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侯爵夫人(暫定)様とのお茶会で

 花嫁を奪還したダーレン達は、意気揚々とドラゴネシア伯爵家のタウンハウスに騒々しく帰って来た。


 なぜ伯爵家に帰って来るのか。

 なぜならば、ドラゴネシア侯がタウンハウスなど一度として持ったことなど無いからだ。


 侯爵は滅多に辺境より出てこない上に、王家に招集されれば伯爵家のタウンハウスか王宮の用意した宿舎を利用する。そのため、無駄に維持費がかかるタウンハウスなど不要なのだ。

 質実剛健と言えば聞こえがいいが、辺境警備にだけ意識を集中したいドラゴネシアは、伯爵家のタウンハウスを利用すればいいじゃないか、と考えるだけだ。


 しかし今回はそれでは困ると、レティシアの母のレイラはぼやいていた。


 ダーレンは王から直筆の結婚許可証を手に入れており、イスタージュ伯爵との契約は済んでいるため、ダーレンと美しきヴェリカ嬢は結婚したも同じだ。

 ならば、彼らは初夜をいつ迎えても良いことになる。


 しかし伯爵家には未婚のレティシアがおり、レイラは母親としてそんな生生しいことは娘から遠ざけたいと望んでいるのだ。


 否。

 それを理由に自分の夫を含めたドラゴネシアの男達と、見た目は麗しくてもドラゴネシアの男達以上に騒がしい近衛兵達を追い出したくて堪らないのである。


 彼らがイスタージュ伯爵家のタウンハウスを破壊してきたばかりと自慢すれば、温厚で有名なレイラだって戦々恐々とするものだ。


「ご面倒をおかけしてしまって申し訳ありません。明日にはダーレンと発ちますから、どうぞ一晩だけお許しくださいね」


 居間のソファにゆったり座るヴェリカが申し訳なそうな声をあげ、すると、レイラはスイッチが入ったように貴婦人の顔に戻る。


 これはヴェリカが気に入らないからではなく、ヴェリカがダーレンから去ってしまわないようにと緊張しているだけである。

 レティシアには、ヴェリカが昨夜と違いかなり繊細そうに振舞っているように見えて違和感を感じるが、自宅を壊されればそうなるかもと違和感を流した。


「お茶はいかか?娘はお茶に拘りましてね。最近美味しい茶葉を手に入れたばかりですのよ」


「まあ嬉しいわ」


 レイラが目配せをすると、メイド達がさっと動き、数分しないで紅茶の入っているポットと茶器を運んできた。

 大きく花開いた形のティーカップの側面には、結婚を祝う場にはよく使われる葡萄の蔦と幸せを運ぶ小鳥の姿がグリーンの帯の中に描かれている。


 レティシアは急に不安になった。

 彼女は初めてドラゴネシア以外の女性にお茶を振舞ったのであり、昨夜出会ったその時から友人になりたいと願った人に失礼があったらどうしようかと考えてしまったのである。


「このカップもレティシア様が?ダーレンの目の色と同じセージグリーンだわ。なんて素敵な色合いの綺麗なカップなのかしら」


「は、はい。さようでございますわ」


 レティシアは緊張で自分の声が上ずってしまったどころか、不格好な振る舞いしかできないと情けなく思った。さらにそのせいで、ヴェリカのカップに紅茶を注ぐ手が震えてしまう。


 くすくす。


 聞こえるか聞こえないかの笑い声が聞こえ、そのせいでレティシアは自分の振る舞いすべてが恥ずかしくていたたまれなくなってしまった。


「今、無礼な笑い声を立てたのはどなたかしら?」


 ぴきんと凍ったのは、レティシアとレイラこそだった。

 美しいが誰よりも小柄な美女が、ピタッと動きを止めた上で、氷よりも冷たい声を出したのである。


「ヴェリカ様。無礼があったのであれば」

「レイラ様。私こそ無礼を申し訳ありません。ここは客人として振舞うべきでしょうが、私は侯爵夫人の強権を振るうか、単に親友として声をあげるべきか悩んでしまっております。お許し下さるならば、なぜ主人を貶めようとしている使用人がいるのか問い詰めたいところなのです」


「主人を貶めようと?あなたにそんなことなど私達はいっさい――」

「いいえ。私ではございませんわ。同じポットですので、レイラ様もお飲みになったらお判りになるかもしれません」


 ヴェリカはとても上品な仕草でポットを持ち上げ、普通以上に陶器を愛でるように手でポットを支えながらレイラのカップにお茶を注いだ。


 レティシアは訝しさを感じた。

 ヴェリカの所作は優雅この上ないのに、ポットの持ち方がおかしい、のだ。


 しかしレティシアの母は何の違和感など抱いていないようだ。それよりも彼女はヴェリカの機嫌にばかりに気が向いている。彼女はヴェリカの望むまま、ヴェリカが薦めるようにカップに口を付けてお茶を口に含んだ。


「うっ」


 瞬間的にレイラは吐き出すためにハンカチを口に当て、一体紅茶に何が起きたのかと、自分が口を付けたばかりのカップをまじまじと見下ろす。

 レティシアは自分の身が凍るばかりだ。

 ヴェリカがこの家に来ると聞いてから、レティシアこそ茶葉を選び茶器を選びと、ヴェリカの為に出来ることを色々と準備していたのだ。


「どうした事なのでしょう。娘はお茶をブレンドしますが、今までこんなことは」

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