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「婚約破棄を君からしてくれ」


 誰も聞いていない状況でアランの言葉に流されて「破棄の宣言」などしていたら、アランは慰謝料としてレティシアの家に莫大な慰謝料を請求していただろう。

 あるいは、別れたくないとレティシアがアランに縋った事で、アランの無駄な買い物のつけをレティシアが払わされることになる可能性を、レティシアは自分の親友のふりをしてくれている助け手に教えられたのだ。


 そして気付かせてくれた。

 自分こそアランの首を刈れる鎌を持っていたのだ、と。


 美人も不美人も関係なく、人に不義理を働く事こそ責を負うのだ。


 レティシアは真実を見極めようとアランに視線を動かしたが、アランの表情は美女の言うこと全て真実だと語っていた。

 アランの顔色は青ざめ、気まずそうに表情を歪めている。

 レティシアは美女へと向き直った。

 美女はレティシアに頷いて見せる。


「婚約破棄されるなら、どちらから言い出した事なのか、ええ、親友の為にいくらでも証言しますわ。わたくし、あなたの付添い人として全部聞いてましたのよ」


「だから君は関係ないと言っている!!二人のことに口を挟むな」


「あら、お二人?ええと、あなたとレティシア様と考えると、あら、まあ!!あなたの腕にぶら下っているのは、人と数えないお猿さんでしたの?」


「き、君は」


「あらあら。淑女の振る舞いが出来なければ、どんな社交の場でも人扱いされません。あなたこそご存じですわよね」


 レティシアは美女のララへの酷い言いざまに吹き出しかけたが、美女の言葉によって、アランの腕にぶら下るララに対し、初めて「哀れ」と感じた。

 今のララはレティシアからアランを奪ったと喜んでいるけれど、実際にアランはララと結婚するかしら、初めてそう思い付いたのだ。


 ララは本来ならば今回の王宮のパーティには参加できない身の上だ。

 子爵家に縁があるだけの、紳士階級の裕福な家、それだけだ。

 その裕福だって、現在のアランの生活を支えることなど出来やしない、一般の労働者階級よりも豊か、という程度なのだと気が付いたのだ。


 ならばアランがララと結婚する気など一つもない。

 彼女こそアランに安く見積もられていた。


「大事だと思っていらっしゃるなら、見苦しくない振る舞いを彼女に教えてさし上げて。まずは言葉遣い。上の人間への態度。単なる愛人だから必要ないというお考えでしたら、愛人風情を公然の場に連れ出すことが王への不敬に当たると思い当たりなさいませ」


「あい、愛人だと?君達気取りかえった女がララを虐めるのは本当だったんだな。ああ、可哀想なララ」


 アランは美女の言葉の一番大事なことには反応しなかった。

 王への不敬だ。

 王が信頼する辺境伯の大事な従妹への失礼な行為は、そのまま辺境伯への侮辱となり、つまり、辺境伯を信頼する王の顔に泥を塗る行為である。


 いいえ、自分こそドラゴネシアの名に泥を塗っていたわ。

 レティシアこそ自分を情けなく思った。

 兄達がアランに対して一切動かなかったのは、アランからの侮辱をレティシアが受け入れるばかりであったからだろう。


 レティシアは顎を上げる。

 背筋がぴしっと痛んだ。

 背中に感じた痛みは、卑屈となった自分がずっと猫背だったからであろう。


「アラン。ララさんがいらっしゃるなら、私は不要ですわね」


 アランは首が折れる勢いで発言者に顔を向ける。

 アランの驚愕しきった顔に、レティシアはアランがどこまでも自分を小馬鹿にしていたのだと思い知らされた。


「な、なにを急に君は言い出すんだ!!」


「あら、アラン。あなたは最初から私と婚約破棄がしたいと言っていましたわね。ええ。しましょう。父に申し上げ、そして、現在王都にいらっしゃっている我が一族の当主、ダーレン・ドラゴネシア様にも申し上げます。我が婚約者は愛人を作り私に無礼千万ですので婚約破棄がしたいと」


「い、いや。それは待ってくれ!!私達は親友だろ?親友同士互いに傷つかないように別れようと話し合っていたはずだろ?私達は冷静に話し合っていたはずだ。急に何を言い出すんだ」


「いいえ。話し合ってなどいません。私こそあなたに一方的に侮辱されていただけですわ」


「あんたが不細工なんだから仕方が無いじゃない!!アランはあんたに辟易していたの。可哀想なアラン。結婚まで考えた女の子が、外見ばっかり気にする暗いだけの話題も無いつまらない子だって知ったのよ。逃げたくなるものでしょう。それでも優しくしてもらえたのだから感謝だけなさいな」


 ララの言葉はレティシアを一瞬で砕いた。

 レティシアこそアランに初恋を感じていたのであり、アランが最初は自分に恋心を向けていたなどと聞けば、再び自信など無い自分が返ってきたのだ。

 外見ばっかり気にする暗いだけの話題も無いつまらない子だから彼に見限られてしまったのか、と。


「綺麗な人こそ自分を綺麗だって信じないって本当ね。毎日鏡を見るから美しいのが当たり前になっているのかしら」


 レティシアはびくっと肩を震わせ、美女の呟きが自分に向けられたものだったのかと、それこそ不思議だという顔で美女を見返す。

 すると美女はちょっとだけ首を伸ばし、レティシアの耳に囁いた。


「美しいあなた。私が最高だと思うドレスデザイナーを紹介するわ。明日からはあなたが流行を作りなさいな」


「え?」

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