ハッピーエンドには続きがある~ゲームの強制力がなくなってからが本番です。
今日は、ゴルドー王国の貴族の令息、令嬢が皆通う学園の卒業パーティーの日である。
「ジョアンナ・レスター、貴様との婚約は破棄する!」
ゴルドー王国、第一王子アラン・ゴルドーが、よく通る美声でそう告げた。
「アラン様……何故そのようなことを……」
ジョアンナ・レスター公爵令嬢が震える声でアランに問いかける。
「貴様、自分のしでかしたことがわかっていないようだな」
アランは、隣に立つピンク色の髪の毛の小柄な女性をそっと抱き締めると、再びジョアンナに向き直る。
「聖女であるプリメラ嬢に対する嫌がらせの数々忘れたとは言わせないぞ!」
「プリメラの優しさ、清らかさに嫉妬し、教科書を破り捨てる、インク壺を割る、階下にいるプリメラに水をかける、挙げ句のはてに階段から突き落とすとは!」
「アラン様、私、そのようなこと、やってはおりません」
「黙れ!しらを切るつもりか!プリメラはお前にやられたと、そういっているんだぞ!なぁ、そうだろう?プリメラ」
「アラン様ぁ、そうです。ジョアンナ様が全部やったんですぅ。私、もう怖くて怖くて……」
そういって、プリメラは、アランの胸に顔をうずめた。
「かわいそうに……だが、もう大丈夫だ。この女はプリメラをいじめた罪で国外追放か修道院行きにしてやる」
「アラン様ぁ」
「プリメラ、もう私たちを邪魔するものは何もない。君が、私の新しい婚約者だ!」
「ふふっ、プリメラ嬉しい。でも女王陛下が認めてくれるかしら?」
「大丈夫だよ、母上は、ここ一年病に伏せっている。もう、長くはないだろう。私が王だ!誰にも文句は言わせないさ!」
「さすがですぅ、アラン様」
二人はパーティー会場の真ん中で口づけを交わした。
輝くシャンデリアが二人を温かく照らしていた。
「プリメラ、幸せになろう」
「はい、アラン様」
― 完 ―
バタンッ
勢いよくパーティー会場の門が開く。
「ほぅ? アラン、そなたが王であると?」
大きな声ではないにも関わらず、その声はとてもよく通った。
振り向いた出席者たちはその声の主を一目見て、即座に最敬礼の御辞儀をした。
なぜならそこにいたのは、ゴルドー王国女王、ベアトリーチェ・ゴルドーだったからだ。
出席者たちがさっと動き、女王の前に道が開く。
女王がゆっくりと歩き、驚きのあまり声がでないアランの前に立った。
「は、母上? 何故ここに? ご病気なのでは?」
「アラン、残念です。全部聞いていましたよ。
先程の発言、私への反旗と見なす」
「あ、あれは、その、ジョアンナとの婚約を破棄するために、ちょっと強く言っただけで、王位簒奪の意思などございません」
「ジョアンナとの婚約破棄? 王家とレスター公爵家との取り決めをそなたの一存で覆してよいと?なんの権限があってのことか?」
「母上、ジョアンナは聖女であるプリメラを苛めていました。そのような性悪の女をいずれ王となる私の妻とするなど出来ません!」
「……この、愚か者めがっ!」
女王は、持っていた扇をパタンと閉じると、その扇でアランの頬を張り飛ばした。
「ぐべはっ」
王子にあるまじき声を上げてアランの体が宙を舞った。
それを見ていた男性出席者たちは思った。
(いや、大袈裟だろう。飛びすぎ)
けれども、女性出席者たちは知っている。
女王が持っている扇、あれは鉄扇だと。
女王は軽そうに持っているが、あれは重い。あんなもので頬を打たれれば、そりゃあ飛ぶわよね、と。
ピクピクしていたアランが上半身を起こす、顔中血まみれだ。
だが、誰も助けに寄らない。
下手に助けに行けば、次に宙を舞うのは自分だからだ。
