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5.

「なんだったんだろう……?」


『さあね……。とにかく、こむぎが無事でいてくれてよかったよ』


 まるでゲリラ豪雨のように過ぎ去っていった、初めての戦いを終えて――気になることもまだまだ多いけれども、わたしはひとまず、危険が去って行ったことに安堵する。


 気になるといえば、あの黒髪の女性――わたし以外の魔法少女。『947』――そう、一言だけ呟き、去っていった。あの数字は……何かを数えていたのだろうか?


 そして、何やら白い『石』を集めていたようだった。彼女が数えていたというのは、きっとそれのことだろう。


「サポポン。あの大きな包丁を倒したときに出てきた、白い石……あれって?」


『うん? ……ああ、「コア」のことだね。あれはネガエネミーの中核であって、その体を形成するためのエネルギー体。人間でいうところの栄養みたいなものさ。

 その、コアが落とした内なるエネルギーを集めてくれれば……ボクがなんでも、好きなものを作り出すことができるんだ』


「……なんでも?」


『そう。欲しかった服でも、読みたかった本でも。この世に存在する物なら()()()()生み出せるよ。

 ボクたちサポポンの目的は、ネガエネミーの魔の手から人々を守ることだけで、そのエネルギー自体は必要としていない。だから、魔法少女に「報酬」という形で還元してるんだ』


 文字通り、欲しいものなら()()()()――生み出すことができる。これが、魔法少女として危険を冒し、戦うことに対する対価……ということらしい。


 つまり、彼女は何か『目的』があって。さらに言えば、手にしたいものがあって。コアを、エネルギーを集めている。そういうことなのだろうか。


 その過程でたまたま、わたしが助けられたようになっただけであって、彼女には助ける気は特になく――ただ、それを集めていただけの事だった。……そういうことだろうか?


「サポポン、どう思う?」


『きっとそうだろうね。……まあ、魔法少女みんながみんな、こんな感じって訳じゃないから……あまり深く考えない方がいいよ。たまたまあの魔法少女がそういう人だった。それだけのことだからね』


 魔法少女とは言っても、色々な人がいるのだろう。周りだって、学校だって同じだ。……そう思い、これ以上、あの魔法少女について考えるのはやめることにした。


 ……そもそも、わたし自身に色々とありすぎて……自分のことだけで精一杯だ。



 ……そんな話をサポポンとしながら、わたしは空を飛び、家路へと向かっていた。


 今日は色々とあって疲れただろうし……と、今日はもう切り上げて、家へと帰ることになったのだった。


 実際、こんなにも疲れ果てたわたしなのに……あの瞬間、光に包まれて魔法少女へとなった瞬間から、実際にはたった数秒しか経っていないというのだから驚きだ。


 魔法少女になっていると、非現実的な価値観と共に、時間感覚まで狂ってしまいそうだ。


「……っていうか! わたしの能力……『自由に、どんなパンでもその場で焼くことができる』って、こんなのでどう戦えっていうの!? もっとさ……火を出したりとか、強くて魔法少女らしい能力がよかったんだけど!」


 話は変わる。……わたしに与えられたニッチすぎる、戦闘にどう生かせば良いのかわからない、そんな固有能力についてだ。


『自由に、どんなパンでも焼くことができる』――あの時はとっさに、巨大なフランスパンを焼き上げて武器にしよう、と考えたが……どうも、クセが強すぎるその魔法に、疑問があった。


『ごめんよ、こむぎ。今……魔法少女界は()()()()なんだ』


「……ネタ切れ?」


 突然出てきた『ネタ切れ』という、今までとは違って言葉自体は知っているが、その意味が会話に結び付かないような……そんな単語に、頭にハテナマークが浮かぶ。それについて考える間もなく、サポポンが説明を始めた。


『固有能力は、一つの能力につき一人まで。魔法の力を与えるときの「原則」なんだ。そして、こむぎは1501人目の魔法少女。ここまで魔法少女が増えると、能力もネタ切れになってきてしまったんだ』


「でも……それにしても。なにかもっと、戦えそうな能力はなかったの……?」


 炎とか、風とか――魔法少女らしい、メジャーな能力は残ってなかったとしても。もう少し、戦いやすそうな魔法はなかったのだろうか……そう思うわたしに、サポポンは、


『こむぎなら大丈夫だよ。さっきは相手が悪かっただけで……あんな大きなフランスパンを焼いて戦うなんて、あの一瞬じゃ、そうそう思いつかないよ。そんな柔軟な発想ができるこむぎなら、この能力だって使いこなせるハズだよ』


「……そうなの、かなあ……」


 なんだか上手く丸め込まれたような気もするが……こうして、わたしの――『魔法少女』としての生活は、どこかモヤモヤとしたまま、幕を開けたのだった。

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