1/100
朝靄の山桜から
夜明け前
東風が吹いて
桜の梢を通り過ぎていった
黎明の空には星がひとつ
ちいさな灯りは頼りなく
木々は青い影に沈みながら
夜が明ける時を待つ
夜色の霧が流れて
木の葉の上に雫がひとつ
水たまりに波紋が生まれた
東の空は朝の夢をみる
遠くで山鳥が鳴いた
一羽、また一羽
空色が変わっていく
宇宙の色から透明な蒼に
朝霧のたなびく谷の向こうには
桜林が広がり、鶯が渡る
朝の風が吹く頃になって
晴れた空を暁が照らす
朝の光が木々に影を落として
湖の水面にさざなみを生み
桜色に染まった山々から
薄紅色の風が吹いて
花は空に舞っていく
桜吹雪のなかに立って
手を伸ばして触れたひとひらは
そうして空に地に
さらさらと還っていった
桜の季節に奈良の吉野山に行ったときの記憶から。
実際は昼間に行ったので、とても混んでいて、とても観光地でした。