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俺には二人の妹がいる  作者: 一木空
第六章 これからの思い出
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兄妹

「王妃様がお世話になったというご家族が、本当に現れるとは……。互いの知識を共有し合ったという話は聞いていましたが、成就することになるとは思いもしませんでしたよ。その節は大変お世話になりました」

「いえ。こちらこそ、私の家族がご迷惑をおかけしました。菜瑞奈はわがままで大変だったでしょう?」

 俺の目の前を歩く近衛隊長は、菜瑞奈がこちらの世界で暮らしていた時の護衛兵だったらしい。


 王族の護衛を担う隊の隊長になっていることを教えたら、アイツは驚くだろうか。


「しかし、驚きました。てっきり別の国に嫁がれていると思っていたのですが……」

「先王様のお子様は、いまの王妃様以外病で命を落とされており、王位継承者は王妃様しかおられなかったのです。そのせいもあって、あの方は非常に大切に育てられていた。強引に蘇生魔法をお使いになられたのもそれが理由です」

 王妃の婿である現国王は、他国の王子だそうだ。


 この国とは国交が盛んな国であり、婚姻の話もスムーズにまとまったとのこと。

 夫婦間の仲もよく、共に協力し合って国を導いているらしい。


「王妃様は、あなた方家族のことをよく話しておられました。元々活発なお方でしたが、帰還されてからは、他国との会合にさらに積極的に関わるようになられたのですよ」

「世界を見て回りたいとよく口にしていましたからね。私たちの世界での出来事がきっかけとなっているのでしたら、幸いです」

 近衛隊長の話によると、他国との会合だけでなく、国内の技術発展にも大きく力を入れていたとのこと。


 王宮の廊下内で、掃除機らしき道具を担いで歩く人物を見かけたが、その影響のひとつなのだろう。

 しかし、通ってきた城下町の様子を見るに電気を使っていないと思うのだが、魔法の力を利用してあの掃除機は動いているのだろうか。


「こちらが謁見の間となります。いらぬ心配とは存じますが、失礼のないようお願いいたします」

 近衛隊長は巨大な扉の前で足を止め、いくつか注意をしてきたので、それらにうなずきつつ開かれた扉をゆっくりと通り抜ける。


 室内は豪華絢爛と言ってよい様相をしており、ピカピカに磨き上げられた床に天井から吊り下げられたシャンデリアの輝きが移りこんでいる。

 正面一番奥にある、金と赤の塗料を主に用いられた二つの美しい玉座が特に目を引く。


 いまは誰もいないその玉座の片方に、アイツが座るのだろうか。

 不思議な期待を抱きつつ、部屋の中央で背筋を正してその時を待つ。


「トライバル国王陛下、王妃様のおなりです。静粛に」

 先んじて入ってきた大臣らしき人物が、王族がこの場に入ってくるのを教えてくれる。


 俺は背筋を正したまま、二人の姿を直接見ないように頭を下げた。


「そなたがダイチ殿か。我が妻を家族として迎え、暮らしてくれたという話はよく聞いている。面を上げてくれぬか?」

「はっ」

 足音と共に聞こえてきた男性の声に、俺は少しだけ頭を上げる。


 見てはいけない。俺のような者が、二人の姿を瞳に入れてはならない。


「よい、よい。どうか私たちに顔を――」

 その声が終わるよりも早く、何者かが駆け出した。


「お、王妃様!? いけませぬ!」

 大臣の注意をする声にも耳を止めず、激しく床を踏み鳴らしながら俺に駆け寄ってくる。


 そこで初めて、俺は完全に顔をあげた。

 見たことは一度としてない、王冠を被った美しい女性。だが、いまにも泣きだしそうなその表情は何度も見たことがある。


 彼女は、彼女は――


「お久しぶりです、ナズナ様。お元気そうで何よりです」

「馬鹿者! ダイチ!」

 勢いを止めることなく、ナズナは俺に抱き着いてきた。


 倒れそうにはなったもののなんとかこらえ、泣き出した彼女の髪を優しく撫でる。


「遅い……。遅いぞ! わらわも、もうこんなに歳を取ってしまった! もっと美しい時代のわらわを、お主に見せたかったというのに!」

「……わるい、二十年もかかっちまった。だが、会いに来たぞ」

 俺には二人の妹がいる。一人は血のつながった実の妹。


 そして、もう一人は――


「世界への旅、忘れておらぬだろうな? わらわが抱いた、世界の全てを見て回る夢を!」

「はい、はい。覚えてるよ。いろんなことが落ち着いたら、お前の旦那さんも連れて世界を周ってみような」

 血が繋がっていないどころか、別世界の王女様。


 嫌いだけど大切な、俺の妹たちだ。

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございます。


これにて、『俺には二人の妹がいる』というお話はおしまいです。

ほんの少しでも、面白かった等の想いを抱いていただけていれば幸いです。


改めまして、ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました!

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