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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

一季一憂

作者: 白莉子

いつか気づいても絶対に気づかないで_。


感情重めbl作品です…。

高校一年の冬。俺に彼女が出来てから、俺の季節は冬しか訪れない。抱きしめるのも、キスをするのも、愛の囁きも、全部、いつも違う誰かを思い浮かべている。あの人の熱さを求めてる。

この想いにいつか気づくならいつまでも気づかないで。



「蒼太〜!」


教室のドアから走ってやってきたのは2-Cの鹿島乃亜子。髪は肩あたりでくるんと内巻きにしているボブで、スカートは膝上あたりの優等生。そして、俺の彼女でもある。


「乃亜、遅かったじゃん。パンは買えた?」

「ギリギリね!最後の1個です!」


乃亜子は汗を手で拭って自慢げにあんぱんを前に出した。


「あれ?柊くんもいたの?珍しい…いつもは一人で食べたがるのに。」


乃亜子は俺の前の席で無愛想に肘をついて座っている柊を見た。神田柊。黒髪で人相が悪く口調も悪いため、よく人に怖がられる。俺の幼馴染で乃亜子の友人でもある。まぁ、元はと言えば乃亜子と最初に知り合ったのは柊なんだけど。


「お前らといると空気に耐えられねーんだよ。でも今日は蒼太がどうしてもっていうからいてやってるだけで…」

「柊が一人で中庭で食べてたら一年がお前の仏頂面に耐えられなくて逃げ出すからなぁ。これ以上悪いイメージつけたくないだろ?」

「チッ放っとけよ。」


柊ははぁとため息をついて弁当に手をつけ出した。それを見て俺もカバンからパンを取り出す。乃亜子は俺の隣の席に椅子を持ってきて座った。


「蒼太のメロンパン美味しそうだねー!私のあんぱんと一口交換しよ!」

「いいよ。ほら、あーんして。」

「えっ…ちぎってくれていいよ!恥ずかしいし!」

「そう?」


顔を少し赤くして恥ずかしがる乃亜子にちぎってメロンパンを渡す。それを見て柊はまたため息をついた。


「あのなぁ、お前ら。そういうのは他所でやってくれ。クラスの奴らの目がこっちに向いて嫌なんだよ。」

「わぁ!柊くんのお弁当のタコさんウインナーも美味しそう!私のあんぱん一口と交換しよ!」

「話聞いてねぇ…。…ってか、それだとお前のあんぱんなくなるんじゃねーの。別に交換しなくていいからやるよ、ウインナー。ほら。」


柊はウインナーに爪楊枝をさして乃亜子に差し出したが、引っ込めてすぐに俺に手渡してきた。


「お前が乃亜子にやれよ。」

「あー…わかった。はい、乃亜。」

「ありがとう、柊くん!いただきます!」


笑顔で美味しそうに頬張る乃亜子をよそに柊はまたムスッとしてそっぽを向いていた。

…本当わかりやすい奴。


「それじゃ、私自分の教室に帰るね!またね!」

「うん。あっ乃亜、放課後迎えに行くよ。一緒に帰ろう。」

「わかった!待ってるね!」


帰ろうとする乃亜子を見て柊の肩を叩いた。


「柊、乃亜子にばいばいは?」

「…はぁ…じゃあな。」

「うん!柊くん!また一緒に食べようね!」


乃亜子は柊に挨拶をされたのが嬉しかったのか満面の笑みで帰っていった。


「乃亜ってさ、いい子だよね。」


次の授業の準備をする柊に投げかけた。


「何を今更。あいつが頭が堅いのは最初っからだろ。」

「あぁ、柊の方が乃亜のことよく分かってるか。」

「別にそんな意味で言ったんじゃ…!」


振り返って誤魔化そうとする柊を見て気持ちがよくなった。


「誰も彼もに舌打ちしていつも機嫌悪くて怖がられてたお前に乃亜だけが声かけてくれたんだろ?人を偏見で見ないってゆうか…。柊にとっては大事な頭の堅いヒーローだったんじゃないの?」

