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満開の桜の木の下から
満開の、桜の咲く宵に
花びらの散り様を見て
城春にして、草木深し
その詩を初めて知った
十六の春のときを想う
花にも涙を濺ぐ…
その心をイメージはできても
目には見えない、表層の下の
闇の部分までは見えない
ただ、花の散りゆくなかを
長閑な春を
幸せな気持ちで見送っていた
時は流れて、行き着く先に
誰が待っているのだろう
花を見過ぎた身には
宵に見る桜の花は
霞に浮かぶ幻のよう
幽玄の世の扉を開けて
隠れ里を行く
山の端には月が昇って
枝の先には一輪の桜花が
風に揺れている
その向こうに待つのは
誰か、知らない