「ジョアンナがやったと、お前は言っておったが、証拠はあるのか?」
「しょ、証拠ですか? プリメラがジョアンナにやられたと、そう申しております。階段の下で倒れているプリメラを私は見ました!」
「……誠に愚かな」
「きちんとした証拠もなく、突き落とされた件も階段の下で転がっている女を見ただけで、犯人をジョアンナだと決めつけるとは」
女王が一歩、また一歩とアランに近づく。
そのとき、プリメラが女王の前に飛び出した。
「女王陛下、待って下さい。私、本当にジョアンナ様にひどいことされたんです」
女王は、ちらりとプリメラに目をやるとすぐに視線を外し、この騒動を見ている出席者の一人を扇で指す。
「そこな者」
「はっ」
「我が国において、自分より身分の高い者に対する礼儀を答えよ」
「はっ、階級に応じた御辞儀を行い、相手から話しかけられるのを待ちます」
「で、あるな。ご苦労」
女王は、頷くとアランの方を向いた。
「お前が新しい婚約者だと選んだ女は貴族としての最低限のマナーもできていないようだが? よくそんな女を選んだな」
「それは……。プリメラは、まだ貴族になって数年です。マナーが身についていないのは仕方のないことです」
「学園に入って一年。何も学んでいないということか。学習能力がないのではないか?」
「ちょっと、女王陛下、ひどいです。私、頑張っているのに」
無能扱いされ、ムッとしたプリメラが口をはさんだ。
途端、プリメラの方を向いた女王が、一歩大きく踏み出し、プリメラの頬を鉄扇で張り飛ばした。
「ぐべぼっ」
プリメラは、アランよりも高く宙を舞い、地面に落下した。
「二度も我に対して無礼であるぞ。衛兵、この女を捕らえよ」
さっと、兵が二人寄りプリメラを両側から拘束した。
「ちょっと、何するの!離してよっ、痛い!」
「女、我の問いに心して答えよ。嘘は許さぬ。誰に嫌がらせを受けたのであったかの?」
「何度も言ってるじゃないですか、ジョアンナ様ですよ!嘘じゃないです!」
「……本当に愚かであるな。ジョアンナには王家の影がついており、日々の行動は監視されておる。報告では、ジョアンナは、お前のいうような行動はしておらぬが」
「そ、そんなの手下を使ってやったに決まってるわ!」
「そして、そなたにも、影がついていた。お前がジョアンナの仕業と言ったことは、全てお前自身が行ったこと」
「う、嘘。嘘よ、そんなことあるわけないわ!」
「魔映像できちんと残っておる。お前の態度、言葉、我への反意とみなす。不敬罪に反逆罪か。あぁ、お前は、ダロガ男爵家の養女であったな。お前同様、ダロガ男爵家も同様だ」
「そんな、家は関係ないわ!なんでそうなるのよ」
「よくしゃべること。……黙らせろ」
プリメラは、即座に猿轡をされてしまった。
「そうそう、お前を聖女と認めた教会も罪に問わねば。偽の聖女を祭り上げ、王子をたぶらかし、この国を乗っ取ろうとするとは。聖職者が、なんと恐ろしいことだ」
言葉とは裏腹に全く恐ろしいとは思っていないことは誰の目にも明らかだった。
「我がゴルドー王国第一師団、セントレア大聖堂にいる聖職者たちを捕らえよ!あそこにおるのは、聖職者ではない。世俗にまみれ、権力に目の眩んだ屑どもだ。……一人も逃すな」
女王がそういうと、外で砲が鳴った。
おそらく第一師団への合図であろう、と出席者の誰もが思った。
誰も何も話さない。
しばらくすると、窓から近くのセントレア大聖堂から噴煙が上がるのが見え、叫び声が聞こえてきた。
女王は、最初からこうするつもりだったのだろう。手際が良すぎる。
(教会のみんな、捕まっちゃうの?殺されちゃうの?そんなのひどい!)
