32/100
冬の夕暮れは静かに
冬の夕暮れは静かに過ぎていく
音もない、風もない
道行く人たちはみな影になり
建物も街路樹も影になり
赤く染まる西空の手前には
大きな欅の木の梢の影絵が
静かに佇んでいる
文句一つ言わないで
夕暮れの空は移り変わっていくのが早い
あの空の彼方にはきっと
夜と昼の中間地点があって
そこでは永遠に夕暮れが続いていて
寒い日にだけ、ほんの少しだけ感じられる
そうやって空を見ていると
彼方から誘われる気がする
おいで
こちらへおいで
寒空を知る魂だけが
精霊の声を聞くことができるのなら
このままずっと聴かせていて
空が完全に暗くなって、夜になるまで




