ー梅雨の章ーその二。
太助は思い悩む。
大切な一人娘である『さえ』を田栄に差し出さなければいけないのかと。
だが今年の気候はあまりにも悪くそれを賄うだけの財力も自分には持ち合わせてはいない。
でも、大切な娘をあの男田栄に差し出すのは。
田栄はその素行に関しても良くはなかった。
そんな中さえにそんな話をできるわけでもない太助。
するといつもの夕食時、さえが口を開く。
『お父さん!?…………何か悩みごとですか??』
心配そうに顔を伺ってくるさえ。
そんなさえに、意を決しこたえる太助。
『ああ……さえ………聞きたいのだが………田栄の事はお前から見てどう思う?…』
『えっ!?』
驚きの声をあげるさえ。
それは誰しもがそうなるのだろう。
こういう時の女性のかんの鋭さも増してさえは口を開く。
『お父さん………それは私に田栄さんの所へ行ってほしいという事ですか?』
わしは驚きの表情でさえをみていた。
するとさえは少し考えると…………こたえる。
『ええ……っていいかただと思っております。』
にこりと微笑み、そうこたえるさえ。
わしは思った。
これは全てを見通し、わしの為に作り笑顔を見せてくれたのだと。
わしは目から涙が溢れ出す。
身体が小刻みに震えだしそしてわしは
『ありがとう………ありがとうな………さえ。』
『お父さん……私は幸せになりますから……泣かないでください。』
田栄の評判はこの辺りのものなら誰にでも分かるほどに悪かったのだ。
そんな田栄はわしと同じくらいの年齢。
そしてわしの娘のさえはまだ十代。
完全に田栄の趣味なのだ。
そんな田栄の元へ嫁ぐと言ってくれたさえ。
わしはそんなさえにありがとうという言葉しか出なかったのだ。
◇
◇
◇
そしてさえは田栄の元へ嫁いでいった。
わしはもう米でも悩まされる事はなくなっていたのだ。
その後さえは田栄の子を産み幸せそうに過ごしていたと話は聞こえてきたのだ。
だがその後………僅か五年ほどでさえが亡くなったと………風の噂で聞こえてきたのだ。
『さえ!?さえ!?さえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』
わしは一心不乱にさえ、そして田栄の元へと向かったのだ。
辿り着くと、既に息を引き取っていたさえの姿が。
『さえ……………………………………。』
脱力感にわしは座り込む。
すると声をかけてきたのは田栄だった。
『すまないのお……突然の不幸…何もしてやれなかった。…』
そう告げた田栄。
わしが奴の顔をみると。
全く悲しみを感じずニタニタと笑みを浮かべる田栄だったのだ。
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