プリメラは思った。
教会の聖職者たちは、皆プリメラに優しかった。
まあ、それはプリメラが、聖女だからであり、優しいというのも、プリメラの我が儘をなんでも聞いてくれるというに過ぎないのだが。
プリメラは、聖なる力を発動させようとした。
衛兵を渾身の力で振り払い、祈りのポーズを取る。
いつもなら、眩いばかりの光があたりに満ちて奇跡が起きるのだが、今は何も起こらない。
(あれ?なんで?なんで何も起こらないの?)
「……それは、祈りのポーズか? 何も起こらないではないか。やはり、お前は教会が祭り上げた偽物だ!」
「聖女を語る偽物を牢へぶちこんでおけ。アラン、お前も沙汰があるまで牢へ入っておれ」
プリメラとアランは、茫然としたまま連行されていった。
女王は、二人が連れ出されるのを見届けると、ジョアンナの元へ向かった。
騒動を茫然と見ていたジョアンナは、女王に向かって最敬礼の御辞儀をする。
「ジョアンナ、顔をあげなさい」
「はい、女王陛下」
女王を見ると、困ったような微笑みをみせた。
「あなたには、つらい思いをさせてしまいました。申し訳ない、アランに代わり謝罪します」
「女王陛下……。大丈夫です。私は、大丈夫です。ただ、アラン様ともう一度話をする機会をいただけませんか?」
「わかりました。その機会を設けましょう」
そうして、女王は、ぐるりと周囲を見渡し、出席者たちに告げた。
「せっかくの卒業パーティーを騒がせてしまいましたね。私はこれで退室します。まだ、パーティーは始まったばかり。皆さん、楽しんでね。卒業おめでとう」
何事もなかったかのように微笑んで、女王は退室した。
いや、無理だろう。外でドンパチやってるのに、パーティーなぞやる気分にはとてもならない。
しかし、パーティーを楽しんで、と言われた以上、勝手に帰れば、どうなるかわからない。
出席者たちは、とりあえず先程の婚約破棄騒ぎについて、あれこれ語り出したのだった。
そんな中、渦中の一人であったジョアンナは、そっと退室したのだった。
「派手にやったらしいね」
にこやかに微笑みながら、ベアトリーチェの王配ゲイル・ゴルドーが執務室に入ってきた。
「疲れたわ。でも、ゲームはエンディングを迎えたから、これでみんな自由に動けるわ。教会の方はどう?うまくいった?」
「もちろん、一網打尽にしたよ。しかし、君のアイデアには恐れ入るよ。ゲームのストーリーを利用して、教会の勢力を一気に削ぐとはね」
「ふふふ」
ベアトリーチェはゲイルに他の人には決して見せないいたずらっ子の様な笑みを向けた。
実は、ベアトリーチェは、前世の記憶持ちである。
戴冠式で王冠を被せられた瞬間、日本という国で暮らしていた日々を思い出した。
そして、この世界が自分がはまってやっていた乙女ゲームの世界ではないかと気がついたのだ。
何故なら、昨年産まれたばかりの息子の名前が、乙女ゲームの攻略対象と同じ名前だったからだ。
驚いたベアトリーチェは、他の攻略対象も探した。
皆、存在していた。
ただし、ゲームはまだ始まっていない。
始まるのは、16年後、アランが17歳になってからだ。
別にゲームが始まっても構わない。この乙女ゲームは、割と平和な学園もので、人は死なないし、国も荒れたりしない。
ただ、自分たちこの世界の人間は自分の意思で考えて動いて生きている。
ゲームのストーリーの為の駒じゃない。
ベアトリーチェは、試しに、攻略対象の一人の過去イベントが起こらないよう、動いてみた。
うまくイベントを避けられたと思ったが、結局無理矢理イベントは起きた。
たった数分前の意見を翻して、別人の様な態度で、虚ろな瞳でイベントをこなす姿にベアトリーチェは、恐怖した。
(ゲームの強制力がある世界なのかしら)
そうだとすれば、必ずゲームは始まり、エンディングを迎えるはずだ。
(負けるものですか)
私達は、駒じゃない。
ベアトリーチェは、早速王配であるゲイルに前世のこと、ゲームの強制力についての諸々を話した。
(信じてくれるかしら?)
