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悪役無能女帝に成り代わって今度こそ推しを幸せにします!  作者: 永久保セツナ


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第24話 真の主人公

 ――春雨国との、命運をかけた戦いから1ヶ月ほど経った。

 女帝――の中の人・鈴華は、私室でため息をついている。


(ねえ、経朱。本当にアレで良かったの?)


『良いのじゃ。百華は、妾の呪縛がないあの頃が一番美しかったからのう』


 女帝の私室、その窓から見えるのは、四皇子がひとり、最百華。

 ただし、今の彼は「女帝・経朱と夜伽をする前の彼」だ。


 百華は十五歳のとき、わずか七歳の経朱と無理やり契らされた。

 その大罪人である桃燕は春雨国と宝菜国の戦いに巻き込まれ、もはや帰らぬ人となっている。

 だから、これで百華を汚す者はどこにもいないし、彼が狂ってしまうこともない。


 すべてがキレイに解決したはずなのに、鈴華は納得がいかなかった。

 だって、その傷を負って苦しんでいる人は、もう自分の魂の同居人――経朱しかいないのだから。

 もしかしたら、それは経朱なりの百華に対する『愛』なのかもしれないし、『償い』なのかもしれない。


『スズカよ。妾はこれで満足なのじゃ。百華に余計なことを言うでないぞ』


 穏やかな、微笑みさえ浮かべているような口調の経朱に、鈴華は驚きっぱなしである。

 きっと、彼女はずっと百華に対して罪悪感を抱えていたのだろうと思った。

 彼女のせいではないにしろ、百華を狂わせたのは、結果的には経朱がきっかけだ。


(でも、これで本当にいいのかな……?)


 鈴華は窓際で頬杖をつきながら、百華を眺めていた。


「丁狭兄さま、本気で仰っているのですか?」


「僕は正気だとも」


「あの暴君の経朱が? とても信じられませぬ」


 百華は目を皿のように丸くして、丁狭の話に耳を傾けていた。

 彼には「経朱との夜伽を強要される前」までの記憶しかない。

 そんな男が「経朱が心を入れ替えて善政を行うようになった」と聞かされたら、相手の正気を疑うのは至極当然とも言える。

 しかも、その心変わりのきっかけが、未来の異国から来た少女の魂が女帝に取り憑いたなどと、まるで夢物語だ。


「スズカは悪いやつじゃねえから、百華兄ィも一度会ってみるといいぜ」


「へえ、ずいぶん彼女への評価が変わったじゃないか、心用」


「猟陰兄ィだってアイツのこと好きだろ~?」


「……スズカ……異国の少女、か」


 皇子たちの歓談のなか、百華はひとり呟く。

 なにか大切なことを忘れているような、ポッカリと胸に穴が空いているような気分だった。


 さて、と鈴華は考える。

 桃燕や側近たちは既に死に絶えて、国民がクーデターを起こすような悪政をすることもなくなった。

 宝菜国を滅ぼす心配のあった敵国も桃燕たちと一緒に滅びたし、女帝はこの通り、しおらしく政治に向き合おうとしている。

 乙女ゲーで考えうる限りのバッドエンドの種は、ほぼ消滅したはずだ。

 ……はずなのだが、問題は。


(どうしたら私は元の世界に帰れるの~!?)


 そう、彼女はいつまでたっても夢から覚めないのである。

 頬をつねることも何度もやったし、壁に頭を打ち付けるのは痛いだけだし、偶然侍女に見られて変な顔をされたので恥ずかしくなってやめた。

 これはただの夢ではない、というのは、これだけ長い夢を見せられていることからなんとなく勘づいてはいたけれど。


(もしかして、夢を終わらせるためのトリガーは、どこか他にある?)


 ――しかし、それが分かれば苦労はしない。

 うーん、としばらく頭を引っ掻いていたが、やがてスン、と冷静になった。


「よし、わからないことは考えても仕方ない。散歩にでも行こう」


『妾はそなたのその切り替えの速さ、嫌いではないぞ』


(あはは、ありがとう)


 いずれは、経朱にこの体を返さなくてはいけないな、と思う。

 もう二度と、彼女が悪政を行うことはないだろう。

 ……まあ、経朱の意思ひとつで、意外と簡単に体の操縦権は切り替えられるみたいだけど。


(ねえ、経朱。私、このまま貴女の体を操ってていいの?)


『妾はどちらでも構わぬ。必要に応じて妾が勝手に体を取り戻すゆえ、そなたも好きにするが良い』


 彼女の口調からは余裕すら感じられた。これこそまさしく女帝、って感じ。

 以前の尊大で臆病な彼女からは考えられないことだ。きっと、この魂の同居状態から結構な年月が経って、彼女も変わったのだろう。


 侍女を呼んで、ともに宝玉宮の庭を散歩する。

 庭とはいえ、それはとても広大な敷地で、石で舗装された道や人工の池や川、果てにはよくわからない石像などが点在している。

 池のほとりに竹でできた長椅子があったので、そこに座って休憩しながら、手を水に浸した。

 ……冷たいという感覚はたしかに認識できるのに、それでも目覚めない。まったくどうなっているのか分からない。


 そこへ、草をガサガサと踏む足音が聞こえてきた。


「ああ、陛下! ここにいらしていたのですね」


 女帝が伴っているのとは別の侍女が、こちらに駆け寄ってくる。その後ろには、初めて見る顔……のはずだが、どこかで見たことのあるような女が立っていた。


(んん……?)


 はて、どこで見たんだったか、と首を傾げる鈴華に、侍女が紹介する。


「新しく宮仕えすることになった侍女です。名前は魅音(みおん)


「み、魅音ですって!?」


 思わずぎょっとして大声を出してしまった鈴華に、侍女たちは目をパチクリさせた。


「陛下、既に魅音をご存知だったのですか?」


「え、あっ、いや、ホホホ……」


 鈴華は必死に取り繕おうと引きつった笑いを返す。


(――魅音が、なんでここで出てくるのよッ!?)


 魅音とは、この乙女ゲーの主人公。

 すなわち、真の主人公が、思いもよらぬ形で登場したのである。

 しかし、本来この主人公は、百華の戦績の報奨として都の中から選ばれて、女帝から彼に与えられるはず。


(乙女ゲーのストーリーが変わっちゃった……私のせい……!?)


 鈴華は魅音と和やかに挨拶を交わしながら、内心穏やかではなかったのであった。


〈続く〉

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