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Epilogue Side.B

「本当だ、美味しい……っ!」


 わたしは、サクサク食感のコーンに純白のアイスが乗った――そのソフトクリームをぱくり、一口。


 その瞬間、口の中に爽やかな甘味が広がって――わたしは幸せに包まれる。


 わたし、朝野(あさの)こむぎと、親友である風見(かざみ)つばめの二人は……前に約束していた、駅前にある美味しいと評判なソフトクリーム屋さんへとやって来ていたのだった。


「でしょでしょー? アタシ、こんなに美味しいソフトクリーム、初めて食べたよ〜」


「うんっ、仕事で疲れてたけど……なんだか一気に吹き飛んだ気がするっ」


 朝から、お店の手伝いがあったのももちろんだが……これは、同じ魔法少女以外、家族にも、つばめにも。誰にも相談することができない話ではあるのだが……やはり、()()()()で、私はすっかり疲れ切ってしまっていた。


 ただ戦うだけにも留まらず、諸刃の剣――『チャージ』。それも五つのコアによるもので、身体は酷使してしまったし、何度もやられ、痛みも経験して――いくら魔法少女の時に負った傷は変身を解けば治るとはいっても……大変だ。


 しかし、そんな疲れも、わたしたちで守り切ったこの日常へと戻れば――すっかり、吹き飛んでしまった。


 魔法少女によって脅かされたこの街、そして国――世界。圧倒的な強さの都市伝説、命岐(みわかれ)橋に、願いの為に、自分の命さえも掛けて戦った魔法少女、黒咲稀癒。


 そんな彼女らを前に、絶望さえしたが……再び立ち上がり、戦って良かった。わたしたちの日常を守り切ることができて、本当に良かったと、そう思う。


 ありふれた日常だけど――そのどれもが、わたしにとって大切な物なんだと実感した。元々分かっていたはずの事ではあるが、あの戦いを乗り越えて、さらに強く思うようになったのかもしれない。


「こむぎは仕事と学校を両立できて、偉いよなぁ〜。こっちなんて、毎日堕落しきった生活を送ってるって言うのにさー」


「そんなことないよ。わたしにとって、パンを焼くのは趣味みたいなものだし……。

 わたしのパンを食べた人が、笑顔になってくれたら。わたしのパンで、みんなに笑顔を届けられるんだって思えば、わたしはいくらでも頑張れるから」


 魔法少女だって。まだまだ、一人前の魔法少女とは言えないかもしれないけど……そんなわたしでも、誰かの笑顔を守れるんだと思えば、いくらでも力が湧いてくる。



「――ところでさ、こむぎ」



 急に――つばめの声は、いつもの笑い話をするトーンから少し下がって。


 ……真面目な話をする時の――真剣な眼差し、声、口調になって。


 それを聞いたわたしは、何故かは分からないが……どこか、()()()()()()()


「……ど、どうしたの? つばめちゃん」


 恐るおそる、それでも彼女に悟られないように――わたしは聞き返す。


 そして、こむぎは躊躇いなく――言葉を放つ。



「ねえ、こむぎ。――()()()()()()()?」



 つばめの、その言葉を聞いた瞬間。わたしは――電流が走ったような衝撃を受ける。


 そして、同様に――驚きつつも、わたしと違って冷静さを失う事なく、ただ――流れ作業のように動き出した、もう一つの姿があった。


 いつも、わたしの横で浮かび、魔法少女としてのわたしにサポートをしてくれるサポート役の……『サポポン』。


 わたしは瞬間的に、『マズい』……そう思った。一体、何をしようとサポポンが動き始めたのか、わたしには分からない。でも、止めないと――取り返しのつかない事になりそうな。そんな、悪い予感に襲われた。