と、いうベアトリーチェの不安をよそにゲイルは、あっさりとベアトリーチェの話を信じてくれた。
「疑わないの?」
「何故疑うの?嘘なの?」
「嘘じゃないわ。けど、こんな突拍子もない話、普通信じないでしょう」
「私はベアトリーチェの事が大好きだからね。好きな人の話は信じるものだと思うし……、それに、」
「それに、何?」
「戴冠してから、君は普通考えつかないような政策や便利な道具を考え出した。もちろん、君は賢い人だと思っていたよ。けれど、君が考えることはこの世界の常識を大きく逸脱しているようで、なんだか引っかかっていたんだ。前世の話を聞いて、むしろ納得したよ」
「そ、そうだったのね」
「しかし、君のいうゲームの強制力、とやらはちょっと厄介だね。自分の意思と関係なく登場人物としてストーリーを遂行するよう動かされるなんてね」
「えぇ、自分の意思と関係なく動かされるなんてごめんだわ」
その後、私たちは、過去イベントの時期になるたびに試行錯誤を繰り返した。
結果、事前に何をしてもイベントは必ず起こる、ことがわかった。
同時に、イベントの大小は関係なく、子細も関係ないことがわかった。
「何を考えているの?」
ゲイルが、私の顔を覗きこむ。
「あら、ゲイル」
「何か悪巧みしてそうな感じがするね」
「ふふっ、バレちゃった?」
「教会がうるさくて邪魔だから一掃する方法を考えていたの」
最近、聖女を見つけた教会は勢力を増してきて、なにかと政治に口をはさんでくる。
「教会に籠ってお祈りだけしていればいいのに」
「ほら、もうすぐ私、病に倒れる予定でしょ?」
「その間に色々動いて、教会の悪事の証拠探して、ゲームがハッピーエンドを迎えた瞬間に即叩き潰そうかなって」
「いいと思うよ。最近の教会は少々目に余るからね」
ゲーム開始の一ヶ月前、アランの母親であるベアトリーチェ女王は、病に倒れることになっている。
ストーリー的に邪魔だからなのか、都合の良いことだ。
だから、ベアトリーチェは、ゲーム開始二ヶ月前病に倒れた、ことにして、部屋に籠った。
侍医も作戦に抱き込んでおり、女王は、重篤な病に
かかっていると診断させ、アランにも、国民にもそう発表した。
実際に、ベアトリーチェは元気ピンピンであったが、ゲームはベアトリーチェは病に倒れたと認定したようだった。
それから、約一年、表の政務はゲイルがほぼ全てこなし、ベアトリーチェは、城奥の作戦室で、ゲームの進行状況の把握、教会の悪事探しにいそしんでいた。
優秀で柔軟な考えを持ち自慢の息子だったアランが、ゲーム開始と共に、ヒロインにデレデレするだけのただの色ボケになってしまった時は、いくらアラン本人の意思ではないとわかっていても、ベアトリーチェはショックで泣いた。
だが、今日、ようやくゲームはエンディングを迎えた。
ベアトリーチェは、終わった瞬間に会場に入り、一気に断罪仕返した。
(やはり、ゲームがエンディングを迎えたことで、ゲームの強制力は切れている)
ゲーム進行中は、どんな無理でも通ったが、もう通らない。
ジョアンナへの婚約破棄、断罪は、もはや、まともな理由なくわめき散らしているだけで、誰もそれが正当だとは思わない。
ベアトリーチェは、ゲームのハッピーエンドを利用し、教会が聖女を使って王子をたぶらかし、国の乗っ取りを謀ったのだと話を進めたのだった。
「アランは、どうしているかしら?」
「今は地下牢にいるよ。ゲームの強制力が切れ、まもなく正気に戻るはずだ」
「アランは、次代の王として必要な存在よ。あの子は王の器だわ。失う訳にはいかない。…………どんなことをしても」
「ジョアンナと、レスター公爵に話をしなければいけないわね」
ジョアンナは、卒業パーティーでの婚約破棄騒動から二日後、アランに会うことができた。
アランは、牢から出され自室で謹慎していた。
「アラン様」
ジョアンナが声をかけると、ゆっくりとアランが振り向いた。
