屈みになりパトリシアの方へ身を乗り出した。


「実は・・・、実はね、この子、命を狙われているの」


「へ・・・?」

〔は?〕


ますますポカン顔のパトリシア。私の隣にちょこんと座っているレオナルドも呆けた顔をしている。


「昨日話したでしょ? この子の父親のこと。わたくしのお友達の暴力亭主。彼がこの子を自分の子供と認めていないようで、人買いに売ろうとしていたようなのよ!」


「はいぃぃ?! 何ですってぇ!」

〔?!?!?〕


パトリシアは我に返って叫び声を上げた。レオナルドは目をパチパチと瞬きさせている。話に付いて来られないようだ。


「昨日の段階ではそこまで深く話せなかったから知らなかったけど・・・。この子って素晴らしい金髪でしょ? わたくしの友人もその例のご亭主も金髪ではないの。だから、ご亭主は友人の不義を疑っていて・・・。でもね、彼女のお母様は金髪よ。お祖母様譲りなのだと言っても信じてくれないのですって」


「まあ!! だから、暴力を振るっていたのですね!! なんて奴!」


パトリシアは悔しそうに拳を握った。


「頑なに疑ってしまって、もうどうにもならないみたい。修復不可能のようよ」


「だからって、人買いに売るって! なんて人! 人として終ってる!」


「自分の子供でもないし、母親は貴族だし、高く売れると踏んだんでしょう」


「でも奴隷商売は法で禁じられています!」


「そうよ。だからこの子を守らないといけないの」


私は混乱し過ぎて目が点になっているレオナルドの頭を優しく撫でた。


「彼女は恥を忍んでご両親に相談するって言っていたわ。その間だけ、我が家で預かることにしたの。あんなに怪しい通りに構えているお宅より、侯爵邸の方がずっと安全でしょ?」


「確かに!」


パトリシアは大きく頷く。


「その間にこの子の髪の毛も色を変えるわ。念のために変装した方がいいってことになって。ほら、ご亭主は金髪に執着していたから。髪染めも貰ってきたの」


「それはいいですね! ナイスアイディアです!」


パチパチと手を叩くパトリシア。事態を飲み込めたのか、レオナルドはシラケたように目を細めて彼女と私を見ている。


「そうか、変装ね・・・。お嬢様、どうせなら、女の子の格好をさせたらどうですか? 性別まで変装すれば完全にその暴力亭主の目を欺けますよ!」


「はあぁ? う・・・むぐ・・・っ」

「まあ! それはいいわ! それこそナイスアイディアよ! パット!」


奇声を上げかけたレオナルドの口を塞いで、私はパトリシアの意見に同意した。


「そうね! それがいいわ! 数日預かるからにはお父様にもお母様にも許可を取らなければいけないし。女の子の方がお母様の警戒心が幾分か薄れるわ!」


「この子、とっても綺麗な顔立ちをしていますし、ドレスを着せたら可愛い女の子にしか見えませんよ、きっと!」


「そうね・・・、無駄に綺麗な顔立ちしているものね。中身もこれくらい綺麗だったらよかったのに・・・。本当に残念な人・・・」


「え・・・?」


「ううん。こっちの話。帰ったら、早速、変装させましょう! 手伝ってちょうだいね、パット!」


私はニッコリとパトリシアに微笑んだ。

隣では、頭を撫でるふりをして口を塞いでいる私から逃れようと、レオナルドが必死にもがいている。


「お任せください、お嬢様!! お人形さんのように可愛くしてあげましょう!」


フンガフンガと私の腕の中で暴れるレオナルドと、妙に張り切っているパトリシアを乗せて、馬車は軽快に我がミレー侯爵邸へ走って行った。



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