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009:魔法とは⑤ レイナの授業風景(見せつけ)


 ベータス先生の授業が終わったら次は魔法基礎学。

 教室にやって来たリベリア先生から「まずは皆さんの魔法を見せて頂きます」なんて言われて学園敷地内にある魔法訓練場へとゾロゾロと引率されて赴く。


 私の視点で言えば、確かに各々が持ち魔法を披露するといったエピソードはあったし、ここで各キャラの属性を見せるといった意味でイベントとしては重要なのも分かる。


 けれど普通に考えて、魔法基礎と言えば構文とか理論とか暗記するところから始まるのが相場だってのに、まだ日も浅いうち――入学式から三日が経っているけれど、この間に同学科は一回しか無かった。その一回も自己紹介と雑談で終わったように思う――からの実践なんて、実際の授業カリキュラムとしては如何なものかとも思う。


 ゲーム内ではモブキャラそのものだった先生は、ひょっとしたら大人しそうな顔してほんのり天然というか型破りな人なのかも。なんて思ってみたり。

 まあ、魔導士とか研究者ってのは得てして変人が多いから、そういったものと納得してしまえばそれまでなのだけれど。


 辿り着いた先は円形のだだっ広いグラウンドで、石というよりコンクリートで固めたような継ぎ目の見当たらない壁の向こうには観覧席なのか段々になった勾配とそこに据え付けられた長椅子があって、私たちの到着前から待っていたのか数名の教員が既に着座していた。


「訓練場の壁一面には防御結界が張り巡らされていますし上に対しても下に対してもシールドが展開されています。強度的にはいにしえの大魔導士が放つ攻撃魔法にも耐えられる使用ですので最高火力で魔法をぶっ放しても何も問題ありません」


 アップにした青紫の髪と掛けた眼鏡で知的なルックスを演出しているリベリア先生。

 女性用スーツの上から魔法使いっぽさを醸し出すローブを身に付けている女性教員が朗らかに、悪く言えば能天気そのものといった口調でクラスの生徒達に言って聞かせる。


 ……あ、そっか。

 と、ここで唐突に理解した私。

 私たちが所属しているのはアルファ・クラスなのだけれど、ここには乙女ゲームで登場するヒーローだけでなく聖女マリアも悪役令嬢ルナだって同じく在籍している。

 こんなにも重要人物が集まっているのはクラス割りに何やら作為的なものを感じたけれど、実際のところ意図的にこの面子を揃えているんだと分かった。


 つまり魔力値などの基礎能力が高いかしくは将来の地位が約束されている人間ばかりを一纏めにしたのがこのアルファ・クラスなのである。

 例えるなら一流大学を目指す進級組みたいな感じで。

 なぜかと言えば、魔力値や才能の高い人間とそうでない人間とでは同じ「魔法使い」を養成するにしたって教育内容や方針を変えるのは当然の話だから。

 学園としては管理しやすいし、生徒達にしても人脈コネクションを作るのに適している。

 双方の利害が一致しているからこその編成なのである。


「では皆さんの今の実力を測ります。名前を呼ばれた人から何でも良いので魔法を発動させて下さい」


 このリベリア先生の無茶振りよ。

 普通に考えるなら入学したての新入生に「魔法を使って見せろ」なんて言わない。

 だって、そもそも全員が全員とも魔法が使えるとは限らないのだから。

 けれど、アルファ・クラスが最初から有能なエリート予備軍で固められているのであれば話は変わる。

 構成する大部分が貴族家であれば一つや二つの魔法は習得している公算が高い――貴族が必ずしも魔法を使えるとは限らないけど、確か蒼紅の設定だと大多数は高い魔力を備えているとか何とかだったように思う――し、庶民の出でも魔導士の血筋に連なる人や問題をお金で解決しようとする豪商のお子さんであれば市井に出回っている魔導書の一冊でも手に入れて習得、競争相手になる他の生徒達に見劣りしないよう裏で努力していたって何の不思議もない。

 詰まるところがアルファ・クラスに割り振られている時点で入学初日に魔法の奥義を使って見せろなんて無理難題であってもまかり通ってしまうような人かも知れないのだ。


「最初は、アベル君から始めて下さい」


「はい」


 グラウンドの中央付近に正規兵の甲冑と思しき鉄鎧を着せた案山子かかしを立て、そこから5メートルほど離れた地面に白線を引くとそちらで待機するよう指示された。

 小脇に抱えたファイルを開いて案外にお胸の大きなリベリア先生が曰う。

 呼ばれたアベル王子が進み出て、両手を案山子に向けてかざした。


「では、始めます」


 ――《光爆閃フレア・ライト》!


 キュン、ドカンッ!


 彼の掌の向こう側に光の魔方陣が出現したかと思えば次の瞬間には発動し、案山子が軽い爆発音と共に砕け散る。


 ……え?

