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027:聖女育成計画④ マリア、冒険者になる


 ラトスの冒険者ギルドは大通りの一角、町の治安維持を担う衛兵の詰め所からほど近い所にあった。

 古めかしさを漂わせるスイングドアを押し開けば傷だらけの木板張り床(フローリング)に私たちの影が落ちる。

 目を上げ見渡せば統一感もなく並べ立てられたテーブルを一見して荒くれ者と思しき男達が囲んでいる風景があって、それら野獣のような眼光が一斉にこちらを見る。

 まるで西部劇のワンシーンだ。


 ルナお姉様はトテテッなんて軽快な足音と共にテーブル席の向こうへと進み出る。

 歩調に迷いはなく、アリサ様が睨みを利かせながら後に続く。

 私はと言えば少しだけ足が竦んだものの、お姉様から離れたくない一心で足を前に出す。

 一番後ろでは鷗外さんが、淀みない足取りで私を促すように追従している。


 テーブル席の向こうには掲示板であろう衝立が何列か並んでいた。

 衝立には依頼書が張られているのだけれど、今は時間的に忙しさのピークを過ぎた頃合いで、そのせいか全体的に空白が目立つ。

 お姉様はズンズンと奥へと進み、やがてフロア最奥、受付嬢のいるカウンターに辿り着いた。


「ご依頼ですか?」


「いいえ、新規登録に来ました」


「あ……」


 受付嬢は明るいブラウン色の髪を纏めてアップにしている女性で、年齢は二十代半ばといったところ。

 鼻筋がシュッとしていて可愛いよりは美しいと呼ばわった方が適当であろう人だ。

 彼女はルナお姉様の顔に見覚えがあるのか驚いた顔で僅かに声を上げた後、微笑ましげに目元を緩めて「かしこまりました、ではこちらの書類に記載をお願いします」と紙を人数ぶん差し出した。


 お姉様はセットで出されたペンにインクを付けてサラサラと書き込み。

 次に鷗外さん、アリサ様、そして私へと記入を求める。

 記入要項は、名前、年齢、性別といった基本的な情報と、あと簡単ながら得意としている技能。例えば魔法であったり剣術であったり、はたまた鍵開けや罠発見といった冒険者としての能力を書き込む様になっている。

 受付嬢の説明によると特に専門分野が無い人間は無記入で構わないとの事だった。


「技能はあくまでこちらから指名依頼する際に参照する情報でしかないので、必須というわけではありません」


 なるほど。と、私は無記入。

 名前に関してはファミリーネームまで書いて貴族家のお嬢様であると知られたくない都合からファーストネームだけを書いていた。


 お姉様、アリサ様、鷗外さんの三人は特技を“拳法”としており、なのに私だけ無記入。

 そこはかとなく敗北感を覚えてみたりである。


「はい、では受理致しました。冒険者のルナさん、アリサさん、マリアさん、オウガイさん。四人のパーティですね。もし宜しければパーティ名を設定して頂ければ、こちらとしても管理がし易いのですが」


 にこやかに促す受付嬢。

 前世で言うところのファーストフードの店員さんを思い浮かべてしまった私である。


「どうします?」


 お姉様が振り返って見回す。

 私は良い案が思い浮かばないからと首を振り、アリサ様が肩を竦める。

 鷗外さんが「貴女の思ったようにすれば良い」と突き放しているとも全肯定しているとも取れる発言を返した。


「分かりました、では、“アリステア”とでも名付けましょうか」


「その意味は?」


 尋ねたのは鷗外さん。

 確かにチーム名ともなれば“銀の牙”だとか“漆黒の剣”とか如何にもといった名称にするものなのに、どちらかと言えば固有名詞らしきその言葉には聞き覚えが無い。

 意味合いを聞きたくなるのは至極もっともと言えよう。


「ええ、大昔、神代かみよの時代に居たとされる女神の名前です。もう失われて久しい名前。……せめて私が名乗ってあげないと、この世から完全に忘れ去られてしまうでしょうし」


 お姉様がちょっとだけ悲しげに目を伏せる。

 私まで悲しくなってくるから、そんな顔をしないでとつい手を伸ばしそうになった。


「分かりました。俺に異論はありませぬ」


 鷗外さんが告げる。

 アリサ様と私が同意とばかりに頷いて見せる。


「では私たちのチーム名は“アリステア”です」


 お姉様は笑みを浮かべて宣言し、受付嬢はにこやかに「受諾致しました、“アリステア”の皆様。ようこそ冒険者ギルドへ」と述べる。


 ここにチーム『アリステア』が結成された。

 私たちの後ろに並んでいた冒険者のおじさん二人組がギョッとした顔で私たちを見ていたけど、そりゃあ12歳の女の子3人に厳ついオニーサン1人という変わった組み合わせの冒険者チームが目の前にいれば誰だって驚くよね。