そして、ジョアンナに向かって頭を下げた。
「ジョアンナ……。ごめん、私はなんということをしたのか……」
ジョアンナは、アランの姿を見た途端涙が止まらなくなった。
そこにいたのは、ジョアンナが昔から知っている優しくて聡明なアランだった。
「元に戻られたのですね……」
嗚咽を堪え、ようやく声を絞り出す。
「君にはずっとひどいことをしていた。自分でも何故あんなことをしたのか言ったのかわからないんだ。ずっと頭に霧がかかったような状態で……」
「聖女、いえ教会勢力に薬を盛られて精神操作されていたのですから、アラン様にはどうしようもないことです。私こそ、何も出来ず申し訳ございませんでした」
「薬を盛られたとしても、君にひどいことをしたことにかわりない。婚約破棄の件も、私の有責で君の方から破棄してもらって構わ……」
「いいえ、婚約破棄はしません!絶対に!」
アランの声を遮り、ジョアンナが勢い込んで話し出す。
「この婚約は政略的な思惑から結ばれたものではございますが、私は、ずっとアラン様をお慕い申し上げております。アラン様が、他の方を好きになり私を邪魔だというならば身を引きますが、そうではなく私にひどいことをしたからという理由でしたら、絶対に引きません」
「ジョアンナ……」
「プリメラ様のことは、今はどのような思っておられるのですか?」
「あんなに熱に浮かされたように恋い焦がれていたはずだったのに、今はなんとも思わないんだ。ひどいものだね」
「繰り返すようですが、薬の効果ですもの。薬が切れれば偽物の想いは消えるのですわ」
ジョアンナは、一年前、女王から呼び出され、内々に事情を聞かされていた。
アランの様子がおかしくなってしまうが、本人の意思ではないこと、周りからひどいことを言われるかもしれないが影をつけジョアンナの無実を証明するから一年耐えてほしい、と女王に頭を下げられた。
半信半疑だったジョアンナだが、プリメラが入学してくると同時にアランの様子がおかしくなり、動揺した。アランやその側近、プリメラからいわれのない敵意を向けられて怖かったが、女王の言葉を信じて一年耐え抜いたのだった。
以前のように優しい微笑みを向けるアランを見て、ジョアンナは、この一年全く休まらなかった心が、ようやく凪いで温かくなるのを感じていた。
アラン、ジョアンナ、貴族、そして国民全体には、今回の騒動は次のように説明された。
教会が偽物の聖女を担ぎ上げ、アラン第一王子に近づき精神操作の薬を盛った。そうして、王子を自勢力に取り込み国の乗っ取りを謀った、と。
偽物の聖女は、捕らえ再度測定したところ、聖なる力は全く発動せず、さらには学園の自室から精神操作の薬が発見された。
また、教会を制圧した際に、高位聖職者の持ち物からも同じ精神操作の薬が発見された。
そして、王家は、そんな腐りきった教会を浄化するためセントレア大聖堂を攻撃し勢力を一掃したのである、と。
ゲームの強制力が働いたところは、うまく薬によるものだとすり替えてある。
そして、偽聖女プリメラ及び教会の高位聖職者たちは処刑された。
教会は、この後、ベアトリーチェ派と呼ばれる女王及び王家に忠誠を誓う派閥が台頭。
王子は、治療の為しばらく静養した後、公務に復帰。レスター公爵令嬢ジョアンナとの婚約は継続。
二人は偽物聖女の妨害にも負けず愛を貫いたとして、国民から熱狂的な人気を誇った。
ゴルドー王国は、ベアトリーチェ女王のもとかつてないほどの繁栄をとげ、国民の生活は豊かなものとなったのだった。
ところで、プリメラは本当に聖なる力を扱う聖女であった。
騒動の際に力を発動できなかったのは、王家のみが知る極秘事項である。
しかし、聖女というのは、ゲームのヒロインがヒロインであるための箔付けくらいの肩書きであり、ゲームが終了したこの王国では別に必要なかったため、いなくなっても問題なかったのである。