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2.

『Hartz Darkness Illm Natel【CHANDELIER】――Convert――』


 完全なる虹色へと変貌した黒咲稀癒は、まるで別の次元から放たれるような――そんな透き通る声で詠唱する。


 そして、天上から……ゴゴゴゴゴゴゴゴ――ッ! と、色鮮やかでカラフルで、煌びやかな装飾が施された、一般的な部屋に吊り下がっていればそれだけで部屋が埋め尽くされてしまうほどに大きな『シャンデリア』が降りてくる。


 瞬速で飛び上がり、それに飛び乗った虹色に光り輝く彼女は――


『ああ……想像以上よ……。これなら――この国ごと滅ぼしてしまえば、何処の誰かも知らない私の復讐ですら達成出来るかもしれない』


 表情さえも、虹色に塗りつぶされてこちらからは見えないが――その声はとても、楽しそうだった。しかし、五百もの悪意、感情を取り込んだ今、本当にそれが彼女の感情であるのかさえ、定かではない。


『その前に――貴方達を殺す。復讐じゃない。こんな下らない事じゃない――私の本当の目的を潰した張本人を、このまま放っておくなんて……我慢、出来ないッ! アハハハハハハッ!!』


 様々な感情が入り混じりながら、虹色の彼女はそう叫んだ。そんな彼女を見て、わたしも。八坂さんも、氷乃さんも――『本当に殺される』、そう悟っただろう。


 魔法少女が怪我を負ったり、最悪死んでしまっても、魔法少女としての死だけであり、実際の自分が死ぬ事はないし、怪我だって元の姿に戻れば治る。


 ――しかし、魔法少女としての死を迎えたその後。そこへ一撃入れられてしまえば、それは儚い命。


 相手が魔法少女にしか見えないネガエネミーならば、魔法少女ではなくなった()魔法少女をネガエネミーが認識し、さらに殺すことなんてないだろう。しかし、相手がもし、人間なら……? 相手に殺意さえあれば、()()()()()()()。手も足も出ない間に。


『アハッ――』


 その笑い声と共に。


 シャンデリアの装飾、先が尖った虹色のガラスが一つ。――シュッ! と銃弾のように放たれる。それはわたしの左腕へと突き刺さり――


「――ぐあああああああッ!?」


 患部に激しい痛みを残して、その場でさらにパリンと破裂する。破裂したガラス片が、さらに広範囲に広がり、さらに深く突き刺さり――連鎖的に、痛みが膨張していく。


「――朝野さんッ!」


 わたしの腕から出血するのを見て、駆け寄った八坂さんに向けて、再び――煌びやかなシャンデリアから、虹色のガラスの尖った装飾が放たれる。


 その前に立ちはだかったのは、氷乃京香。その右手には、この間に生み出した赤く三角形の標識が、刀のように握られていた。


 そこに書かれているのはもちろん――『止まれ』。


 赤い標識は、虹色のガラスをピタリと止めて……そのまま振り落とす。


「朝野さん、申し訳ございません。完全に油断しており……間に合いませんでした」


「だい、じょうぶ……。何とかして、黒咲さんを止めないと……」


 このままでは、わたしたちは本当に死んでしまう。そして、五百ものコアのエネルギーを取り込んだ彼女は、『国ごと滅ぼそう』……そう言った。もし彼女が本気でそう思えば、それはきっと現実となってしまうだろう。そんな事、絶対に……させてはならない。


 目の前の敵は、今も虹色に輝きながら、大きなシャンデリアの頂点に立ってこちらを見据えている。


 本当に、あの魔法少女を止めることなんて、出来るのだろうか?


 幸い、と言うべきか……敵は、本気を出していないように見える。あの余裕。もし彼女が本気を出していれば、わたしたちは既にここに立っている事さえ出来ていないはず。


 圧倒的な強さから来る慢心か、より苦しめてからわたしたちを殺そうとしているのか……。どちらにせよ、完全なる実力差の前で、それが唯一の突破口となり得るのは変わらない。


『Thirt all Mistue Delive【BOTTLE(ボトル)】——Convert――』


 氷乃さんに続けて、八坂さんもわたしの前で口を開き、詠唱を始め――中身の詰まったガラス瓶を次々と生み出していく。


「……わ、わたしも……!」


 痛む腕を上げ、胸に手を当て、目を閉じ――続けて。


『――Deliele Ga Full Flowa【BREAD(ブレッド)】――Convert(コンバート)――っ!』


 詠唱と共に、あのシャンデリアにも負けないほどの――大きな、みんなを護る壁となる『一斤の食パン』が目の前に焼き上がる。

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