表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/33

欲しければ略奪するがドラゴネシアなり

 ギランとリカエルはドラゴネシアの襲撃の報に驚き、飛び上るようにして石像のの台座から同時に飛び上り、そのままダンスホールへ向かって駆け出した。


 数分もせずにバルコニーから会場内へと飛び込んだ二人だが、辿り着いたそこで目にすることとなった光景は、ギランの従者セニリスの報以上だった。


 真っ黒のマントを羽織った大男は、牛のような大きな角が付いた燻し銀色の甲冑を纏っている。

 その大男の両脇には、青銅色に輝く二人の甲冑男が守るように立っていた。

 それだけでなく、マント姿の甲冑男の後ろには、角のある兜を被って鎧帷子を着込んだ古の蛮族を彷彿させる風袋の壮年の大男四人と、三十人はいるだろうドラゴネシアの戦闘服を着こんだ若者が付き従っているのである。


「なんで伯爵家の骨とう品が歩いているんだ?」


「あれはただの骨とう品?あ、今日は仮装パーティでもあったか?」


「混乱するな、ギラン。本日のパーティはいつもと同じ瘴気の沼我慢大会だ。目の前の俺の身内が常識外れしているだけだから安心しろ」


「リカエル、君は――」

「我はドラゴネシア。我はドラゴネシアの民の願いを叶える者だ。ジュリアーノ・ギラン。我が一族を愚弄した男。前に出て我が一族と勝負せよ」


 ギランが知っている声のようで違う、地まで揺らがせそうな反響を纏った野太く低い声が会場中に轟いた。

 ギランは拒否する気など一切なかった。

 嬉しい、そればかりだった。

 自分の力を自分が尊敬する人の前で披露できる、それは戦士として生きたい彼には夢の舞台そのものである。


「こいつは甲冑無いぞ。せっかくだ。俺もやっていいか?」


 ギランは前に出した足を止め、後ろにいたドラゴネシアに振り返った。

 リカエルはギランを守るために声をあげた訳ではなく、自分こそこの決闘に参加したいだけだとギランには解った。


 リカエルの目は会場の照明以上に期待でピカピカしている。

 単に戦闘民族のドラゴネシアの血が騒ぐだけか、と。


「近衛騎士だ。自前のものがあるだろう。持って来させろ。そいつをるのは俺の仕事だ」


「お前が脱いで渡してやれよ。お前はもう蹴りを入れてんだろ?不意打ちって奴は全く自慢でき無いけどな」


「おい、レンフォードにルーファス。甲冑で殴り合いってダサくないか?」


 ワハハハハハ。


 リカエルの台詞に呼応するように、黒い鎧の大男の笑い声が会場中に響く。

 その男が右腕を上げると、後ろに控えていた男達が布で包まれたものをギランと伯爵家兄弟の間に布に包まれた状態のまま滑らせた。


 丁度真ん中まで滑って来たそれは、到着したと知らせる風に布がほどける。

 布がほどけて出てきたそれは、四振りの大剣だった。

 切れ味は悪そうだが柄には宝石も嵌っている、年代物の鉄の長剣が四振りだ。


「わお!!ドラゴネシアの四宝剣じゃないか!!これでやっていいなら俺はギランに付いて良いか?二対一は余りにも卑怯かなって俺は思うんでね」


「リカエル!!君はちょっとうるさいよ。君は戦いが――」

「団長!!鎧持ってきました!!」


 ギランとリカエルは同時に後ろを振り返る。

 宝物を見つけた機嫌のよい犬さながらの、嬉しさ一杯汗一杯という顔で、セニリスがギランの鎧を抱えてギラン達の後ろに辿り着いたところだった。


「ギラン。下着になれ」


「え?」


 その後は誰もが息を飲んだ。

 誰もこの場を止めようとしないのは、近衛の制服を脱いで半裸となっていくギランの肉体に魅了されてしまっただけでなく、ギランに鎧を着せ付けていくリカエルの手際が職人技すぎて見惚れてしまったからであろう。


「ほい、できあがり」


「もうか。すごいな」


「俺は着せるのだけは得意なんだ。お陰で惚れた女が自分で脱いでくれなきゃ手も何も出せない」


「君は!!」


 鎧姿となったギランは再び敵の前へ進み、決闘用と床に置かれたままの剣を一振り手に持った。

 それを合図に青い鎧の二名も剣を拾い上げ、ギランに向かって構える。


 勝負は決闘と言いながらも、手合わせに近いものだった。

 ギランは打ち合いながら、なぜ甲冑なのかという意味を理解していた。


 角を生やした黒兜の大男はダーレンに違いなく、そのダーレンのマントの中に銀の甲冑姿のもう一人を見つけてしまったからである。


 まさか。

 そんなはずは。

 だがダーレンが倒れないように支えているならば、甲冑姿で動くには体力が足りないからでは無いのか。

 このまま時間ばかりが進んでしまったら?


