梅雨の章ーその7一。
田栄の一家は滅びたかに見えた。
だがここに一人命からがら逃げ、そして救われた田栄と妻さえの子それがこの『米助』だった。
彼は何とか一命を取り留め、そして偶然救った男と共に暮らしてきた。
だがそれは一時であったんだ。
それはいつもの様に二人が寝静まった頃だ。
突然ガタッと家の外から物音が聞こえる。
それと同時に厠へ行きたくもあり起きてしまった米助。
『なんの音だろう?』
隣の布団では自分の親代わりでもあるおじいちゃんの『稲兵衛』だった。
米助はまだ眠い目を擦りならも外の厠をめざす。
真っ暗な闇の中……外の厠へと向かう事にした米助は玄関の戸を開くと厠へと歩いていく。
だが今日は満月が米助の道を照らしてくれていた。
なんとか月明かりで辿りつけた米助は用を足す。
『ふぅーーーまだ暗いなあ………………………。』
そして用を足し終えた米助は家へと戻ろうとしたその時だった。
『ぎゃあああああーーーーーーーーーっ!?』
突然家の中から稲兵衛の叫び声が聞こえたんだ。
あまりの絶叫に米助は走る。
厠は畑に近い少し離れた場所にあった……それは畑に肥料を撒くためにここへ作られたようだった。
そこから家に向かって走る米助。
『はあはあ!!おじいちゃん!?』
稲兵衛の絶叫に焦り、転び、身体に傷をつけながらも走る米助。
足ももつれがちになりながら急ぐ。
そしてようやく家の戸から中へと入ろうとする。
すると鼻に臭ってきた鉄錆ような匂い。
そして視線の先には月明かりで照らされたのはおじいちゃんである稲兵衛が首を噛まれ力無くダラリとぶら下がった姿。
そしてその稲兵衛を食っていたのはなんと。
本当の自分のおじいちゃんを殺し、そして呪い殺されたと聞かされてきた自分の実の父親である血みどろの姿をした田栄だったのだ。
米助はたじろぐ。
すると田栄は米助に目を向けるとニヤリと笑みを浮かべる。
『食って………やる……………お前のぉ………じいさん………俺を………呪い殺した………食って………やる。』
『うっ…………………』
米助は家から逃げ出そうとするもガタガタ震え動けなかった。
だがその時。
誰かの声が聞こえてきた。
『よね……すけ………にげ……なさい………あなたの……ちちおやは……この、わたしが。』
それは米助の懐かしき母『さえ』の声。
そして米助は…………。
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