 そう思った時には――既に、その口を開いていて。


 ――『BREAD(ブレッド)』――


 自身の魔法名を唱え――周りの人々の目も、ここまで、魔法少女のことを隠し通してきたはずだった親友を前にして、そんな事さえも気にも留めずに――


「――Convert(コンバート)ッ!」


 右手に武器――硬く、長いフランスパンを生み出して、サポポンの前へ立ちはだかる。そして、そのフランスパンで――つばめの元へと向かうサポポンを、受け止める。


「サポポンッ! つばめちゃんは――わたしの親友なのっ! お願い、やめて――!」


『魔法少女の事を知られてしまった以上、()()()()()しかないんだ。分かってくれるよね、こむぎ』


 パンの見た目をしたサポポンと、魔法少女であるわたしが――時間が極限までにゆっくりと流れるこの世界で、互いに向かい合う。


「『記憶を消す』――って、何の記憶を消すつもりなの!?」


『「魔法少女」という単語と、それに繋がる――こむぎ。キミに関する記憶、全部になるかな。これも、世界を守るためなんだ。分かってほしい』


「……そんな……。そんなこと――無理に、決まってるっ!」


 フランスパンへと、さらに力を込めて――わたしへ。その背後で動かない、つばめの元へと向かってくるサポポンを、そのまま弾き飛ばす。


 見た目はフカフカのパンのようで、この手で実際に触ったことはなかったが……彼は、想像以上に硬かった。


 なんとかして、この状況を打破しないと。――焦り、ついわたしは、なんの考えもなく――

  

「待って、サポポンっ! わたしに考えがあるんだけど!」


『……聞こうじゃないか、こむぎ』


 追い詰められたわたしは、咄嗟に考え――後のわたしとつばめの、運命を変えてしまうきっかけとなる――とんでもない事を口走ってしまう。


「――もし、こむぎちゃんも魔法少女になったら……魔法少女についての記憶を消さなくても、いいんだよね?」


『……面白い提案だね』


 サポポンは――一言。笑みも含めたようなその声で、わたしと――その後ろで静止する少女、『風見(かざみ)つばめ』へと告げる。

 ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます……!

 もしこれからお読みになるという方は、少しネタバレがあるのでご注意を……!


 

 最後の展開から察していただけるように、この物語は少なくとも、あと一作品分。続く予定です。


 ただ、同じ一つの作品に纏めなかった理由がありまして、それは本作『魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。』を書く上で意識したこと、に繋がってきます。


 本作、そしてまだ筆を取ってはいませんが、次作、そのさらに先の『魔法少女。』シリーズ(一応このシリーズの略称のつもりです!)を書くうえで意識したのは、一作品におけるメインキャラを決めて、そのキャラについて掘り下げる、といった事を意識しました。


 今回であれば、タイトルにもなっている魔法少女、朝野こむぎが魔法少女になってから、命岐橋、黒咲稀癒という強大な敵を仲間と共に倒すまでを一作品として、描きました。


 一人称が基本こむぎ視点である事から、比較的わかりやすく仕上がっている……と思います。


 ちなみに、次作のタイトルはまだ確定していませんがメインキャラはもちろん『風見つばめ』です。なので、物語としての繋がりは本作とはありますが、根本的に違います。


 次作では風見つばめ視点で、彼女をより深く掘り下げていきたい。そう思ったので、わざわざナンバリングもせずに、別作品として書こうと決めました。



 では、風見つばめの物語から読んだら話が見えず、面白くないんじゃ……? そう思うのが当然かと思います。が、同シリーズではありますが別作品。ということで、どの順番から読んでも楽しめるように、逆行しても、バラバラの順番で読んでも楽しめるように、このシリーズはまったりと書き続けていきたいと思うので、気長に待っていただけると嬉しいです。


 次シリーズの連載開始、目標は四月……と言いたいところですが、個人的に色々と忙しかったりするので、六月までには公開できればな〜と思います。


 ここまで読んでくださった方々に、心から感謝を。本当にありがとうございました。――束音ツムギ

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