「これで終いだ!!」


 ガッ、キン。


 レティシアの兄二人の剣を交し、一人は転ぶように剣で打ち付け、もう一人は足で蹴って転がす。

 少しでも早くレティシアから鎧を外してあげなければ。


 うおおおおおおおおおお。


 黒兜が咆哮を上げ、ギランの彼へと向かいかけた足が止まる。


 うおおおおおおおおおお。

 うおおおおおおおおおお。


 黒兜の後ろに控える男達から黒兜への呼応の咆哮が上がる。

 ギランは彼等に向けて、彼等に負けまいと咆哮をあげる。


「うおおおおおおおおおお」


「ハハハ!!良い咆哮だ!!お前を認めてやる!!お前は我が新兵の獲物となるに相応しい。さあ、我が新兵よ、あいつの首を取って来い」


「え?」


 黒甲冑が左腕を大きく跳ね上げると、彼がマントで隠していた小柄な銀の鎧が露わとなった。

 そして、その銀の鎧は、ぎち、ぎちと鎧を軋ませながら歩き出す。

 ギランに向かって、一歩、また一歩と、よろめきながら。


「レティシア!!君が壊れてしまう!!」


 鎧に慣れない新兵は、鎧姿で転べば起き上がれないどころか、総重量が四十キロはある重荷によって体を壊してしまう事もあるのだ。騎士が鎧を着るのは長槍を構えて突撃する時か、その攻撃を受け止める事を想定しており、長時間の白兵戦など実際は想定していない。

 しかし見た目だけで脅威を他者に分からせられ、また、戦争の開幕戦がまず代表騎士の決闘となるので、騎士は鎧を着込む。


 鎧などそれだけだ、とギランはレティシアへと向かった。

 俺の心の鎧こそ、自分の卑小なプライドを守るだけのくだらないものだった。

 そんな見栄で作り上げた重いだけのモノが、君の華奢な体を壊したら、と。


「動かないで、ジーノ!!私にあなたを略奪させて!!私はちゃんと自分の足で歩けるの!!」


 ギランの足は止まる。

 彼は両腕を銀の鎧に向かって大きく広げる。


「俺は、君に出会ったその日に、君に心を略奪されている」


 ぎち。


 ギランの真ん前に銀の鎧は辿り着く。


「あなたを愛しています。あなたが嫌と言ってもドラゴネシアに連れて行きます。あなたを鎧にしたのは私の作戦です。み、身動き取れない鎧姿ならば、私の手下達があなたを担いで運びだせますから」


「手下?」


「私はドラゴネシアの姫です!!」


 銀の鎧は自分の兜を頭から外した。

 蜂蜜色の髪が鎧から解放されたと周囲に広がり、上気している白い肌は汗ばんでいるが彼女の清潔感を知らしめるように輝いている。

 ギランを見つめるエメラルドグリーンは、彼の心を捕らえて放さない。


「愛しています。あなたが何者でもかまわない。何もなければ一から二人で手に入れて行けばいい。私はドラゴネシアの娘です。爵位も身分も関係なく、泥にまみれて野山を駆けまわって育った人間です。私は、あなたさえいればいいの。だって、あなたこそ私の世界なのだから」


 ガラアアアン。


 金属がぶつかり合う大きな音はギランを完全に打ち壊した、とギランは思った。

 死んでしまった、とも思った。

 彼の目に映っていた美女が消え、今の彼の目には見慣れたダンスホールの豪奢な天井しか映っていない。

 その天井は己の涙で曇って歪んでいる。


「ジーノ。ごめんなさい。倒れ掛かっちゃった」


「構わない。女の子入りの甲冑に負けた俺だ。こんな不甲斐無い奴は近衛の任を解かれるだろう。開墾でも何でもする。君を飢えさせることは絶対にしない。お願いだ、俺に君という世界を与えてくれ」


 ギランの世界は真っ暗となった。

 レティシアが彼に口づけたのだ。

 彼は世界に感謝しながら、夢にまで見たレティシアの髪に指を絡ませた。

 本当に夢みたいだったからか、彼の瞼の中で白い光がちかちか瞬く。


「胸、胸、圧迫してる。死んじゃう死んじゃう。おい野郎ども!!新しい弟と大事な妹をとりあえず何とかする手を貸してくれ!!」


 ギランは面倒見の良すぎるリカエルに感謝しながら意識を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 長かったけどやっとここまで来たか感。二人とも自己評価が低いので大変でしたがあとは幸せになるだけですね。 よかったよかった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