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「それにしても、薬を盛られるなんて・・・。警戒心が欠けているとしか思えませんわね。ご自身のお立場をきちんとご理解されていらっしゃる? まったく、情けない・・・」


私はワザとらしく派手に溜息をついた。


「だから、そういうところだって言うんだっ! 偉そうに!」


「しかも、媚薬って。人生の汚点にしかならないわ」


呆れたように肩をすくめて、フルフルと頭を振ってみせた。


「だからー、媚薬じゃなかっただろうが! この俺の姿を見ろ! もっととんでもない代物だったじゃないか!」


レオナルドは、私に全身を見せつけるように両手を大きく広げ、ふんぞり返った。


「・・・確かにそうですわね・・・。しゃあ、何故、媚薬だと思われたのですか?」


私は顎に手を当て、首を傾げた。


「そ、それは、盛った相手がそう言ったから・・・」


レオナルドは急に気まずそうにシドロモドロになった。ふんぞり返っていたのに急に前屈みになり、目を逸らしてモジモジしている。何かヤマシイことがお有りのご様子。今となっては私に対してそんなこと気にする必要ないのに。


「まあ、盛った犯人は分かっていらっしゃるのね。一体どなたですの?」


「え? え、えっと・・・」


「今更隠し立てしてどうするおつもりですか? こんな惨状をわたくしに晒しているというのに。観念して白状なさいませ」


私は腰に手を当てキッと睨みつけた。


「ミランダ嬢だ・・・」


「ミランダ・・・? ああ、ウィンター伯爵家のご令嬢?」


ミランダ・ウィンター伯爵令嬢。

一昨日の夜会で、殿下の右隣にいたご令嬢だ。女の私ですら惚れ惚れするほどの肉体美を持つ女性。溢れんばかりの豊満な胸を、更に強調するようなデザインのドレスを身に付けて、それを押し当てんばかりにレオナルドの腕に絡みついていた女。


「いかにも媚薬が似合いそうな女・・・」


思わず嫌味が口をついてしまった。いけない、いけない。


「そのミランダ様がどのように媚薬を盛ったのです?」


「だから、媚薬じゃない!」


「どっちでもよろしい!! どのように盛られたかを聞いているのです!」


「・・・二人でお茶をした時に・・・」


私の剣幕に負けたのか、気まずさから一歩引いたのか、レオナルドはボソボソとその時の状況を話し始めた。


「俺が油断したんだ・・・。彼女の手元を見ていなかった・・・。彼女が差し出したお茶を飲んだ途端に体中が熱くなって息苦しくなった・・・。ミランダ嬢を見ると彼女も発情していて・・・」


自分の失態を情けなさそうに首の後ろを摩りながら話す。


「何を入れたんだと聞いたら、媚薬だと。そして、俺に迫って来たんだ・・・」


「あらあら、何て淫らな。それで手を出すなんて」


「違うっ! 俺は手を出してない! 彼女を突き飛ばして逃げて来たんだからな!」


「まあ、何て乱暴な」


「仕方がないだろう?! 理性を保つのに必死だったんだ!」


キーッと喚くレオナルド。

何を怒っているのやら。自分の油断が招いた事態だというのに、か弱い女性を突き飛ばすなんて。でも、ここは理性を保ったことを褒めて上げた方がいいのかしら?


「俺が逃げ出したところに、廊下で様子を伺っていた仲間の男を引っ捕まえて、部屋に押し込んでやった。きっと、そいつが俺の代わりに餌食になっているだろうな」


腕を組んでフンッとそっぽを向いた。


仲間がいたということか。大した女だわ、ミランダ嬢って。


「では、今頃ミランダ様も二歳ほどの子供になっているのでしょうか?」


「え・・・?」


私の質問にレオナルドはハッとしたように顔を上げた。


「だって、ミランダ様もその薬を飲んだのでしょう? 彼女も媚薬と信じて」


「・・・分からない・・・。彼女は俺と違う薬を飲んだらしいから」


レオナルドの顔が曇った。


「俺の方は強い薬だと言っていた・・・」


「彼女は違う薬と分かっていて飲んだということですわね」


どういうこと・・・?

彼女自身はどちらも媚薬と信じていたのではないだろうか?


無理やり情を交わそうとして飲んだのだ。こんな幼児になってしまう薬とは思っていなかったはず。それこそ、お互いこんな幼児になってしまったら目的を果たせないわけで。身体が変化すると知っていたとは思えない。


例え、薬が効いて来るのに時間が掛かることを知っていたとしてもだ。事に及ぶ時間は十分にあったとしても、その後、敢えて二人して子供になって何の意味があるのだろう?


それにしても、二歳児の口から話す内容か? こんな卑猥な話・・・。



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