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花冷えの宵に歩く夜道
花冷えの宵に歩く夜道は
雨の降ったあとの静けさ
しんと静かに
三月の空のように
季節が戻ったように
おかえり、冬
いつでも帰っておいで
散った花びらは降り積もり
花の小径は桜色
吹き寄せられて
花びらを浮かべて
池の面も桜色
水面下は、暗闇
花の季節が過ぎていく
花の舞う空に思うこと
それはきっと
恋に似て、少し違う
散る花に寄せて
幾人の歌人が歌を詠み
春の日を見送っていたのかと
語りかける言葉を思えば
儚い夢に似た、誰かの面影は
桜吹雪に隠されて
誰だったのか
桜だけは知っている
花は空へ向かって
風に乗ってゆけ
ひらり、と