 私は後ろの人達に愛想を振りまく意味合いで会釈などしておいた。


 それから私たち『アリステア』の初仕事を何にするかと掲示板の依頼紙を見たところ、薬草採集くらいしかまともそうな仕事が無くてコレを受けることに。

 仕事現場は町の東にある森の中。

 私以外の面々は森の構造をある程度把握しているようで、安全性が担保されているとの見解から満場一致で可決である。


 あと受付お姉さんの話だと、私たちは新米冒険者でランクは最下位の“鉄級”。

 等級は上から、白金級プラチナ金級ゴールド銀級シルバー青銅級ブロンズ銅級コッパー鉄級アイアンの六等級。

 とは言いながら厳密には銅級と青銅級ではDとD+くらいの違いしか無くて、なので五等級が標準的な等級の表記になる。銅級とするには明らかに能力が高いけど銀に上げる程の実力では無いといった微妙なランクが青銅級なのである。


 それで、討伐に関する依頼は銅級コッパー以上でなければ受けられない。銅級でも魔物はダメで野ウサギなどの狩猟的なものだけ、などと色々制約があるらしい。

 まあ、詰まるところ私たちみたいな新米冒険者は薬草集めてるのがお似合いって事ですよ。


「でも、討伐依頼として受けていなくても戦闘そのものが禁止されているワケではないのでしょう?」


 お姉様が意味ありげに笑む。

 受付嬢は溜息交じりに答えた。


「ええ、勿論です。依頼の最中に狩った動物や倒した魔物が稀に落とす魔石などはギルド内で買い取らせていただきます」


「それを聞けて安心しました」


 受付お姉さんは「ですが、くれぐれも無茶はなさらないで下さいね?」と念を押す。

 お姉様が「ええ、勿論です」と頷きつつも、ニヤリとするのを見逃さない私。

 ええ、絶対に獲物を探し回って戦闘を仕掛けるって顔してますよね?


「――では早速行ってきますね」


「本当に、本当に気をつけて下さいね?」


 半時とせずに発行された冒険者登録証を受け取って、お姉様が軽やかな足取りで出口へと向かっていく。

 カウンターを顧みた私は、我が子を案じて止まないお母さん的な面持ちで去りゆく背中を見つめる受付お姉さんを見つけたものである。



◆ ◆ ◆



 ――それはそうと私たちがパーティとして成立したせいなのか、私は皆のステータスを開くことが出来るようになっていた。

 なので密かに皆さんの能力値を盗み見たわけなのだけれども。

 こんな感じである。


****


アリサ・ウィンベル (12)


 Lv:26

 体力:360/360

 気力:520/540

 魔力:200/200

 統率:60

 武力:80

 知略:30

 政治:20

 魅力:50


技能:

 紅華魔導拳術 ランク5

 桜心流氣術 ランク3


称号:

 伯爵家令嬢

 桜心流の弟子


****


 流石アリサ様、レベル26って……。


****


鷗外(34)


 Lv:58

 体力:1230/1230

 気力:980/1020

 魔力:100/100

 統率:90

 武力:130

 知略:68

 政治:20

 魅力:20


技能:

 グラド流闘術 ランク10(MAX)

 桜心流氣術 ランク5


称号:

 グラド流闘術継承者

 桜心流の弟子


****


 うわ、この人、武力だけ異常だ。統率もかなり高い。

 差し詰め特攻隊長ってところかしら。

 けど政治と魅力が低い、つまり三国志で言うところの呂布みたいな立ち位置なのね。

 などと感心した矢先に、こんなウィンドウを見つけてしまった。


****


ルナ・ベル・ディザーク(12)


 Lv:閲覧不可

 体力:閲覧不可

 気力:閲覧不可

 魔力:閲覧不可

 統率:閲覧不可

 武力:閲覧不可

 知略:閲覧不可

 政治:閲覧不可

 魅力:閲覧不可


技能:

 閲覧不可


称号:

 侯爵家令嬢

 桜心流氣術 開祖

 魔王を屠りし者

 神殺し

 超越者

 星を統べる者

 女神アリステア


****


 閲覧不可って何ですかソレは??

 っていうか、物凄い称号がズラズラっと並んでるのですがこれは一体……。

 え、ちょっとまって。

 女神アリステアって、それって……。


 彼女の言葉が脳裏を過ぎった。

 “失われて久しい名前”。

 同時に私はこの名前を知っている事に思い至った。

 乙女ゲーム“蒼い竜と紅い月”で、魔王を倒さんとする聖女マリアに力を貸し与えた女神様がそんな名前だった。

 私の背筋に冷たい物が走る。


 ――この人、女神様ご本人だ。


 私はルナお姉様を指して転生者だと思い込んでいた。

 いや、確かに転生者ではあるのだろう。

 けれど、きっと、私の考えている“転生者”とは意味合いが違う。

 直感なのか確信なのか、私はお姉様の背中と揺れ続ける鋼色の艶髪を呆然と見つめるばかりだった。



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