エピローグ 愛を叫ばせてくれ
翌月一日。
時々風によって雪がちらちら舞い散るが、祝福されたように穏やかに晴れた日であった。
この日、宮殿のバルコニーから王直々に近衛特務兵団の発足が伝えられた。
国民は王の姿に歓喜の声をあげたが、彼らが何よりも喜んだのは、バルコニーの下となる王宮前広場にて、近衛特務兵団が兵団長の掛け声とともに剣を構え行進と、観兵式も行われたからだ。
「彼は何て美しいの。兵隊服までデザインしちゃうなんて、あなたはなんて素晴らしいの。私に絵が書けるなら、今の彼を絵にして永遠に残すわ」
レティシアは数か月後には夫になる婚約者の雄姿を眺めながら、彼の素晴らしさに華を添える役割を果たした親友を褒めた。
しかし、その親友は不本意極まりない、という顔だ。
「どうかなさって?セシリア」
「あの上着はもともとリカエルの為にデザインしたの。彼はとても気に入ってくれたはず。王宮に売り込みに行っちゃうぐらいだから、たぶん」
レティシアは笑顔を崩さないように努めた。
ドラゴネシアを良く知っているレティシアは、セシリアがデザインした兵隊服が凄く素晴らしくとも戦闘には向かないとわかっているからだ。
人目を引くと言う事は、それだけ敵に見つかりやすいという事なのだ。
「彼こそグリーンジャケットが似合うと思ったのに」
「基本グレーか黒にして、あなたの綺麗な髪の色を目立たない場所にパイピングしたデザインならば、彼は喜んで着ると思うわ」
「やっぱりあの人は気に入らなかったのね!!」
「は!!」
レティシアがしまったと思った瞬間セシリアに背中を押され、それはギランが兵を止める号令を上げたのは同時であった。
群衆から一歩だけ前に出てしまったレティシア。
しんと静まり返った広場にて、全ての視線がレティシアに集まった。
「あわ、あわわ」
金色の髪を煌かせ、空よりも青い瞳をした、クラヴィスの本物の王子達よりも王子様然としている兵士は、婚約者に向かって右手を差し出す。
「さあ、来てくれ!!レティシア・ドラゴネシアよ。私に君と言う素晴らしき人を世界に紹介させてくれ!!」
「もちろんよ」
その呟きはレティシアのものではない。
レティシアの侍女として付き添っていたセシリアの呟きだ。
彼女は手際よくレティシアが羽織っていた外套をレティシアから剥ぎ取ると、再びレティシアの背中を押した。
セージグリーンの外出用ドレスは派手さの無いものであるが、蜂蜜色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした美女の本来の美しさを際立たせていた。
レティシアを目にした者達は一様に感嘆の溜息を吐く。
そして、次は羨望の溜息だ。
婚約者に風邪をひかせまいとギランが自分の上着を脱いで彼女の肩にかけ、そのまま彼女を腕に抱いたのだ。
「彼女は私の婚約者だ!!」
王宮前の広場にはギランの幸せいっぱいの大声が響いた。
レティシアは嬉しさのあまりにギランの首に両腕を回す。
絶対にこの幸せを逃すものかと思いながら。