「好き勝手言ってんじゃねぇ。あいつはヒーローってほど強くねぇよ。俺が喧嘩してんの見た時だって手が震えて…。」

「ふぅん?」

「…お前はどうなんだよ。乃亜子のどこが好きになったんだよ。」


今度はちゃんと鋭い視線を向けられて胸が高鳴った。そういえば、そんなこと今まで聞かれてなかったな。


「いい子で笑顔が可愛いところ。あとすぐ顔が赤くなるところかな。」


いつもの笑顔でいつも通りの俺で答えた。


「…そうかよ。ま、あいつもお前の笑顔が好きだったんだろうな。人当たりもいいし、なんでも出来るし。」


それは"誰と比べて"なのか聞くことは出来たけど、あえて聞かなかった。これ以上意地悪するのはやめておこう。

前を向き直った柊の後ろ姿を見て溢れる言葉をぐっと飲み込む。ダメだ、最近は特に。


放課後、俺は乃亜子と教室に残って課題をしていた。いつも何気ない会話を投げあって適当に過ごせば時間なんてあっという間だ。


「じゃあ、そろそろ帰ろっか!」


乃亜子は課題をカバンに直し席を立った。その時、何故か柊との会話を思い出して乃亜子に質問する。


「…乃亜子はさ、俺のどこが好きで告白したの?」

「えぇ!?いっ、いきなりなに!」


乃亜子は驚いて目を見開いて立ち止まっている。


「好き…って言われたことはあったけど理由は聞いたこと無かったなって。」

「そ、そうかなぁ…。それ、どうしても聞きたい?」


恥ずかしそうにもじもじとする乃亜子の前に立った。


「うん、気になる。」


乃亜子は周りを見て誰もいないのを確認してから、唾を飲み込んだ。


「…えっと、え、笑顔が可愛いところ。優しく、ふわって笑うから…」

「……」

「他にもあるんだよ!?だけど、一番目にあげるならそこかなぁって。好きになったきっかけでもあるし!」


乃亜子は顔を真っ赤にして早口で話す。

そうか、乃亜子は俺のそういうところが…。

理由を聞くとスッキリすると思っていた気持ちは、どんよりと暗く沼にハマっていくように沈んだ。

分かってないな。


「聞けてよかった。ありがとう。」


乃亜子の頬に手を当てると乃亜子はゆっくりと目を閉じた。それに合わせてキスをしようと顔を近づけた瞬間、教室のドアの窓の端に黒髪の人影があることに気がつく。


「…蒼太?」


目を開けて不思議そうにする乃亜子にキスをした。乃亜子は再び目を閉じる。その間俺の目線は人影に向けられていた。


「乃亜、先に降りててくれる?先生に話したいことあるから。」

「分かった!待ってるね!」


乃亜子は走って階段をおりていく。その姿を確認してから開けられている隣の教室のドアに手をかけた。


「…柊、盗み見はよくないよ。」


ドアのすぐ側で立ち尽くしている柊に目線を向ける。先程の人影は柊だったのだ。


「別に……そういうつもりじゃなかった。ごめん。じゃ、俺、帰るわ。」


俺の隣を通ろうとする柊の肩を掴み、前に力強く倒すと、柊は尻もちをつく形で地面に倒れる。


「っ!お前、なにすんだよ!」


痛そうに顔をしかめる柊に跨るようにしてしゃがむ。

…俺にとってのヒーローは柊だった。小学生の頃、女顔だと言われて虐められていた俺の前に立ち塞がって周りのヤツらを蹴散らかす柊の姿は輝いて見えた。怖がられていても、ふと笑う笑顔は優しいことは俺しか知らなかった。でもそれでよかった。俺しか知らなくていい。柊が乃亜子に片想いしていることも、それを今も諦められなくて苦しんでいることも、全部全部俺しか知らなくていい。


「今日、乃亜、薄化粧してたの気づいてた?」

「は?……んだよ意味わかんねー」


気づいてるだろうね。俺よりも乃亜子の事見てるんだから。俺は誰よりも柊を見てるから知ってるよ。


「変わったよね。一年の頃はしてなかったのに。」


乃亜子は俺のせいで変わった。でも今日、俺は柊のせいで変わるんだ。それはさっき傷ついたように立ち尽くしている柊を見て思った。

柊の髪を左手で掴んで強引にキスをした。


「んっ……!」


唇を離して柊の頬を掴んだ。


「これで乃亜と間接キスだね。嬉しい?」

「……は?」


意味がわからないというようにこちらを見上げる柊の瞳に映っていたのは不敵に笑みを浮かべる俺の姿だった。

ダメだ、気持ちが溢れて出てくる。


「いいよ、柊。乃亜のこと好きでいていいよ。これからもずぅっと乃亜のこと好きでいなよ。」


やっと柊とキスできた。柊が俺を見てくれてる。柊の体温、伝わってきた。柊の初恋(乃亜子)を奪ったのは俺だ。あぁ…なんて哀しくて嬉しいんだろう。


「柊が乃亜のことを好きな気持ち、俺にぶつけて。」


大好きな柊が失恋をしている。それがどれだけ俺を安堵させるか知らないだろう。俺の報われない想いは柊の報われない想いによって報われる。

次は柊の前髪を上にあげてでこにキスをした。


「俺、怒ってるよ。だって乃亜のこと好きなんでしょ?でも柊も大事だからさ…柊の気持ち、俺が代わりに受け止めてあげる。」


気づかないで。俺のこの気持ちにいつか気づくならどうか一生気づかないでいて。

俺の止まっていた季節に熱い気持ちが溢れてきた。これでやっと動くんだ。俺のこの気持ちも、俺達の終わりのない関係も。

短編なので続きを書くかは決めてません。初めてbl向け書きました。重い話好きです。

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