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020a:広場での一幕


 ――ここは王都メグメルの中央広場。

 およそ一年前にさる貴族家のご令嬢がデビュタント・パーティーを執り行った頃合いに広場の真ん中に建てられた巨大スクリーンは今や王都の名物であり、訪れた旅人であれば絶対に見ておくべきと言わしめるほど有名な観光名所と化している。


 巨大スクリーンには今も尚、侯爵家ご令嬢のパーティーの模様が映し出されている。

 いや、放映から三ヶ月ほどで一度は打ち切られているのだ。

 貴族様とはいえお嬢さん一人を題材とした映像をいつまでも流しっぱなしにするのは如何なものかといった論調が他の貴族家から上がったから。

 けれど王都じゅうから再放映の嘆願が寄せられ、不満を溜め込んだ民衆たちが今にも暴動でも起こしそうな勢いだったものだから王家としても渋々ながら再放映を決定したという経緯があって。


 なので二番煎じ三番煎じで他の可愛い子を起用して新たに作られた宣伝映像が順繰りに放映される今になってもデビュタント・パーティーの映像は一日に一度か二度の頻度で差し挟まれるようになっていた。


 新しく制定された法律により、作成された映像というのはいつ、どこで、どれだけの期間放映されるか事前に取り決められており、今は絶対数が少ないために順繰りでの放映となっているが、将来的に各区画に一つはスクリーンが設置される予定だったし、更に技術革新が進めば一家に一台、あるいは個人で一台と、そういった放映される映像を受信して映し出す端末機器的な魔導具が発明され普及するかも知れないといった予想を元に法整備されている。


 そんな、大映像時代の幕開けを予感させる風景の内側で、順番に映し出される宣伝映像の中にあってさえ今なお一年前に撮られたルナ侯爵令嬢のデビュタント映像は人気があった。


 “王都の民はルナお嬢様に恋をする”。

 それがメグメルに住まう人々の共通認識なのである。


「なあ、聞いたか?」

「なんだい藪から棒に」


 その日も広場には大勢の人々が集まっていた。

 カップルと思しき若い男女、荷馬車にお粗末ながらも商材を積んでやって来た行商人。良さげな仕事が見つけられずに暇を持て余した冒険者パーティ等々、性別も年齢も様々な人々が何をするわけでもなく、巨大スクリーンに映し出されている誰とも知れない娘さんがどこそこの商会で大売り出しやってますとか、新商品はお値段お幾らだとか主に商売に絡んだ映像をぼんやり眺めている。


「あのルナお嬢様が最近になって活動を始めたらしいぜ」

「え、ルナ様って言やあパーティーの後に体調を崩して寝たきりになったって聞いたんだが」

「それが聞いた話じゃあ少し違うんだ。なんでも西にあるラトスって町で女神アリステアに見初められて神の眷属になったとかならなかったとか」

「ラトスって言えば女神教の総本山じゃあないか」

「ああ、聖導教会の目があるから大っぴらにゃ言えねえけどな。それでルナお嬢様は引き換えに長い眠りに就いたって話だ」

「そんな話どこで聞いたんだよ」

「いやなに、ラトスに知り合いがいてな、ソイツから聞いたんだ」

「それで、そのルナ様がどうしたって言うんだい?」

「ああ、それなんだが、どうやら最近になってお嬢様が目を覚まされたって話なんだ」

「そいつは目出度めでてえ事じゃあねえか。だったらお祝いに酒場で一杯どうだい?」

「良いねえ、丁度俺もそんな気持ちなんだ。女神様の復活に乾杯ってな」


 いい歳した男二人が昼間っからそんな話をしている。

 何食わぬ顔で戯れ言を聞き流していた老婆が、ハッとした顔で巨大スクリーンを指差した。


「お前さん達、酒場で引っ掛ける前にアレを見てご覧よ」

「「え? ――っ!!!」」


 目を上げた男達が驚きに目を見開いた。

 周囲で思い思いに歩いていた人々も同様に目を同じ所へと注いでいる。


『こちらは王都の老舗、ロンダル商会から新発売される健康器具です。ちょっと試してみますね♪ ……こ、これはなかなかに……腰が伸ばされるのが良く分かります。これ凄い……、お値段は小金貨三枚。ちょっとお高いと思われた方のために、今ならもう一つお付けします! お問い合わせは王都メグメルの○△番地へどうぞ!』


 天上の音楽かとさえ錯覚させるまでに冷涼で優美な、それでいて仄かに色気を漂わせる音色が響き渡る。


 スクリーンに投影されているのは輝かんばかりの光沢を放つ銀色髪の少女で、動きやすそうでそれでいて扇情的な衣装を身につける彼女は頭上にある鉄棒へと手を伸ばすとぶら下がったじゃあないか。

 僅かに上気した頬が愛らしくも美しい。

 露わになっている太ももの白さが眩しい。

 服の隙間からチラリと覗いたお腹。鉄棒から手を離して着地した後ともなると恥じらいに目を伏せ、それでも商品の説明を行う健気さと一途さが庇護欲をそそる。


 愛くるしくも美しい。

 地上に舞い降りた幼き女神様。

 そんな言葉がしっくりくる映像だった。


「ルナお嬢様だ……」

「ルナちゃん……」

「お美しい」


 人々の口から自然と漏れ出る感嘆の言葉。

 男達にしてもほんの数秒前まで酒場で酒を呷ろうと考えていた事なんて綺麗さっぱり忘れて、そんな少女の立ち姿に見惚れてしまう。


「なあ、ルナ様って、ホントに女神様なのかも知れないな」

「お前もそう思うだろ?」


 男達は悶絶しそうな気持ちを押し隠すように囁き合う。

 しかし少女の映像はこれで終わらない。

 エプロンドレス姿で焼きそばパンなる商品を頬張る姿や、あと魔導具店の前でのお店紹介。

 三本立て。

 観衆にしてみれば至福の時間。


 女性であっても「や~ん、可愛い~ぃ♡」なんて黄色い声を上げている所を見るに、その美貌は性別に関わらず人を魅了する代物であると察せずにはいられない。

 二週目の体操着姿のルナ様を凝視した後で、男達は口を開いた。


「悪い、俺ちょっと急用を思い出した」

「奇遇だな。実は俺もなんだ」


 そして足早に広場から去って行く男達。

 少女の天元突破した可愛らしさに魂を抜かれてしまった男達がその後どこで何を致したのかなんて誰にも分からない。

 しかし再び顔を突き合わせた時には各々賢者のような面持ちだった事だけは追記しておこう。


 “王都メグメルの民はみんなルナ姫様に恋をする”。

 それは再び熱狂の渦へと堕ちてしまった王都の人々が口を揃えて言う台詞であったという。

今回は人々の反応編ということで。

時々そういうの挟みますんでご了承下さい。

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