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猫はこっそり爪を研ぐ

 レティシアはこれは真実と、今の自分がきれいなのはヴェリカのお陰と、四爺の妻で彼女の叔母達に自信を持って言い切った。

自信をもって何か言うのは初めてではないかしら、と気が付いた上、自信を持ってのその行為がとても小気味良いものだと感じながら。


 彼女はそっとヴェリカに道を譲る。

 あなたこそ叔母達を魅了してちょうだい、そんな気持ちで。

 ヴェリカはレティシアの気持を無駄にしないという風に、再び最初の時と同じく叔母達に頭を下げた。


 再び彼女の帽子ピンの宝石がきらりと光る。

 ダーレンがヴェリカを応援しているようにして。


 それから、王都の伯爵家でレティシアの母レイラやレイラの友人達、そして兄嫁達を魅了した時のように、最高の笑顔で叔母達にむかった。


「はじめまして皆様。レティシア様が持ち上げて下さるから恥ずかしいばかり。だって、レティシア様は最初から美しいもの。でも僭越ながらドレスデザイナーを紹介させていただいたのは、レティシア様がご自分の美しさを台無しにする衣を纏っていらっしゃったからですわ。私は背が小さいから、手足が長く美しい方に憧れますの」


「え、ええ。レティシアは確かに手足は長いわね」

「私達に似たドラゴネシアの女特有の体つきで、どうしてレイラに似なかったのと思ってましたが、きれい?」


 ヴェリカは初恋相手を夢見るようにして胸に手を当て、溜息交じりの声を出す。


「女神ですわ」


「めがみ?」


「目が悪いの?メガネが必要?」

「女神なんて言い過ぎよ」

「石膏像みたいに大きいから?」


 レティシアこそ女神の台詞にすぐに聞き返してしまったが、後に続いた叔母達の台詞に、レティシアは酷すぎると涙が出そうになった。


 同じ様な外見だから遠慮がないのでしょうけれど、ちょっと言い過ぎです!!


「嬉しいわ。ようやく同士に会えたって感じがしますわ」


 ヴェリカに迎合の声をあげたのは、美しきナタリアだった。

 彼女はヴェリカの前に出ると、ヴェリカの手を両手で握る。


「あなたのレティシアにむける感想、私と同じだわ。いいえ。ドラゴネシアの人達は男性も女性もなんてきれいなのかしらってずっと思っているのに、ドラゴネシアの人達は自分を不格好と言うばかり。ずっと不思議で残念だわって思っておりましたのよ」


「あら、ナタリア!!私達を褒めてくれるのはあなただけだし、あなたは華奢で美しいからそう言えるの。リカエルだってあなたに似たから、ドラゴネシアにはいない美男子じゃ無いですか。猫ばかりに夢中で未だ独り身のうちのモテない息子とは大きく違うわ」


「あら。シェリル。ベイラムが猫に夢中なのはモテないからでは無くて、忘れられない方を想っているからって有名でしょう」


「そうよ。ナタリアの言う通り、ベイラムはモテていたわ。うちのキースなんて、ヴィヴィアンが幼馴染だったから、しぶしぶでも結婚して貰えただけよ」


「あの子は照れが激しいだけよ。キャサリン。我が家のガムランなんて、誰も近づいてくれないから浮いた話一つも無いのよ」


「――それは、ドラゴネシアと結婚する人は財産目当てって言われるから、彼もその影響だと思うわ」


 レティシアはとうとう我慢できずに口を挟んでしまった。

 リカエルこそその噂に悩んでいたのだ。

 リカエルの二つ上の彼らだって、ダーレンの怪我が初陣のリカエルを危険にさらした自分達のせいだと悩んでいるはず。


 レティシアはそう考えてたから声に出してしまったが、彼女はすぐに後悔した。

 言うべきじゃない上に、ダーレンと言うべきところを、彼がドラゴネシアそのものという気持でドラゴネシアと言ってしまっていたのである。


 これではリイナが流した噂が、ダーレンだけでは無くドラゴネシア全員を攻撃してきたと変換させてしまったも同じである。

 レティシア的にはそれこそ真実だと、リイナを許せないでいるのだが。


 けれどその噂を撒いたリイナは結婚後は生活の為に実家からの援助が必要という状況であり、この先もずっとドラゴネシアに住み続けねばいけない。

 また領主夫人となったヴェリカよりもリイナの方が居住歴も長ければ人間関係も深く広いのであれば、今後リイナに起こる不幸があれば全てヴェリカのせいにされてヴェリカこそが辛い思いをしてしまう。


 レティシアは自分の失敗が今後引き起こすことを考え、自分が情けないと奥歯を噛みしめた。

 しかしリイナは後先を考えずに噂を流した本人であるからか、レティシアが想像する自分の今後さえも考えていなかったようである。


「あら、財産目当てと言われたくないって理由で引き下がるのは、財産目当てであった証拠でしょう。叔母様方。まだ未婚のガムラン様とベイラム様、それにリカエル様が、財産目当ての女性に騙されなくて良かったと思うべきですわ」


「まあ!!よくぞ言ってくれました!!そうよ。そんな噂などに惑わされなかったことで、そのお相手が愛を貫いていると言えますものね。何と言われても平気。だって、私は彼を愛しているから、ですわね!!」


 レティシアはヴェリカのはしゃいだ声に、来た!!と両目を瞑る。

 彼女が脆弱な令嬢を演じる時は、獲物に狙いを定めた時だった、と。


 そうよ、どうして気が付かなかったの!!


 叔母達から挨拶返しもされなかった時に、ヴェリカはレティシアを頼りにした振る舞いをしていた。それこそヴェリカがターゲットにしているリイナに、ヴェリカが脆弱だと読み違いさせる計画だったのではないのか。


 レティシアはそう考えた。


 人は自分の方に分があると勘違いすると、弱い相手にいくらでも残酷になれる。

 レティシアこそ王都のパーティで散々に弱者の立場を味合わせられてきており、しかしそのお陰で大体の人達の本性が見えてもいた。

 ヴェリカだったら、自分が知った相手の本性を利用して仕返しできるだろう。

 そんな事など気が付かないリイナは、意地悪そうに右の口の端を歪めてヴェリカに暴言を吐く。


「あら。あなたに愛はございますの?あなたのご実家は穴だらけのあばら家だったと有名ではございませんか」

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