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一線を越えてしまう前に

 あと二日はギランがドラゴネシア伯爵家に滞在できる。

 しかしあと二日しかないのだからとレティシアはギランが使う客間へと急いでいるのであるが、何故か次々と呼び止められる。

 今度は兄かと、レティシアは少々憤慨しながら振り向いた。


「!!」


 振り返って見えた光景、それは、廊下に双子のどちらかとギランが立っている。

 レティシアの兄とギランは中庭かどこかですでに剣の手合わせをしていたようで、二人とも汗まみれで、シャツのボタンを胸どころかへそまで丸見えな程に外してシャツをはだけさせていた。


「!!」


 レティシアはギランの美しい体を目撃してしまった事に真っ赤になる。

 ギランも真っ赤になって自分のはだけたシャツを慌てて掴んで体を隠す。


「ハハハ。良いもの見れたって兄に感謝しろよ」


「も、もう。お兄様ったら」


 双子のどちらかはギランの背中を叩き、ギランをレティシアへと押しやった。


「朝食まであと三十分だ。ギランを襲ってもいいが遅れるなよ。母が倒れる」


「お、お兄様!!」


「ありがとう。ルーファス。これで蹴りはチャラだ」


 レティシアは恋人が誰にも見分けられない兄を見分けていた事に目を丸くしたが、それはルーファスと呼ばれた当人こそだったらしい。


「え、当たり。どうして?」


「え?しっかり話せばわかります。わざと周囲を混乱させるように同じ人物を演じているんですよね。でも俺はその仮面が無い時のお二方の方が好きですね」


「え、うそ。そこまで」


「奥様達はあなた方を間違えません。それは奥様達にはあなた方は演じてはいないからでしょうね。ですが、レティシアやドラゴネシアの従兄弟達には演じている。あなた方が伯爵位を継がないのは」

「そこまで!!続きは妹がいない場でだ」


「かしこまりました。ではあとで」


 ルーファスは真っ赤になって慌てている。そしてルーファスを混乱させたギランは、何事も無かったようにしてレティシアの肩に自分の腕を回す。


「敵を倒す時は虚を突くんだそうだ。無ければ作れと、ダーレンが言う通りだ。俺に混乱させられたルーファスは、俺が君に腕を回しても怒って来ない」


「それはあなたが家族になったからだわ。愛し合う私達が寄り添っていても微笑ましいばかりで怒ることでは無いでしょう」


「美しい君。俺達はまだ婚約してもいないって覚えていたかな?」


「あ、そうね。リカエルにも注意されていたの。一線を越えさせて間違いでしたってやられると男は辛いって。でも、私達は一線を越えても間違いにはならないわよね?」


「間違いは無いが、俺達はまだ結婚していない。俺達を応援してくれる人達の信頼は大事にしよう。それからその話は、多分俺ではなく君の女友達に聞かせてほしいような気がするな。ひねくれ者の彼としては」


「あら、でも、ジーノにはわかるけど私にはまだ教えたくないって」


「うん。俺は分かったから、それは君の女友達に伝えてあげて。恐らく今の彼は伝えたいことも伝えられない状況のような気がする」


 レティシアはさらに混乱し、自分の眉根に皺が寄り集まってしまったと指先で鼻の付け根を撫でた。

 するとギランは立ち止まり、レティシアをぎゅっと自分に引き寄せ、彼女が自分の指でなぞった所に軽い口づけを落とした。


「ジーノ」


「俺でなく君に気を付けろと言ったリカエルは正しいな。君の振る舞い一つ一つに俺は惹き付けられて一線を越えようと動いてしまう」


「ジーノ。でも私達は婚約者だもの」


「いいや。まだだ」


 彼はレティシアの鼻の頭にキスすると彼女を手放し、それから彼はゆっくりとレティシアに向けて跪いた。


「何も無い男、ジュリアーノ・ギランと申します。自分の身しか持たない男です。ですがあなたの為にならば、この身を全て捧げます。どうかこんな私にご慈悲をいただけませんか?」


 ギランはレティシアに右手を差しだした。

 レティシアはギランの手に向かって右手を振り下ろした。


 バチン!!

「痛い」


「愛が入っていないからやり直しです!!私はあなたに愛しか無いの。だから私に欲しいと望むのは、私の体と私のあなたを愛する心にしてください!!」


 ギランを叱りつけたレティシアだったが、自分は死んじゃったのかと思った。

 自分を見上げるギランの微笑みが天上の神様よりも神々しく、彼女は自分の心臓が止められたと思ったのである。


 彼女は自分の胸に手を当てる。


「レティシア?胸が痛いのか?」


「いいえ。今でさえあなたにドキドキしているの。これから心臓が飛びだすのは確実。だから押さえているの」


「君は、ああ、君とこうしていられるなんて夢みたいだ」


「私も。だけど、早く現実にして欲しいわ」


 ギランはにっこりと微笑み直し、右手もレティシアに伸ばし直した。


「あなたの心も体も全て下さい。あなたを愛しています」


 レティシアはギランの右手を両手で掴む。

 立っていられなくなったまま彼女も跪く。


「愛してます。私はあなたを一生愛します。あなたを愛しています」


 レティシアの答えを聞いたギランは、レティシアにはわからなくなった。

 二人とも恐らく同時にキスの為に両目を瞑り、互いに抱きしめ互いを唇と指先で確かめ合うしか出来なくなったのだから。

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