 と思ったのは生徒達一同で、その中には私も含まれていた。


 確かに蒼紅原作でもアベル王子は光属性を得意とするキャラで、イベントとして行われる実習授業でも光属性魔法を使用する。

 主人公マリアが光属性特化で、そこに共感みたいな感情が芽生えるといった展開なのだし。

 けれど蒼紅の同イベントで彼が行使したのは《光弾ライト・スパーク》という初級の攻撃魔法であって、《光爆閃フレア・ライト》は中級攻撃魔法に分類される。

 その証拠に彼のかざした先で案山子は跡形も無く消失しているじゃない。


 蒼紅に記載されていた記述を信じる限り、何の変哲もない鉄鎧と見せかけて防御魔法が付与されていて初級攻撃魔法なんかじゃ破壊はおろか傷一つ付かなかった筈。

 リベリア先生は驚きに固まっていたけれど、それでも三秒ほどで我に返って端で待機していた係員(?)に新しい案山子を用意させた。


「で、では次はカイン君」


「ああ」


 呼ばれて進み出たアッシュグレー髪の王子様は胸の前で手で印を組んだ。


「いくぜ」


 ――《暗黒槍牙ダーク・ジャベリン》!


 すると彼の頭上に真っ黒な槍が出現、凄い勢いで飛んで行くと簡単に案山子を貫き通した。


「「「おぉ……!?」」」


 初っぱなのアベル王子の魔法が派手だったからか、そこまで衝撃は受けない。

 けれどあの魔法だって立派な中級だ。

 本当なら魔法発動と同時に十数本の槍が出現し飛んで行く筈なのだけれど、今回は一本だけ。恐らく魔力を絞ったからだと思う。

 ザワつく生徒達を横目にリベリア先生が次、次と名前を呼び続ける。


 アベル王子が光属性。

 カイン王子が闇属性。

 他の主立ったキャラを言えばダルシス・ウォーレス君は炎属性。

 ヒューエル・ハイマール君は水属性。

 ロディアス君は風属性になる。

 となると土属性は? って話になるけど実はこの場には居ない。

 教員の一人として学園に勤めている美丈夫が土属性なのだ。

 というか、ヒルト・アーバインという先生なのだけれど、本当に居ないのかと見回したところ壁の奥、観覧席から私たちの様子を窺っているのが見て取れた。


「では次、レイナ・アーカムさん」


「はいっ」


 そうこうする内に私の順番が回ってきた。

 私は意気揚々足を進めると白線の手前に立つ。


「……」


 一瞬だけ無印主人公マリアと悪役令嬢ルナのコンビを見る。

 見てなさいよ。魔力測定じゃあ後塵を拝したけれど、技術では決して引けを取らないってところを思い知らせてやるんだから!


 集中して掌に魔力を集める。

 使用するのは炎系魔法。

 それもとびきり派手なのをお見舞いしてやる。

 そう意気込んで複雑な魔術回路を顕現させた。


「いくわよ!」


 ――《鳳翼紅蓮ブレイブ・フェニックス》!!


 術式が発動した瞬間に現れたのは真っ赤な炎に包まれた巨大な鳥。

 現状で私が使える最大火力。……まあ厳密に言えば上から二番目なんだけど。

 ランクから言えば中級と上級の中間に分類されるような高火力魔法だ。

 かれこれ三体目になる案山子に向けて大きく手を振る。

 術者の合図を皮切りに飛び出した火の鳥が、凄い勢いで地表スレスレを滑空、そのまま案山子にぶち当たり簡単に焼き尽くす。


 別段炎系が好きなわけでもないけれど、派手なのは確かに派手なのでこの場で使った。

 威力よりも魅せる事を考えれば悪くないチョイスだと自画自賛する。


「おおぉぉおっ!!」


 案山子の成れの果て、炭化した欠片がまだブスブスと音を立てている様を見て生徒達がどよめく。

 どうよ、これで私を虚仮こけにする人間なんていないでしょうよ。

 勝ち誇って顧みる私。

 けれど優越感に満ちた顔は彼女らの視線を受けて萎んでいく。


「あらあら凄いですわね」


 言いながらニヤリとしている怪物主人公マリア。


「さすがはレイナさん、といったところでしょうか」


 私と仲良くしたいと曰った筈の悪役令嬢ルナが「なんだその程度か」とでも言わんばかりに微笑みこちらを見ている。


 くっ……、コイツら全然ビビッてないじゃない。

 いいえ、あんな余裕はハッタリに違いないわ。

 そう自分に言い聞かせて踵を返す私。


「では次はマリア・テンプルさん」


 見たくない。見せつけられたくない。

 内心で怯える私の事なんて丸っと無視して、リベリア先生の声が響いた。



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