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008:魔法とは④ レイナの授業風景(導入)


 カツカツと黒板の上を走る白線。

 チョークの粉が床に落ちることなどお構いなしに、魔法学の教員は情熱的に語り続ける。


「――魔法とは、端的に言えば魔力と呼ばれる霊的エネルギーに特定の性質を付与して擬似的に自然現象を引き起こす技術で、即ち属性といったものは魔法の本質ではない! 例えば“火炎ファイア”は“ファイ”と同様に初歩的な炎系攻撃魔法だが、術式の発動と同時に手から飛び出す燃え盛る炎というのは本来であれば色も形も無い魔力が魔術回路サークルによって加工された後の物体といった話になる。つまり火やら氷やらといった現象、或いは見た目というのは全て魔力を発現させるための演出でありこれを本質と見誤ってはいけない!」


 教員は名をベータス・リハイン氏といって猫背のくせに長身でひょろ長いと形容するのが似つかわしい見た目40代の男性だった。

 授業開始時に自己紹介と称してされた話によれば、彼は二年ほど前から学園に勤めていて、その前は魔法省に籍を置いていたらしい。

 魔法学園は魔法省の直下になるので形式上は出向になるのだけれど、条件として自分の研究を行うための部屋を一つ貰っており、なので研究にある程度納得のいく結果が出るまでは省に戻るつもりは無いのだとか。

 聞いてもいないことをペラペラ喋るワリに肝心の研究内容は教えないという鬼畜っぷりである。


「――魔法における属性というのは、火、水、風、土、光、闇と6つある。しかし別系統の魔法を含めるなら更に多い。代表的なものは神聖魔法だが、他にも時間と空間に関わるもの、召喚魔法もだし、古代語魔法ハイ・エンシェントもそうだ。マイナーなところを言えば器物に魔法を練り込む付与魔法や置換ちかん魔法などがそれにあたる。古代遺跡に出没するゴーレムは直近十数年で製造された物を含め比較的真新しいダンジョン等で目撃されている個体と比べて根本的な構造が違っており、そこにも何らかの魔法が使用されている事は近年の研究によって判明しているが、構文があまりにも複雑で基礎概念からして違っているために一割ほどしか解読されていないというのが実情だ」


 ベータス先生はよほど魔法にのめり込んでいるのか説明も早口で捲し立ててくる。

 学生達としてはついていくだけで精一杯だ。


「ふ~ん、私の頃とは随分と違うのね」


 私の隣ではルナ侯爵令嬢が神妙な面持ちで呟いているけれど、私の頃って何よとツッコミ入れたい衝動を抑えるばかり。

 まあ、魔法の基礎概念なんてものは、私は完全にマスターしているから話半分に聞いているだけでも充分なのだけれどね。


「――次は魔術回路サークルについて。魔法を発現させる際にその前段階として魔術回路サークルが出現するが、これは自然現象を魔術構文に置き換えた際に現れる、言うなれば現象そのものと言える物で、故に正確性が要求される。

 魔法を行使するにあたって呪文を詠唱する詠唱式と呪句を省略する無詠唱方式が存在するが、速度の観点から実用性が認められるのは無詠唱方式で、だが火力を要する場合でかつ時間的猶予がある場合に限って詠唱を行う。

 とはいえ現役魔導士の大多数が使用しているのは半詠唱方式で、即ち本来であれば一時間以上を要する呪文を一節単位で圧縮して繋ぎ合わせる事で発動に至るまでの時間を大幅に短縮させる手法だ。

 まあ、魔法とはイメージを起点としており、故に無詠唱で発動させるためにはどうしたって熟練を要するから君たち新入生が使用する事は無かろうが、卒業試験ともなれば一つか二つは無詠唱で術式を展開させる事が必修となるので心しておくように」


 ベータス先生の話は続く。

 けれど知っている。

 確かに卒業するための条件の一つに無詠唱魔法の行使があるけれど、貴族家ならではの方法、つまり賄賂を握らせることで実際には出来ていなくとも履修済みの証書を受け取る事ができるということを。

 だって、そうでもしないと留年生が大量生産されちゃうからね。

 無詠唱って、要は呪句の詠唱や消費される魔力の調整をイメージ力というか頭の中だけで完結させる手法だから高精度な魔術回路を想像できる才能がないと発動までもっていけない、つまり出来ない人は一生頑張ってもできないみたいな部分が確かにあるから。


 ……それにまあ、誰だってお金は欲しいし、学問だって暇とお金があってはじめてできることだし。貴族相手の商売であれば尚のことそこら辺の融通は利くって話でしかない。


「これだから魔法は苦手なのよねぇ」


 ルナがまた呟く。

 私が目を遣れば神妙な顔を見つける。

 ほんと、お人形さんみたいに整った顔よね。

 同い年の筈なのに一つか二つ年下に見える童顔は、なのに妙な色気を感じさせる。

 金属質な光沢を放つ銀色髪が肩から流れ落ちる様を見ているとつい手を伸ばして触れてしまいそうになる。

 そんな衝動を押し殺して授業に集中する私。


(というか向こうからやって来る視線が痛いんですケド……)


 黒板と時々ルナの横顔を見ている私は授業開始からなるべく気付かないよう目を向けないよう努めている方をチラ見した。

 するとルナの向こうからやって来る威嚇にも思える視線とかち合う。

 敵意の籠もった目を私に向けているのは純真可憐な筈の蒼紅(無印)主人公マリアだ。


(いい加減にしてよぉ……)


 魔力値7万だか8万だかの怪物級聖女は、さすがは初代主人公の貫禄といったところか。

 ってかアンタそんなキャラじゃないでしょと言いたい気持ちでいっぱいである。


「――本日の授業は以上とする」


 こんな感じで先生の講義は終了した。

 学生達は皆一様にホッと安堵の息を漏らす。

 私も、意味合いはちょっと違っていたけれど息を吐き出した。



授業内容なんてものは前提情報を提示する場面でしかないので必要事項をダーッと出したら後はもう端折っていく方針です。

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